精神科病院での「身体拘束」の要件が見直される方向性のとりまとめがなされたことを受けて、身体拘束に反対する当事者らは9月22日、厚労省に要望書を提出して、身体拘束の実施が容易になる事態とならないよう、要件が「改悪」されないことを求めた。

●30年改変のなかった拘束要件が見直される

精神科病院での身体拘束の要件は、厚労省の処遇基準告示に規定がある。自殺のおそれといった切迫性などの要件が求められ、ほかに代替手段がない場合に限定されている。

厚労省の有識者検討会は今年6月、その要件などの見直しに向けた報告書をまとめた。

その報告書では「多動又は不穏が顕著であって、かつ、 患者に対する治療が困難であり、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶおそれが切迫している場合」と、新たに「治療が困難であり」という要件などの追加が提案された。

今回、厚労省に要望書を提出したのは、精神科病院で身体拘束を受けた当事者(賛同者179団体)らだが、これまで存在しなかった「治療」という概念に著しい危機感をもっている。

●司法判断を行政が歪めようとするもの

この日の記者会見では、反対の声が上がった。

身体拘束の問題に取り組む佐々木信夫弁護士は「同意のない治療は法的な原則としてできない。しかし、日本の法令が、『治療のために身体拘束してよい』と明文化して認めてしまうことになる。時代を揺るがすような改変だ」と説明する。

2021年10月には、身体拘束によるエコノミー症候群で亡くなった患者の家族が、病院に損害賠償をもとめた裁判で、約3500万円の支払いを認めた2審名古屋高裁金沢支部判決が確定した(最高裁が病院側の上告を退けた)。

この決定の翌月には、反発した日本精神科病院協会が「判決は到底容認できない」「適切な治療のために必要」などとする声明を発表していた。

身体拘束ゼロを呼びかける杏林大学の長谷川利夫教授は「治療」の要件が追加された場合、上記のような事件でも身体拘束が「適法」と判断されてしまう可能性があるなど、司法への影響も指摘する。

「病院に非常に有利になる。医療側の裁量を広げることにほかならない。司法の動きとは逆行するようなことを行政がおこなおうとしている」(長谷川教授)

●身体拘束を受けた女性「治療ではなく、心身の状態を悪化させる」

過去に15日間の身体拘束を受けた大堀尚美さんも会見に出席した。

「身体拘束は治療ではなく抑圧抑制であり、拷問されているように感じました。みなさんも手足をおさえられると身体的・精神的苦痛があると思います。不安感を増長させ、心身の状態を悪化させるものです。理不尽であり人権侵害であり虐待であり暴力であると考えます」

今後、新しい告示が急に発表される可能性もある。要望書を受け取った厚労省担当者は「再度検討していく」と答えたという。