少年院や刑務所などの刑事施設では、被収容者に対する教育またはレクリエーションとして、歌手や音楽家などが歌や演奏を披露する「慰問行事」が定期的に開催される。そんな慰問行事において、被収容者たちから「受刑者のアイドル」と呼ばれ、絶大な支持を得ている女性デュオがいることをご存知だろうか。

「Paix2(ペペ)」の北尾真奈美(以下、まなみ)さん、井勝めぐみ(以下、めぐみ)さんは、2000年からマネージャーの片山始さんが運転する車で全国各地の刑事施設を巡り「Prisonコンサート」を続けている。

彼女たちの元には、日々、受刑者たちからの感想文が届くほか、SNSを通じて元受刑者たちからも、かつて刑務所で見た「Prisonコンサート」の感想が寄せられるのだという。この17年間、2人はどんな思いを胸に活動を続けてきたのだろうか。(ライター・高橋ユキ)

【動画】受刑者のアイドル「Paix2(ペペ)」

https://www.youtube.com/watch?v=aMlwG2FrlUo

●●  デビュー前は「看護師」と「技術補佐員」

――Paix2の結成の経緯と「Prisonコンサート」を始めることになったきっかけを教えてください

めぐみ「結成のきっかけは1998年の『日本縦断カラオケ選抜歌謡祭』鳥取大会でした。私たち2人は鳥取県出身で、この大会に出場していました。それまで特に接点はなかったのですが、たまたま続き番号になったんです。大会の後、当時主催者側にいた片山さん(現・マネージャー)が『2人でやってみたらどうか』と声をかけてくださり、2000年4月にインディーズデビューをしました。それまで私は看護師、まなみは技術補佐員、2人とも仕事をしていましたね」

まなみ「その年の9月に1日警察署長というのを地元の鳥取県でやりました。その際、署長さんに『歌が爽やかだから、そういう施設に行って歌ったら喜ばれるんじゃないですか』と言われて。私たちも勉強になるだろうし、じゃあ行ってみよう、ということで、3ヶ月後の12月2日、初めて鳥取刑務所でコンサートをやりました」

めぐみ「当時私たちは鳥取県を中心に活動をしていて、新聞やテレビ、ラジオなどに出ていたんです。そのため地元の職員さんもPaix2の存在を知ってくださっていたので、短期間の間で実現できたという感じです」

●受刑者の反応が「やけにノリが悪い感じ」だった理由

――受刑者たちの反応はどうでしたか?

まなみ「立ち上がってもダメですし、腕や足を組むこともダメなんです。あと刑務所は夏でも冷房は入っていないので、とても暑いんですよね」

めぐみ「聴き方にもルールがあります。姿勢良く座り、歌い終わった時の拍手のみして良いというのが本来の規則です。私語もダメですね。でも最初は私たちもルールを知る前にステージに立ったので『やけにノリが悪い感じなんだなぁ』というのが第一回目の感触でした」

まなみ「反応はないしね。それまで小学校とか、観客がざわざわしている中で歌うことが多かったんですが、急にこういう感じでしたから、おかしいな、と」

めぐみ「受け入れてもらえなかったんだなと感じましたね。後日、感想文が刑務所から届いて、ルールだから皆さん静かに聞いていたんだなということを知って、安心しましたが」

●刑務所コンサートは「ボランティア」

――その後、各地の刑務所から「うちでもやってよ」という声があったりしたのでしょうか

まなみ「いえ、山口県で開いた2回目のコンサートは、私たちが出る予定ではなかったんです。事務所に当時所属していた山口県出身のアーティストさんを当初、打診したのですが、施設側から『鳥取でやられた2人組をお願いします』と言われたんです。

多分施設側としては全く知らない方を入れるよりは、すでに実績があるアーティストのほうが安心できる、ということも多分あったんだと思います。結果的には、それで2度目に山口でコンサートをしたら、そこでも喜ばれて。

じゃあ、メジャーデビューして、何か自分たちの音楽でひとつ特徴付けることをという話になった時に、それなら今まで誰もやったことのない刑務所でのコンサートを全国展開しましょう、ということで、やり始めました」

めぐみ「そこから全国の施設にダイレクトメールを送って、本格的に全国の刑務所での『Prisonコンサート』が始まったのが2002年3月からですね」

――このときの「Prisonコンサート」は、いわば外の世界で言う「全国ツアー」といった趣ですよね。

めぐみ「一番多い年が2003年で40数回、これが一番ピークです。あとはだいたい年間20回前後を刑務所でコンサートしています。回数だけ聞くと、非常に少ないように捉えられがちなんですが、これでも負担は大きいんです。

刑務所でのコンサートは基本的に、朝の9時や9時30分スタートですから、地方では前泊が必要です。さらに、その翌日に別の矯正施設でコンサートの予定があれば、コンサート終了後に次の矯正施設に行って、機材を設営して、その次の日にまたコンサート……というスタイルを取るので、1回コンサートに行くと2〜3日、距離が多いと4日かかりますね。

長い時には1日に1600〜1700キロ移動した年もあります。コンサートはだいたい1時間〜1時間半させていただくんですが、実は準備や移動でかなり日数をとられてしまうんです」

●交通費と宿泊費は出るようになったが

――1年の約3分の1はコンサートのために動かれている計算になりますね

まなみ「九州や北海道も全部車での移動なんですが、体力的に一気に九州までは行けないんですよね。それでやっぱりどこか途中で一泊してから九州入りするので、そうすると2日間は要します」

