東京電力福島第一原発事故をめぐり、旧経営陣5人が津波対策を怠ったとして賠償を求めた株主代表訴訟の判決が7月13日、東京地裁であった。朝倉佳秀裁判長は4人の責任を認め、13兆3210億円の賠償を命じた。

判決では、原子力事業者の義務を「最新の知見に基づき、万が一にも事故を防止すべき」と示した。国の予測を元に計算された最大15.7メートルの津波予測を信頼できるものとした上で、旧経営陣がこれらのデータの検討を先送りしたことなどを厳しく指弾している。

未曾有の災害が発生した責任を、一企業の経営陣が負えるのか。そもそも、過去最高とも言われる賠償額を、役員個人が払えるのか。会社法に詳しい島田直行弁護士に聞いた。

●旧大和銀行巨額損失事件の829億円をはるかに超える

一般論として取締役は、任務を怠ったことで会社に損害を与えた場合に賠償責任を負担します。こういった責任制度の趣旨は、会社の損害の回復と取締役の任務懈怠の抑止にあるとされます。こうした取締役の責任は、会社が追及することになります。もっとも会社と取締役の関係が密であるため、会社が取締役に対して責任を追及しないことも予想されます。これでは会社の所有者である株主にとって納得できないでしょう。そこで会社に代わって株主が取締役の責任を追及する方法として、株主代表訴訟があります。

株主代表訴訟では賠償額が高額になることがあります。これまでは、旧大和銀行巨額損失事件の一審で約829億円の損害賠償が命じられたことが話題となっていました。これと比較しても今回の認定額がいかに巨大なものであるかよくわかります。

請求額が巨額になる理由のひとつとして、裁判にかかるコストが低額であることが指摘できるでしょう。一般的に訴訟を提起する場合には、原告は請求額に応じた手数料を裁判所に納める必要があります。

例えば10億円を請求する場合には302万円を要します。ですが株主代表訴訟においては、請求額に関係なく手数料は一律1万3000円とされています。そのためコストを気にせずに請求をすることができるわけです。

●役員の賠償保険では全額カバーできず 

この13兆円は、原告である株主に対して支払われるわけではありません。あくまで東電に対して支払われるべきものです。もっとも判決における賠償額の認定と現実の回収の成否は次元の違う話です。現実的に言って13兆円といった巨額の賠償金を個人で支払うことはできないでしょう。

取締役の賠償責任に対しては、会社役員賠償責任保険(通称D&O保険)というものがあります。取締役が責任追及された場合のリスクを引き受ける保険です。ただし保険会社としても無限の責任を引き受けることはできないため、上限10億円など支払限度額が設定されています。今回の賠償額は想定外の金額であるため、保険で全額カバーできるとは到底考えられません。

東電は、取締役の個人資産を対象に回収できる範囲で回収していくことになります。これに対して取締役は、免責を求めて裁判所に破産の申し立てをする可能性もあります。あるいは債権者である東電において、債権回収のため取締役に対する破産の申し立てをすることも可能です。

●過大な責任を負わせるべきか、議論深める機会に

具体的な方針は回収の可能性、回収にともなうコストなどを総合的に考慮して決めていくことになるため現時点で予測することは困難です。取締役の責任を追及することは、株主の利益を間接的に確保することになります。

ただし同時に、あまりに過大な責任を負担させることは取締役の活動を委縮させる危険もあるとされています。そのバランスのとり方については、今回の判決を受けてさらに議論を深めていくことになるのではないでしょうか。

【取材協力弁護士】
島田 直行(しまだ・なおゆき)弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(いずれもプレジデント社)、『院長、クレーマー&問題職員で悩んでいませんか?』(日本法令)
事務所名:島田法律事務所
事務所URL:https://www.shimada-law.com/