財布に溜まった小銭をスーパーなどの支払いで全て使う。スーパーやコンビニで広がりつつあるレジ台横に置かれた自動精算機での支払い時、そんな使い方をする人たちがいるようだ。

「自動精算機ではまず、財布に入った小銭を全て入れてしまいます」と話すのは、都内に住むJ子さん(40代)。この女性によれば「小さな買い物は全て電子マネーで済ませるため、小銭が溜まりがちです。自動精算機は財布をひっくり返して、そのまま全部入れてしまっています」。

ところが最近、J子さんがよく行くスーパーで「硬貨は最大30枚まで」という注意書きが貼られるようになった。

銀行が従来無料だった大量の小銭の預け入れや払い込み時、枚数によっては手数料がかかるようになったことで、意図的に自動精算機で小銭を使う人もいるという。もし仮に精算機で「30枚まで」という注意書きを無視して使用し、故障させてしまった場合、刑事・民事で法的責任を問われる可能性はあるのだろうか。鈴木淳也弁護士に聞いた。

●枚数制限「小銭は全部で20枚まで」は誤り

——小銭を使用する際、枚数制限などはあるのでしょうか。

小銭の枚数に関連する法律として、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」があります。同法7条は、「貨幣は、額面価格の二十倍までを限り、法貨として通用する」と規定しています。ここでいう「貨幣」とは、硬貨のことです。

この規定は、硬貨の枚数が多すぎると、受け取る側の計算や保管に手間を要し不便であるからそうならないように一定の制限を設けたものですので、店側が枚数制限を設けず受け取るというのであれば、20枚を超えて使用しても問題ありません。

また、この制限は、「貨幣全ての枚数が20枚まで」ということではなく、「貨幣の種類ごとに20枚まで」ということです。たとえば、1円玉20枚、5円玉20枚、10円玉20枚、50円玉20枚、100円玉20枚、500円玉20枚、計120枚で合計額1万3320円を支払おうとしても枚数制限内です。

一方で、契約自由の原則がありますので、店側が事前に支払い方法を決めることは可能です。たとえば、「硬貨は使えません」「硬貨は●枚まで」といった条件を提示することも可能です。

今回のケースでいいますと、店側が「硬貨は最大30枚まで」という条件を設定することは問題ありません。逆にいいますと、それを超す枚数の小銭を精算機に入れることを禁止する旨明示していることになります。

——注意書きを無視して使用し、故障させてしまった場合はどんな責任を負うことになりますか。

利用条件に反して大量の小銭を投入してそれが原因で故障させてしまったのであれば、不法行為が成立し損害賠償請求が認められる可能性があります。

ただし、30枚を超す小銭の投入と故障との間の因果関係は店側が立証しなければなりません。

——刑事責任についてはどうでしょうか。

刑事上は「器物損壊罪」が成立しないかが問題となります。

器物損壊罪は、他人の物を損壊した場合に成立します。「損壊」とは、物の効用を失わせることです。

精算機の故障というのは、精算機の効用が失われている状態ですので「損壊」といえます。前述の損害賠償の件と同様に、小銭を投入したことによって故障したといえる因果関係が必要となります。

また、器物損壊罪が成立するためには故意が必要です。小銭の投入により、精算機が故障することを認識・認容していたことが必要となります。

単に投入した枚数だけではなく、投入の方法などによっても故障するかどうかが変わってきますので、故意が認められるかどうかは、どの様な小銭でどれだけの枚数をどのような方法で投入したかといったことが重要となってきます。

たとえば、通常の方法で31枚の小銭を投入したところ故障したというだけであれば、故意が認められる可能性は低く、因果関係があるかどうかも疑わしく、器物損壊罪は成立しないでしょう。

【取材協力弁護士】
鈴木 淳也(すずき・じゅんや)弁護士
第一東京弁護士会所属。大学時代は理学部に所属し、地球温暖化システムについての研究をしていた。しかし、多くの人と触れ合い、広く社会の役に立てる仕事に就きたいと考え、決まっていた就職を辞退し、司法試験を目指すことに。気象予報士の資格を持つ理系弁護士として、民事・刑事を問わず困っている人に寄り添う弁護活動を行う傍ら、お天気情報をブログで発信している。
事務所名:鈴木淳也総合法律事務所
事務所URL:https://law-sj.com/