めぐみ「交通費と宿泊費で、すごくお金がかかるんですよね。ですので、ボランティア貧乏でした」

――「Prisonコンサート」はボランティアでやっていたんですか

まなみ「特別矯正監でもある歌手の杉良太郎さんの呼びかけで、2015年に『法務省矯正支援官』に任命していただきました。そこからは、交通費と宿泊費は出るようになったんです。

たまたま杉さんがPaix2をテレビで見てくださったみたいで『こんなにやってる子たちがいるのに、刑務所はなんかやってるの?』みたいな話があったみたいで(笑)。『完全にボランティアです』という話をすると、『それはいかん』となりまして」

めぐみ「それまでの期間は持ち出しです。ボランティアの出費の方が多くて営業で入ったお金が出て行く方が多い時期が長く続きました」

まなみ「だから東京〜鳥取間だったら、一般道で走って向かいました。高速道路も乗るのが大変な時期がありました。社会人のときの貯金でなんとか生活して、節約していましたね」

●「Paix2の歌を聴いて、真面目に頑張ろうと思いました」

――でもそれでも続けることができたのはなぜなんでしょうか? 2003年なんて、自腹で40箇所を回るとなると本当に大変でしたよね。

まなみ「でも、やっぱりやりがいっていいますか、それが一番大きいんですけど、一番最初は、中の人に楽しんでもらおうという思いでやっていたんです。でもやっぱり10回ぐらいコンサートをした時、中に人がいるということは被害者や遺族の方が外にいらっしゃるわけで、これは楽しんでいるだけじゃだめだな、となって。

自分たちの中で何か、お互い考えられる場所としてコンサートをやっていけたらなということで、受刑者の家族から頂いたお手紙を紹介してみたりとか、めぐさんが看護師をやっていたのでそのときの体験談とかもお話しさせていただいたりとか、色々と試行錯誤しながらやっていくようにしました。

そこからちょっと受刑者側の反応も、ステージ中の反応も違う手応えが出てきて、感想文もガラッと変わってきたんです。そして社会復帰した人が徐々に外でのライブの時に会いにきてくれたりするようになって『Paix2の歌を聴いて、真面目に頑張ろうと思いました』とか、そういうメッセージとかももらったりするわけですよ。そこから、これをやり続けていくべきかなという思いが強くなりましたね」

めぐみ「2002年に、鳥取で警察音楽隊とのジョイントコンサートをやったときに駆けつけてくださった元受刑者の方からお手紙と花束をいただいたんです。この方のお手紙が一番最初の社会復帰した方との出会いでした。当時そういう出会いがなくずっと全国を回っていたので、社会に帰られた人はどういう思いになられてたのかなという思いもあったんです。この出会いが早くからあったおかげで多分今も続けてこられているのかなと思います」

まなみ「実際、資金的にもきついし、同じ業界の人から『そんなところで歌ってどうするの』っていうのはすごく言われたんですよ、最初の頃。確かに即売もできないし、歌も広がらない。実際本当にお金は無くなるし、もうやめませんか? という話をしたことも。そんなときに、『歌を聞いて励まされた』という方が現れて。ああ、自分たちのやってきたことは間違いじゃなかったんだな、って」

めぐみ「要所要所で励ましになる出会いとか文章が私たちの元に届くんですよね。そうするとまあ、ハードなのは自分たちだけだから他の人はプラスに受け止めてくれるならやらないといけないんじゃないかと、最終的にはエンジンがそこにかかるようになるんですよね。その繰り返しでした。当時は。辛いなと思ってもちょっと嬉しくなる出来事があって続けてこれました」

まなみ「社会復帰した方から、メールやFacebookで相談とかが届くんです。私たちは2014年から保護司もやらせてもらっているんですが、その以前から保護司と同じ仕事をやってきたと思っています」

――数年前に、東京拘置所の矯正展で初めてPaix2のライブを見させていただきました。『元気だせよ』という曲がのメロディーがとても覚えやすく、しばらくよく歌っていました。Paix2の楽曲は、片山さんや、他の方々による作曲のようですが、まなみさんは作詞をされていますね。何か気をつけていることなどはありますか?

まなみ「塀の中の方も共感してもらえるような詩を作りたいなというのは思って書いていたりします。『ウチへ帰ろう』っていう歌詞もありますが、この秋に、日本酒の歌も作ろうと思っているんです。『日本酒飲んで〜幸せだよね〜』っていうんですけど、それも私は『ウチへ帰ろう』とセットで歌いたいなと思っていて。早く出てこい、社会には楽しいことがあるよ、と」

めぐみ「最近ではそういう新たな発想も生まれています」

【取材協力】Paix2(ペペ)

鳥取県出身の北尾真奈美(きたおまなみ)、井勝めぐみ(いかつめぐみ)によるデュオ。2000年結成。全国の矯正施設を巡り「Prisonコンサート」を続けている(2017年7月時点で計406回)。2017年11月24日、東京弁護士会などが主催する「民事介入暴力対策全国拡大協議会東京」でも公演予定。

http://paix2.com/

【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(霞っ子クラブ著/新潮社)、「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(高橋ユキ/徳間書店)など。好きな食べ物は氷。

(弁護士ドットコムニュース)