日本のプロバスケットボール・Bリーグ2部の愛媛オレンジバイキングスは7月1日、庄司和弘氏のヘッドコーチ(監督)就任を発表した。2020-21シーズン以来の再登板となる。

再登板ということは一度降板しているということになるが、降板の理由は庄司監督の選手に対する暴力行為によるものだ。

筆者は2009年からNBAを現場取材しているが、バスケットボールの本場であるアメリカ合衆国で、この種の問題を起こした監督が復権することなどあり得ない。

実際のところ、あらゆるスポーツの指導者、学校の教壇に立つ人間が、「暴力イコール犯罪」と叩き込まれており、拳を振るうようなコーチにはまずお目に掛からない。

日本の男子バスケットボールは昨年の東京五輪で1勝も挙げられなかったように、お世辞にも世界レベルとは言えない。世界最高峰のNBAにおいて暴力コーチの存在が確認されないというのに、何たる体たらくかと嘆かざるを得ない。(ノンフィクション作家・林壮一)

●暴力・暴言あったと認定も「3カ月間の職務停止」処分

Bリーグの発表によると、庄司監督は2020年8月頃、所属選手のみぞおちを殴打。その数カ月後にも、同じ選手に左肩を6回殴打したという。さらに、他の選手にも暴言を繰り返していたことも明らかにされている。

庄司監督の暴行・暴言は、Bリーグが設置した通報窓口に寄せられた情報によって発覚した。一見、Bリーグが設けた目安箱の効果と映る。しかし、Bリーグは2021年4月、庄司監督に対し、「3カ月間の公式試合に関わる職務全部の停止」という処分しか下さなかった。

オレンジバイキングスも同月、「3カ月間、月額報酬を30パーセントカット」の処分を下すにとどまり、2021年7月にはアシスタントコーチとして復職させている。つまり3カ月が過ぎれば、暴力を振るった者でも現場復帰が可能と示したのだ。

愛媛オレンジバイキングス・庄司和弘ヘッドコーチ(チーム公式HPより、https://orangevikings.jp/news/keiyaku220701_1)

2016年に産声を上げたBリーグだが、既に香川ファイブアローズ、島根スサノオマジック、そして愛媛オレンジバイキングスで暴力指導が露見しており、尋常ではない倫理観が蔓延っている。

●「我々の頃はもっと厳しい指導を受けましたよ」

2012年12月23日、大阪市立桜宮高校で男子バスケットボール部のキャプテンを務めていた17歳の少年が、監督からの暴行に耐え切れず、自らの命を断った。前日に行われた練習試合の最中、同高の監督は、コートに入ってキャプテンを追い回し、20数発もの平手打ちを浴びせている。それが強くなるための指導だと認識していたそうだ。

後にこの監督には、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決が言い渡され、遺族から損害賠償を請求された大阪市には、7500万円の支払いを命じる判決が下された。

同校の事件直後、筆者は某月刊誌でこの事件に関する記事を書いたが、その取材過程で、監督の大学の先輩で一般社団法人近畿バスケットボール協会会長だった男性との会話が忘れられない。

彼は悪びれた様子もなく、「我々の頃はもっと厳しい指導を受けましたよ。あの監督は、非常に熱心な男なんです」と言ったのだ。

日本独自の価値観で指導者面している人間が蠢いているのが、日本のバスケットボール界だ。未来ある若者を、二度と追い込むことがないよう、同じ悲劇を繰り返さぬよう努める必要があるにもかかわらず、そんな意識を持つバスケットボール人は、我が国においてごく稀だ。

●「リーグもチームも非常に甘い」

加藤博太郎弁護士(本人提供)

部活動における暴力指導の被害者と接した経験を多く持つ加藤博太郎弁護士は、庄司監督の再登板について、「被害を受けた選手は、監督を敵に回したくないという思いがあるのでしょう」と話す。

「私も10代の若者が、顧問から暴力を振るわれたという相談をよく受けていた時期があります。でも、被害者はなかなか声を上げられないんです。

相談者の中には骨折している方もいましたが、メンバーから外されることが怖かったり、試合に出してもらえなくなると委縮してしまって、結局のところ、顧問がやりたい放題なんですね。そういう点をしっかり正さねばならないと思います。

