自身の記録を更新する史上最多39回目の優勝を決めた横綱・白鵬。今回の名古屋場所では、魁皇の記録を抜き、通算勝利数でも歴代トップに踊り出た。しかし、そんな偉大な横綱がこのままでは引退後、相撲協会の運営には携われない可能性があるという。

白鵬はモンゴル出身で、現在もモンゴル国籍。しかし、引退後、親方になるのに必要な「年寄名跡」の襲名継承には、日本国籍を有することが条件となっている(日本相撲協会寄附行為施行細則)。

規定がない「一代年寄」(偉大な功績を残した横綱に与えられる一代限りの名跡。現役時代のしこ名で親方を務められる)になれば、国籍に関係なく親方になれそうだが、相撲協会はこれまで、外国籍の白鵬には与えないとの見解を示している。

報道によると、白鵬には帰化の考えがあるとされているが、こうした対応は法律的に問題ないのだろうか。たとえば、7月22日付の東京新聞朝刊では、小倉秀夫弁護士が、国籍による差別を禁じた労働基準法3条に抵触すると指摘しているが、どう捉えたら良いのか、指宿昭一弁護士に聞いた。

●ポイントは力士の労働者性、「力士=労働者」という裁判例も

「労基法3条をめぐっては、在日朝鮮人であることを隠すため、履歴書の氏名欄などに日本名を書いたことを理由に、内定を取り消したことが無効とされた判例があります(日立製作所事件・横浜地裁昭和49.6.19判決)。また、外国人研修・技能実習生と日本人労働者の住宅費・水道光熱費に格差を設けることは認められないとして、差額賃金等請求を認めた判決もあります(デーバー加工サービス事件・東京地裁平23.12.6判決)」

しかし、そもそも力士は「労働者」と言えるのだろうか。

「力士は、各部屋ではなく、相撲協会と役務提供契約を結び、十枚目以上の力士は月給を、幕下以下の力士養成員は本場所手当をもらっています。力士の契約が 労働契約かどうかについて判例の結論は分かれており、労働契約としているもの(東京地裁平20.10.30決定)と、労働契約ではないとしているもの(東京地裁平23.2.25決定、東京地裁平25.3.25判決)、この点について判断をしていないもの(東京地裁平22.3.1判決)があります」

もし、相撲協会と力士の契約が労働契約と言えるのであれば、白鵬に対する取り扱いはどう考えられるのだろうか。

「その場合は、労基法3条の国籍差別の禁止に違反する可能性があります。ただし、年寄名跡や一代年寄を力士に与えることが『労働条件』に該当するかどうかは若干微妙で、争いはあるでしょう。

とはいえ、労基法3条の労働条件には、退職に関する条件も含まれます(昭63.3.14基発150号)。引退後、相撲協会の運営に関わったり、親方になったりする権利を伴う年寄名跡や一代年寄の制度が、労働条件に該当する可能性はあると思います」

では、力士と相撲協会の役務提供契約が、労働契約に当たらなかった場合はどうだろうか。

「仮に、労働契約に当たらなくても、労働契約類似の契約ではあります。労基法3条が類推適用される可能性はありますし、すべきだと思います。

外国人力士を受け入れて、活躍してもらうなら、力士引退後の処遇について、差別すべきではありません。相撲協会と力士の契約が労働契約ではなかったとしても、外国人力士に、年寄名跡や一代年寄になるチャンスを与えないのは、憲法14条1項の平等原則に反し、許されないことだと思います」

指宿弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
指宿 昭一(いぶすき・しょういち)弁護士
労働組合活動に長く関わり、労働事件(労働者側)と入管事件を専門的に取り扱っている。日本労働弁護団常任幹事。外国人研修生の労働者性を認めた三和サービス事件、精神疾患のある労働者への使用者の配慮義務を認めた日本ニューレット・パッカード事件、歩合給の計算において残業代等を控除することは労基法37条違反かどうかが争われている国際自動車事件などを担当。
事務所名:暁法律事務所
事務所URL:http://www.ak-law.org/