社会で多く行われる犯罪行為には、周知することで予防の効果を期待する意味で、名称がつけられることがある。「オレオレ詐欺」などはその典型だろう。

今年9月、大阪地方裁判所にて「盗撮ハンター」と称する被告人の裁判が行われた。この犯罪行為は、先ほどの例と異なり、多くの人にとっては知らなくても生活に全く支障はない。では、限られた人に知っておいて欲しいかというとそれもまた違う。

世の中ではこんなことが起きているのかと傍聴の醍醐味を感じた、ある事件を紹介したい。(裁判ライター・普通)

●人の弱みにつけこむ計画的犯行

被告人は30代前半の男性で、恐喝罪に問われている。

被告人は、大阪市の中心的存在「なんば」駅のエスカレーター下から女性を盗撮している男性を見つけた後、スマートフォンを取り上げて声をかけた。

「(被害者の)女の子は今、別の場所で保護している。以前は示談金200万円で済ませた。本日中に誠意を見せないと、いかなる名誉を損なうかわからない」などと言い、現金2000円と時価60万円相当の腕時計を騙し取った疑いがかけられている。もちろん、保護している女性などはいない。

被害者は被告人のことを手慣れた動きなどから私服警官だと思い込み、言われるがまま金品を差し出したという。

裁判では、被告人に対しての処罰の感情として、「自分もやってはいけないことをしたので、自業自得の面はある。ただ、今は返されたが、大切な時計を取られたのは許せない。駅の利用時間も伝えてしまったので、常に誰かに見られているのではないかと視線が気になっている」と供述した。

その感情を、盗撮された被害者が聞いたらどう思うか気になるところであるが、このような後ろめたさから犯行発覚が遅れるのがこの犯罪の特徴だ。

●謎に包まれている犯行までの経緯

恐喝という罪名なので、眼光鋭い顔立ちの被告人を想像するかもしれないが、外見だけではとてもそうは見えない、いたって普通の30代男性だ。

被告人は大学を卒業後、会社員を経験をした後、20代にして会社経営を行うことになる。順調なキャリア形成を積んでいるかと思われたが、平成29年に窃盗罪で執行猶予付きの有罪判決を受け、令和元年には今回と同様の手口の恐喝未遂罪で有罪判決を受け実刑となる。

保釈をされていた被告人は、その収監前に逃亡。住み慣れた東京から、大阪まで逃げてきてさらなる犯行を重ねてしまった。今回と同様の犯行を少なくとも10回は行っており、被害総額は300万円ほどだと言う。

この被告人を取り巻く環境の変動も大変気になる点であるが、残念ながら裁判では語られなかった。

●人から騙したお金で被害弁償

すでに、同様の罪状で裁判にかけられていることもあり、被告人質問では犯行の細かい手口などの質問は割愛された。その代わりに反省態度や今後の生活見込みなどに焦点が当てられた。

弁護人「今回の犯行の動機はなんですか」

被告人「金銭的に困っていて」

弁護人「何が一番悪いことと思っている?」

被告人「盗撮しているという弱みにつけこむという行動です」

弁護人「あなたは最初どんな内容で捕まりましたか」

被告人「被害者の方が、僕に痴漢しているところを見たと因縁をつけられ金品を騙し取られたと言っていると」

弁護人「なんで被害者の方はそんな嘘をついたと思う」

被告人「被害者の方にも家族や会社の立場があって言いにくかったのだと思う」

弁護人「そういう弱みにつけこんだ悪いことだと認識していますか」

被告人「はい、今ではしています」

犯罪の自覚をさせながら、さりげなく被害者側の落ち度について触れるあたりにこの弁護人のテクニックを感じる。

そして、被害者に家族がいるように、被告人にも大阪から離れた地に住む親がいた。この日のために法廷まで来て、行く末を心配そうに見つめていた。このような犯行を重ねても、自分の行く末を案ずる家族のために、出所後は親元に戻って働くことを誓った。

検察官からの質問は、被告人の規範意識や短絡的な性格などを炙り出すものであった。

検察官「お金はなぜ必要だったのですか」

被告人「逃走している最中のお金が欲しくて」

検察官「盗撮犯を警察に通報したことはありますか」

被告人「犯行を認めないとき、突き出したことならあります」

検察官「現金を脅すか、捕まえて突き出すかだったということですね」

被告人「はい、そうです」

自分たちの手に負えない場合は、警察に委ねるという。その被害者が、警察で金品を脅し取られそうになったと供述したら、目の前の被告人はどう対応するのか気になるところである。このあたりに、短絡的な思考が伺える。

検察官「今回の件で、被害弁償をするつもりはあるんですか」

被告人「あります」

検察官「そのお金はどこから出すんですか」

被告人「保釈金など納めていたので、その返還されたものなどで」

検察官「そのお金って、今回問われていない脅し取ったお金も入ってるんじゃないですか」

被告人「それはあると思います」

人から奪ったお金で、他の弁償にあてる行為に疑問を持っていないようだった。今回の事件に限らずだが、どういう被害者感情や事後の影響があるかまで理解できていないと、ただ反省しているような姿を見せられているだけではないかと不安に思えてしまう。

●真の意味で反省することができるのか

最後に被告人はこのように述べた。

「自分の行為により、被害者、両親に迷惑をかけて大変申し訳なく思っている。特に被害者には自身のことが家族などに公になるという恐怖や精神的ダメージを与えたことなど申し訳ない気持ちでいっぱいです」

それっぽい言葉を取り繕っているようにも見えるのだが、「相手が盗撮犯とは言え」という心情が見え隠れしているように感じるのは私だけだろうか。

もちろん被害者の行為にも落ち度はあり、今回の被害は普通に生活をしていれば受けることのない被害であった。しかし当然ながら、それは被告人の行為をなんら正当化するものではない。

後日行われた公判では、懲役2年の実刑判決が下された。前刑以前の刑も現在、服役中であるため、長期間の服役となる。判決の理由において、裁判官は私利私欲による犯行で酌量すべき点はないと断言した。

最後に裁判官が説いた。

「しばらく服役が続きますが、こういった時間を無駄にせず、なぜ犯行を繰り返すのか、被害者のことを思いながら、よく考えるようにしてください」

短期間で目まぐるしく変遷してきた被告人の経歴。今後は、短絡的な行動に走るのでなく、被告人にとって本質的な課題に目を当てられる時間になることを願う。

【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にYouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。