客観的に見れば、選手は監督に抵抗できないじゃないですか。抵抗できない立場の者に対して暴力を振るうというのは、指導ではなく、単なる犯罪行為です。つまり、傷害罪であって、懲役刑となる可能性も十分にあり得ます」

加藤弁護士は、刑罰を受けた場合に免許や資格を失う例を挙げ、スポーツ界の"甘さ"を指摘する。

「たとえば、不動産業者が暴力事件を起こして罰金刑を受けたら、宅地建物取引士の免許を失います。弁護士だって傷害罪で懲役刑となれば、弁護士資格を剝奪されます。多くの職種において、暴力事件を起こして罰を受けた場合、その立場にはいられなくなります。

我々はそういったルールの中で生きているのに、スポーツ界だけ法律の外でいいのか、という問題ですね。リーグもチームも非常に甘い。社会の理解も得られないでしょう。暴力指導が相次ぐ日本という国は、常識を逸脱していますし、世界から見たら笑いものですよね。

日本の男子バスケットボールは、世界レベルにもなっていないですし、日本の他業種でさえ資格を失って戻ってこられないところを、また監督に据えてしまうというのは、あり得ない話です。しかも、たった3カ月の罰で反省させたということにするのなら、むしろ暴力を振るってもいいんだということを示してしまう結果になると思います」

●暴力振るう指導者は「業界からの追放も検討すべき」

庄司監督の暴行が公となった頃、筆者はオレンジバイキングスの現代表取締役に対し、以下の内容の質問状を送ったことがある。

(1)被害者が警察に届け出なかったとはいえ、これは犯罪行為です。このような人間をなぜプロチームのヘッドコーチに据えたのか、その経緯をご教示ください。

(2)庄司ヘッドコーチは「反省し、厳粛に受け止めたい」と話しているそうですが、NBAにおいてこの類の暴行が認められた場合、監督は事実上、永久追放となります。減給処分では甘すぎると感じますが、御チームの見解をお聞かせください。

(3)NBAと比べ、人としての姿も技量も育成も、見るに堪えないレベルでの展開をなさっていますが、このような事件でさらに御チームの質が問われたように感じます。「バスケットボールを通じて、愛媛に関わる人々に夢・希望・感動を提供する」という言葉は、単なる謳い文句であって、偽りだったのでしょうか? 真意をお聞かせください。

だが、「第三者を入れた調査を進めております。調査の結果を踏まえた再発防止策の提言を、当社ホームページ等で公表させて頂く予定としておりますので、そちらをご覧頂ければと思います」という回答しか得られなかった。

加藤弁護士は「暴力を振るう人は繰り返す」と話す。

「また同じような被害を生じさせてしまうのではないでしょうか。暴行を受けた側は警察に被害届を出し、是非、弁護士に相談すべきだと思います。

もし、私が被害を受けた方からの依頼を受けた場合、庄司氏とオレンジバイキングスに損害賠償を請求しますよ。庄司氏のケースでは、選手が6回も殴られていますね。

ケガをしたか否か、心的外傷がどの程度のものかはわかりませんが、傷害事件ですから社会的影響も考慮して100万円以上を請求することになるように感じます。

傷害事件の相場はだいたい50万円程度ですが、複数回行われている点、繰り返し行われている点、選手側は活動をし難くなっている状況もあるでしょうし、活動できなかった期間が生じたのなら給与損害も含めますね。

また、暴力を振るう人間をヘッドコーチに就任させ、安全配慮義務を怠ったオレンジバイキングスも法的責任を取らなければならないです。

被害者が泣き寝入りしてしまうから、暴力問題が消えないという面もあるでしょう。暴力問題を起こした監督というのは指導者として失格なので、そういった人に関しては指導者業界から追放していくという厳しい動きを取る必要があると思います」   何度でも言うが、暴力は犯罪だ。バスケットボールの本場で、こんな指導をする人間は二度と現場に立てない。日本社会は今一度、桜宮高校男子バスケットボール部のキャプテンがどれだけ心に傷を負ったのか、遺族がいかなる思いで少年の亡骸と対面したかを考えるべきではないか。

【筆者プロフィール】林 壮一(はやし そういち):1969年生まれ。東京大学大学院情報学環教育部終了。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するが、左肘のケガで挫折。1996年渡米。ネヴァダ州リノ市の公立高校で講師を務めるなど、教育者としても活動中。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』(光文社電子書籍)『ほめて伸ばすコーチング』(講談社)など。