東京都心部から車で約30分。休日ともなれば、その巨大なショッピングモールの駐車場にはすさまじい数の車が吸い込まれていく。つい先日の夕方、帰宅する車も増え、付近の道路は渋滞の度合いを増していた。ドライバーが苛立ちやすい環境だったその時、周囲が騒然とする「交通トラブル」が発生した。

目撃者の男性によると、駐車場を出てすぐの交差点で、黄から赤信号に変わろうとするタイミングで大型SUVが停車。そのすぐ後ろの小型車が「ブッブー!!」と大きなクラクションを鳴らした。誰しもが振り向くような「爆音」だった。

その直後、大型SUVから大柄の男性が勢いよく降り、小型車の運転席のドアを開けて運転手の胸ぐらをつかんでいるようだった。その隣に座っていた女性は怯えた感じに見えたという。

このとき、多数の買い物客や誘導員が周囲にいたが、路上で起きた突然の出来事に呆然としていた様子だったという。こうしたトラブルでは、互いにどのような罪に問われる可能性があるのだろうか。阿部泰典弁護士に聞いた。

●胸ぐら掴む行為、暴行罪に問われる可能性

ーー大型SUVの男性は暴行罪や傷害罪に問われる可能性があるでしょうか

「他人の胸ぐらを掴む行為は、人の身体に対する不法な有形力の行使に当たりますから、刑法上の暴行罪(208条)の罪に問われる可能性があります。胸ぐらを掴んだ際に相手に怪我を負わせてしまった場合には刑法上の傷害罪(204条)に問われる可能性があります」

ーー小型車の運転手はクラクション(警音器)を鳴らしたことで道交法違反に問われますか

「道路交通法54条2項で、車両の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならないとされています」

ーーどういうことでしょうか

「『法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合』とは、左右の見通しのきかない交差点や見通しのきかない道路の曲がり角などです。本件はそのような場所ではありません。

また、道路交通法54条2項は、但書で『危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない』と例外を設けていますが、これは実際に具体的な危険が認められるような状況下で、その危険を防止するためやむを得ないときという意味とされています」

●不必要にクラクション、罰金も

ーー本件ではいかがでしょうか

「本件の小型車のクラクションは、危険を防止するためではなく、発生した危険に対して怒りをぶつけるために鳴らされたものですので、例外に当たりません。

そもそも、道路交通法施行令によれば、黄色信号のときは停止位置を越えて進行してはならないこととされていますが、黄色信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合にはそのまま直進してよいことになっています。

本件では、黄から赤信号に変わろうとするタイミングですので、数秒前から黄色信号になっていた訳ですから、そのまま直進していいとは考えられません。したがって、大型SUVが停車したのは法令にしたがった当然の行為であり、そのような車に対してクラクションを鳴らすことは筋違いといえます」

ーークラクションを鳴らした側はどう罰せられるのでしょうか

「警音器を鳴らしてはいけないのに、鳴らした場合は、道路交通法54条違反となり、同法121条1項6号により2万円以下の罰金又は科料に処せられる可能性があります」

ーー本件のようなトラブルを防ぐため、運転手にはどんな心がけが求められますか

「法令をよく理解して、法令にしたがった運転をすることが大前提となると思います。また、人間誰しも状況によって苛立つこともありますが、心にゆとりをもって行動することがトラブルに巻き込まれないためには大切なことだと思われます」

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
阿部 泰典(あべ・やすのり)弁護士
平成7年4月 弁護士登録。平成14年4月 横浜パーク法律事務所開設。平成21年度 横浜弁護士会副会長。平成24年、25年度 横浜弁護士会法律相談センター運営委員会委員長、横浜弁護士会野球部監督
事務所名:横浜パーク法律事務所
事務所URL:http://www.yokohama-park-law.com/