架空のニュースを配信する虚構新聞(2023年4月5日)は、桃太郎が鬼退治にAIを活用するにあたり、お供である犬とキジの解雇を4月5日に発表したことを報じた。

同メディアによると、桃太郎は業績低迷に伴い、これまでの鬼退治方法を見直し、AIなどの最新技術を活用する必要性を指摘。効率化のためには、人員を見直す必要があったとしている。解雇された2匹は「裏切られた」と憤慨しているという。

このような解雇は許されるのだろうか。そもそも、犬とキジは「労働者」にあたるのか。向井蘭弁護士に聞いた。

●犬・キジは「労働者」

ーーそもそも、犬とキジは「労働者」にあたるといえるのでしょうか。

日本の労働契約法や労働基準法は適用対象を「人間」としているため、犬とキジは除外されるように思えます。しかし、虚構新聞によると、犬とキジは言葉を話し、意思疎通ができるようです。このような事態を日本の法律は想定していないため、少し無理はありますが、犬とキジは「人間」とみなして、以下、話を進めます。

労働契約法や労働基準法上の「労働者」は使用従属性があるかという観点、特に(1)仕事の依頼、業務指示の指示等に対する諾否の自由の有無、(2)業務遂行上の指揮監督の有無、(3)拘束性の有無、などを総合考慮して判断されます。

(1)仕事の依頼、業務指示の指示等に対する諾否の自由の有無
犬とキジは、桃太郎の誘いに応じて鬼退治というプロジェクトに参加していました。しかし、桃太郎と犬・キジの主従関係があったとの説が有力であり、事実上、犬・キジは命令を拒否できない関係にあったため、仕事の諾否の自由はなかったといえます。

(2)業務遂行上の指揮監督の有無
この点については、争いがあります。

・桃太郎が犬とキジを家来にして鬼を退治したという説(家来説)
・桃太郎は犬とキジを主従関係のない仲間として鬼を退治したという説(ただの仲間説)

があります。 「家来説」であれば、鬼退治業務の遂行上不可欠なものとして事業組織に組み入れられているため、業務遂行上の指揮監督が犬・キジに及びます。しかし、「ただの仲間説」であれば、桃太郎と行動しているだけなので、指揮監督は及びません。一般的には、「家来説」が有力で、労働者性が認められやすくなります。

(3)拘束性の有無
桃太郎と犬・キジは、ともに鬼退治業務をおこなっていますが、物語の性質上、犬・キジが自由に業務から離れ、通常の野生動物としての活動をしたり、ペットや番犬として自由に活動したりすることは難しかったと思われます。よって、拘束性はあったといえるでしょう。

以上を総合考慮すると、桃太郎と犬・キジが主従関係にあったのであれば、犬・キジは「労働者」にあたると考えます。

●「ペット」「番犬」としての配置転換は予定していない

ーーでは、今回の解雇は許されるのでしょうか。

日本の労働契約法に照らしていえば、解雇は無効になると考えます。

「能力不足」を理由とする解雇ができるかという観点からみると、桃太郎と犬・キジの雇用契約内容が問題となります。いわゆる職務限定契約であれば、解雇の有効性判断に影響が出ることがあるためです。

どうやら雇用契約書や労働条件通知書はないようなので、実態から判断するしかありませんが、犬・キジは「鬼退治の専門家」として桃太郎の求めに応じて参加したので、「ペット」「番犬」としての配置転換は予定していないと思われます。そのため、桃太郎と犬・キジは職務限定契約を結んだといえます。

職務限定契約の場合、裁判所は、限定されている職務に求められる能力・結果に比例して、解雇有効性の判断を幾分加減します。求められる能力・結果が高ければ、解雇の有効性は幾分ゆるやかに(労働者側に有利に)判断されやすく、求められる能力・結果がそれほど高くなければ解雇の有効性は幾分厳しく(労働者側に厳しく)判断されやすくなります。

虚構新聞によれば、犬・キジの鬼退治のスキルが低下したのではなく、桃太郎がAIの活用によって犬とキジが役に立たないと判断して解雇したので、経営方針変更による整理解雇の側面が強いといえます。そのため、整理解雇の有効性を判断する必要があります。

●希望退職の募集や退職勧奨せず…整理解雇も無効

ーー整理解雇が有効かどうかは、どのように判断するのでしょうか。

整理解雇は(1)人員削減をおこなう経営上の必要性、(2)十分な解雇回避努力、 (3)被解雇者選定の合理性 、(4)整理解雇手続の相当性によって判断されます。

(1)人員削減をおこなう経営上の必要性
桃太郎によれば、業績が低迷していたとのことですが、どの程度か分かりません。日本の裁判所は、比較的緩やかに人員(犬・キジ)削減の必要性を認める傾向がありますが、これまでより鬼退治業務の市場シェアが落ちた、売り上げや利益が減少した、という程度では人員削減の必要性が認められません。

ただし、鬼退治業務の業績低迷が急激に進み、赤字になる可能性が高かったり、資金繰りに影響が出たりする可能性が高ければ、人員削減の必要性は認められます。

(2)十分な解雇回避努力
桃太郎は希望退職を募集するどころか退職勧奨もせず、鬼退治の効率化を図るために解雇をしたようですが、これでは十分な解雇回避努力義務を果たしたことにはなりません。桃太郎と犬・キジは職務限定契約を結んでいたといえるので、鬼退治以外の業務に配置転換することで解雇を回避する義務はないといえます。

(3)被解雇者選定の合理性
桃太郎は「全お供の約67%に当たる犬とキジを解雇した」とのことですので、どうやら猿は解雇対象から外れたようです。しかし、猿を外した理由は明確ではありません。これでは被解雇者選定の合理性はないといわざるを得ません。

(4)整理解雇手続の相当性
多くの裁判例は整理解雇の前に労使で十分な話し合いを求めていますが、今回はおこなわれなかったようです。話し合いの議題としては、たとえば、以下の内容が想定されます。いずれについても話し合っていないため、整理解雇手続きの相当性はみたされないと思われます。

・鬼退治業務がどの程度採算が合わなくなっているのかという具体的な業績数値の提示
・ドローンやAIが犬・キジの役割を代替できるのか
・AIが鬼に寝返る可能性
・犬・キジでもまだまだ鬼退治業務において役割を果たすことができる可能性
・犬・キジの長年の功労に対する特別退職金の提示
など

以上より、整理解雇は無効であると思われます。

【取材協力弁護士】
向井 蘭(むかい・らん)弁護士
東北大学法学部卒業。平成15年弁護士登録。経営法曹会議会員。企業法務を専門とし、特に使用者側の労働事件を数多く扱う。企業法務担当者に対する講演や執筆などの情報提供活動も精力的に行っている。
事務所名:杜若経営法律事務所
事務所URL:http://www.labor-management.net/