アマゾンの下請け業者(デリバリープロバイダー)を通じて、配達業務にたずさわる配達員たちのあいだで、労組結成の動きが全国的な広がりを見せている。

神奈川県横須賀市内の配達員ら10人が、長時間労働の是正や荷量の適正化などを求め「東京ユニオン アマゾン配達員横須賀支部」を結成したのは6月のこと。その3カ月後の9月4日には長崎市内で、同様の過酷な労働環境で働くアマゾン配達員ら15人が、労組結成を発表した。

このほか現在、関東地方の2地域でも、結成に向けての準備が大詰めを迎えていたり、「どうやったら労組を作れるのか」「作ったらどうなるのか」といった相談が相次ぐなど、関心が高まっている。

アマゾン横須賀支部の結成を呼びかけた50歳代の男性に、いま現場でなにが起きているのかを聞いた。(ライター・今川友美)

●疲れがたまって、休日は寝てばかり

「いつもだったら、この時間は、妻に起こされて一度朝食を食べて、すぐまた寝ちゃってるところなんです」

8月下旬の土曜午前中、横須賀市内のファミレスでの待ち合わせに現れた男性は、顔に疲労の色をにじませながら、自虐的にそう自己紹介した。

3年前、求人を探していたら、ネットでたまたまアマゾン配達員の募集を見つけた。初めは週5でシフトに入っていたが、昨秋、疲れと焦りが原因で事故を起こして以来、週4に変更した。

この日は休日。土日の休み以外に、水曜を中休みとしたところ、だいぶ体が楽になった。だが、「昼ごはんも妻に起こされ、また寝て、夕方、再び起きるとやっと活動できるようになるんです。これじゃ休日が休日になってないですよね」と、慢性的な疲れに依然、悩まされている現状を語った。

●「このまま続けたら、倒れるか事故を起こす」と打ち明けた翌日に事故

事故は、昨年の9月初めのことだった。6月に配送ルートの選定にAI(人工知能)が採用されて以来、1日平均110個前後だった荷量が急増し始めているときだった。多いときで、休憩もとれないまま午後10時近くまで、1日250個以上を配り続けなければいけない日もあった。

疲れがピークに達していた午後6時半。この日の荷量は180個だった。「あと30個配れれば、きょうは珍しく午後8時前には帰れるかな」。そんな焦りも加わったのかもしれない。

住宅街の坂道に停めたはずの軽バンが、突然坂を下って動き始めた。軽バンは、近くに停めてあった車に激突し、その向かいの壁にぶつかって止まった。その瞬間、ドライブを入れっぱなしにしたことに気づいたが、時すでに遅しだった。

軽バンの後ろの窓ガラスはすべて割れたが、たまたま壁にぶつかって止まったのは不幸中の幸いだった。「このまま無人の車が坂を転げ落ち、幹線道路に突っ込んだり、塾帰りの子どもやお年寄りを巻き込んでいたりしてもおかしくなかった。いま自分はここにいないと思うと、ぞっとする」

奇しくもその前日、妻に弱音をこぼしたばかりだった。増え続ける荷量による疲れで「おれ、このまま続けたら、倒れるか事故を起こすかもしれない。もう限界だ」と。

現実的に仕事を辞めたら生活がたちいかなくなるため、自分に鞭打つための弱音でもあった。だが、まさかそれが現実になってしまった。

●人命を軽視する姿勢に怒りを感じ、労組結成を決意

個人事業主として扱われているので、保険料や修理代などは自己負担だが、日当1万8000円の報酬の合計からガソリン代や車の維持費などを引き手元に残るのは月22万円の男性には痛い出費だった。

もちろん、自分が起こしたミスなのは、まぎれもない事実で、悔やんでも悔やみきれないほど反省をしている。だが、事故直後、連絡した会社から、1日2000円の代車が貸し出されただけだった。

「配達員の命の心配よりも、荷物のこと、シフトに穴があくことしか頭になく、まったく関係ありませんという態度に、憤りを感じずにはいられなくなった」

それが、男性が労組結成を思い立ったきっかけだ。

●労組結成は無理と諦めていたが…

とはいえ、労組といっても、配達員らはみな、組織に属さないばらばらな個人事業主同士のため、最初は無理だと諦めていた。

だが、配達終了後の倉庫で一緒になった配達員に、自分の経験や思いを打ち明けたところ、「自分ものっかりたい」と言う配達員が、一人ふたりと徐々に増えていった。「これならいけるかも」と手応えを感じた。

ほかの配達員も、疲労や焦りから人を巻き込む重大事故を起こしていたり、会社から呼び捨てや「ジジイ」などという呼び名で呼ばれたりと、決して対等な関係性とはいえなかった。また、リスクだけを一方的に背負わされ、人間らしくない働き方の実態が、次々と明らかになっていった。

共通しているのは、AI導入により、効率化するばかりか、日本の左側通行や坂道などをまったく考慮せずに、一方的に荷量や配送ルートなどを指示されることで、かえって効率が著しく下がり、荷量も急増し、過酷な長時間労働を強いられていることだったという。にもかかわらず、それに見合わない報酬が固定化されている問題があった。

男性は、「偽装請負という脱法行為にほかならず、言語道断。なかには住み心地がいい配達員もいるかもしれないが、紛れもない違法行為であることを、業界全体に浸透させていかなければいけない。世界的な巨大なリーディングカンパニーにたいして、一人では聞き入れてもらえないことも、数の力によって正論で訴えていく」と強く語った。

●菅弁護士「まん延する偽装請負、組合の組織化を広げて解決を」

労組を支援する菅俊治弁護士は、「物流業界ではアマゾンが日本に上陸する以前から、偽装請負は古くからまん延してきた」と説明する。

他業界では見直しの動きが進んでいるにもかかわらず「労働法を守らずに、賃下げや、使用者のコスト削減のために、個人請負のかたちを利用する手法が悪質、巧妙化している」と、近年の物流業界で突出しておこなわれているコストダウンの競争激化による弊害を語る。

ことし1月、アマゾン配達員に業務委託をおこなう丸和運輸機関(埼玉県吉川市)が春日部労基署から、「事実上の雇用関係がある」として是正勧告を受けたことは記憶に新しい。

菅弁護士は、是正勧告への一定の評価を示したうえで「『是正したからいいでしょう』というアマゾンの常套手段を許さないためにも、第三者機関の利用だけに終わらせないことが大切だ。是正の内容は限定的なものなので、実際に職場のなかで組合を広げていかないと、いつまでいたちごっこになる」と根本的な解決につながらない懸念を示した。

そうしたことからも、菅弁護士は「現在数十人規模の労組の組織化を進め、各都道府県に作っていきたい」と今後の方針を述べた。「配送センターのなかでの組合の組織化が広がれば、団体交渉で解決するだけの力も示せるし、ストライキもできる」と数の力で訴えていく重要性を示した。

個人事業主間で温度差があることについては「配達員のなかには、事実上の指揮命令を受けていても、個人事業主だと思い込まされている部分がある」と菅弁護士は言う。「そういう方々にも、時間をかけて、客観的に見たら労働者性があること、労働者としての権利を行使、実現することが要求を実現するうえで大切なことを、時間をかけて説明していきたい」と語った。

横須賀支部では、アマゾンおよび一次下請けとの交渉をすでに開始している。アマゾンは「使用者」にはあたらないとして一切の交渉を拒否しているほか、一次下請けは、事実上交渉には応じているものの、配達員は「労働者」にはあたらないという姿勢を依然、貫き続けている。