「順番待ちの名簿にキャラクターの名前を書かないで欲しい」――。マイナビニュースのQ&Aコーナーでファミレス店員がこのような悩みを打ち明けている。相談者の店では、「古畑任三郎」や「江戸川コナン」、「金田一」といった「名探偵」の名前が書かれることが多いそうで、「毎回呼ぶとき恥ずかしい」というのだ。

しかし、店長や同僚は「名前として機能しているから」とあまり気にしていない様子。ユーザーから寄せられたアドバイスも、「店長が認めているのなら仕方がない」や「そんなに困るものではない」などと突き放したコメントが多く見られる。

ジョークか、悪ふざけか。受け取り手によって異なる微妙な問題だが、店員は名簿に書かれてある通りに読むしかない。では、キャラクターや有名人、知人の名前を使ったり、公序良俗に反するような言葉を書き込んでも、法的に問題ないのだろうか。刑事事件にくわしい阿野寛之弁護士に聞いた。

●キャラクターの名前を書くのは「私文書偽造罪」になる?

「まず、私文書偽造罪(刑法159条)になるか、検討してみましょう」

このように述べて、阿野弁護士はその成立の可能性を検討する。

「ファミレスの予約帳は、入店できる順番を確保するためにお客が名前を書くわけで、その意味では、刑法159条で私文書偽造罪の要件とされている『事実証明に関する文書』に当たりそうです。

ただ、ファミレスでお店と食事提供の契約を締結するのは『実際に来た』お客であり、食事代も実際に来店した人がその場で支払うので、その人の本名がどうなのかが問題になることは、まずありません。要するに、予約帳に『江戸川コナン』と書いてあったら、その『江戸川コナン』はファミレスの入口で待っているこの人だ、と識別できればいいんです。

予約帳にアニメキャラや著名人の名前を書く人も、そのキャラ等になりすましているわけじゃないですし、ましてやアニメキャラに料金を負わせようとしているわけじゃないですよね。自分のことを指す記号として書いているわけです。

私文書偽造罪が成立するためには、『他人の署名を使用して』といえる必要があります。しかし、ファミレスでアニメキャラの名前を書いても、自分という人格の同一性を偽ろうとしているわけではないでしょう。したがって、『他人の署名を使用』しているとはいえないので、私文書偽造罪は成立しないと考えます」

●アニメのキャラクターの名前を勝手に使うと「商標権侵害」になる?

では、このほかに法律上の問題になりそうなことはあるのだろうか? 阿野弁護士が候補としてあげるのは、商標権侵害と不正競争防止法違反だ。

「たとえば、アニメキャラの名前を権利者に無断で使って商売すると、商標権侵害や不正競争防止法などで損害賠償や使用差し止めが認められることがあります。しかし、予約帳にキャラの名前を書くことが、その客にとっての『商売』であるはずはないですよね。ですから、これも問題になりません」

どうやらキャラクターの名前はセーフのようだが、店員が声を出すのが恥ずかしいような卑わいな言葉や他人を侮辱する言葉を書いた場合は、ちょっと話が違ってくる。

「もし仮に、予約の名前として卑わいな言葉を用いたりすると、非常に微妙ではありますが、迷惑防止条例違反(卑わいな言動の禁止)が成立する可能性があります。また、特定の他人を侮辱するような表現だと、侮辱罪等が成立する可能性もあります。もちろん民事上も、現実に責任追及されるかどうかはともかく、お店や店員個人、侮辱された相手等に対する損害賠償責任(慰謝料)が発生するでしょう」

このように丁寧に説明したうえで、阿野弁護士は次のように指摘している。

「法律論はともかく、何か事情があるのでなければ、きちんと本名を書いたほうがいいんじゃないでしょうか。『間違いなく自分が書いた』って言えますから」

(弁護士ドットコム トピックス)

【取材協力弁護士】
阿野 寛之(あの・ひろゆき)弁護士
1975年生。1998年京都大学法学部卒。2000年弁護士登録(福岡県弁護士会)。裁判員裁判・否認事件等の困難刑事事件を中心に、企業法務案件、各種損害賠償事件(原告・被告問わず)等もこなす。
https://www.facebook.com/kitakyushu.ohtemachilawoffice
事務所名:弁護士法人大手町法律事務所