三重県鈴鹿市から生活保護の支給を受けていた親子が、自動車の運転記録を提出しなかったことを理由とした受給停止処分の効力停止を求めた申し立てについて、津地裁が10月20日、この申し立てを認める決定を出したと報じられた。

報道によると、申し立てをしていたのは身体障害のある高齢女性と難病を患う息子で、女性は2019年から生活保護を受給していた。

自動車の運転記録を提出するよう市から求められたが従わなかったところ、2022年9月に支給が停止されたという。親子は同10月6日、受給停止処分の取り消しと損害賠償を求めて提訴するとともに、処分の効力停止の申し立てをしていた。

裁判所が申し立てを認めた結果、支給は当面おこなわれることになるとみられるが、自動車の運転記録は生活保護を受給する上で欠かせないものなのだろうか。この訴訟の原告代理人を務め、生活保護制度に詳しい太田伸二弁護士に聞いた。

●効力停止されても「保護停止処分から執行停止決定までの間の保護費は出ない」

——今回のような受給停止処分の効力停止の申し立てとはどのようなものなのでしょうか。

保護停止は行政処分として行われますが、処分の取消訴訟を起こしただけでは行政処分の効力は止まらないことになっています。

ただ、(1)取消訴訟が提起され、(2)「処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」で、(3)「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」または「本案に理由がないとみえるとき」(=勝訴の見込みがないとき)に該当しない場合には、処分の執行停止が認められます。

——効力停止の申し立てが認められた場合、停められた分も受給できるのでしょうか。

効力が停止された場合、さかのぼって停止はされず、決定が出た時点から将来に向けて効力が停止されることになります。そのため、本件でも保護停止処分から執行停止決定までの間の保護費は出ません。

その一方で、決定が出れば行政はそれに従う必要がありますので、執行停止決定後の分の保護費はすぐに支給されることになります。

——効力停止はいつまで有効なのでしょうか。

執行停止決定については「その理由が消滅し、その他事情が変更したとき」には取り消されます。たとえば、原告が敗訴したことを「その他事情が変更したとき」として取り消した例もあります。

本件では、原告らが病気も抱えているのに収入・資産がなく、保護が停止されたままでは生命身体に危険が生じることを理由として執行停止決定が出されています。

ですので、原告らが予定していなかったような収入を得るようなことでもなければ、判決までは執行停止決定が維持されるものと考えられます。

●厚労省も運転記録の提出まで求めていない

——生活保護の申請にあたって、「自動車の所有は認められない」という話が出ることもあるようです。今回のケースは自動車の所有が認められていたものと思われますが、自動車を所有しつつも生活保護の受給が認められるケースとはどのような場合でしょうか。

自動車を所有しつつも生活保護の受給が認められるのは、(a)障害のために公共交通機関の利用が困難な方が通勤・通院・通所・通学(以下「通勤等」といいます。)に必要な場合、(b)公共交通機関の利用が困難な場所に住んでいる方が通勤等に必要な場合(あるいは、通勤等をする場所が公共交通機関の利用が困難な場所にある場合)、(c)事業用に利用する場合、(d)失業などで就労を中断している場合です。

その上で、たとえば(a)や(b)については「自動車の処分価値が低いこと」など、更に細かい要件も定められています。

詳しくは生活保護問題対策全国会議が作成している「自動車を持ちながら生活保護を利用するために!Q&A」(http://seikatuhogotaisaku.blog.fc2.com/blog-entry-416.html)を参照してください。

——自動車を所有しつつも生活保護の受給が認められた場合、運転記録の提出を求められることはよくあることなのでしょうか。

厚労省は、保有を認めた目的(たとえば通勤用であれば通勤)だけに自動車の利用を制限するよう指示する通知を出していますが、それでも運転の記録を提出させることまでは求めていません。

報道によれば、三重県内で運転の記録を提出させている自治体は鈴鹿市だけのようです。ただ、私が主に活動している東北地方でも、運転の記録を提出させている自治体があるという話は聞いています。そのため、こういった問題が全国的に生じていると想像されます。

そもそも、自動車の利用を保有目的に限定すること自体は、生活保護法上の根拠を欠いている指導・指示だと考えています。また、こういった運転の記録を出させることは、どこに行ったか・誰と会ったかなどを調査することになります。

生活保護制度を利用する場合、一定の調査(例えば、資産や収入の有無などの調査)に応じなければならないことはありますが、どこに行ったか・誰と会ったかなどを日々把握することになる運転の記録は、かなりの程度まで私生活に踏み込むもので、プライバシーの侵害の程度が高く問題が大きいと考えます。

●ぜひ知ってほしい「訴訟で是正できる可能性」

——今回のような裁判所の決定は珍しいのでしょうか。

たとえば、那覇市が就労指導指示違反を理由として行った生活保護停止決定処分について、那覇地方裁判所が執行停止決定(2011年6月21日)を出したことがありました。

また、本件と同じ三重県の四日市インスリン事件(就職活動に関する指導指示違反を理由とする生活保護廃止決定処分の取消しを求めた事件)でも執行停止決定(2015年4月6日)が出ています。

生活保護の停止や廃止の処分がなされれば、それまで保護を受けていた方は困窮し、生命や健康に危険が生じるおそれがあります。とはいえ、保護の停止・廃止を避けるために、福祉事務所の誤った指導にも従わなければならないとするのも理不尽です。

もし福祉事務所から誤った指導・指示を受けたとしても、取消訴訟提訴後に執行停止を申し立てた上で、訴訟を通じて是正を求めることができる場合があることはぜひ知っておいていただきたいと思います。

【取材協力弁護士】
太田 伸二(おおた・しんじ)弁護士
2009年弁護士登録(仙台弁護士会所属)。ブラック企業対策仙台弁護団事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、日本労働弁護団全国常任幹事。Twitter:@shin2_ota
事務所名:新里・鈴木法律事務所