2019年4月に始まった、性暴力に抗議する「フラワーデモ」。2019年3月に相次いだ4件の性犯罪事件の無罪判決がきっかけとなり、刑法のさらなる改正を求める声が上がりました。

その中で、あらたに「不同意性交等罪」の創設を訴える意見が出始めています。2020年11月に日本学術会議が「同意のない性行為を犯罪」とするよう求めた提言も話題となりました。

現在の処罰の現状について、どう見ているのか。新たに法律を作る必要があるのか。立命館大学法学部の嘉門優教授に聞きました。

●解釈によって処罰範囲は広がっている

——2017年に性犯罪に関する刑法が一部改正されました。その後の状況を踏まえて、新たに法改正をするべきか。法務省の検討会で学者や弁護士、臨床心理士、被害当事者などが、2020年6月から議論を重ねています。現在の性犯罪規定をどうみていますか。

まず、今の性犯罪の規定で「処罰の間隙」、つまり「処罰すべきにもかかわらず、処罰できない事例があるのか」、「あるとすれば、どういう事例なのか」ということから考える必要があると思います。

刑法177条の強制性交等罪には、「暴行・脅迫を用いて」という暴行・脅迫要件があります。「暴行」というと殴る蹴るといったかなり強度のものを想像しますが、過去の裁判では、上から覆いかぶさったり足を開いたりするなど、普通の性行為にともなうような行為でも暴行と見ることができる、と判断しているものもあります。

刑法178条の準強制性交等罪は、「心神喪失」もしくは「抗拒不能」に乗じたり、それらの状態にさせて性交等に及んだりした場合に成立します。判例では、この「抗拒不能」について、「抵抗が著しく困難な状態」で足りるとされていて、抵抗するのが「不可能」というレベルまでは求められていません。

裁判所は、暴行脅迫、抗拒不能といった要件を、事件ごとに被害実態を具体的に見ながら、比較的柔軟に解釈してきたと思います。

つまり、「暴行脅迫」や「抗拒不能」の要件は、強度のものが常に要求されているわけではなく、行為者と被害者との関係や、年齢、地位・立場、行為の場所などといった事情を総合的に考慮したうえで、被害者が著しく抵抗困難だったかどうかを、事例ごとに実質的に判断されています。

●「著しく抵抗困難」裁判所は被害者心理の特性を踏まえて判断

——フラワーデモのきっかけとなった4件の性犯罪事件の無罪判決のうち、3件が高裁でひっくり返り逆転有罪となりました。

そのうちの一つである、当時19歳の娘に性的暴行を加えたとして準強制性交罪に問われた事件では、1審の名古屋地裁岡崎支部が「(娘は)全く抵抗できないとは言えない」と無罪の判断をしたことが社会で問題視されました。しかし、その後、名古屋高裁では「著しく抵抗困難な状態」だったと認められ、逆転有罪となりました。

長期にわたって性的虐待を受けた被害者の場合、この岡崎支部の事件のように、行為の瞬間だけを見ると性行為を受け入れているように見えるけれども、長い期間被害にあうと次第に諦めるようになり、従うほうが楽だと思うようになる、といった心理に陥ることがあると、近年の研究により明らかになってきました。

たしかに、「著しく抵抗困難」かどうかという判断に際して、これまでの裁判では、性行為の時点だけを見る傾向にあったと思います。

しかし、長期間、性的虐待を受けた被害者の特殊な精神状況を適切に把握するべきだという観点から、名古屋高裁では「著しく抵抗困難」だったと認められ、最高裁もこの判断を追認し、有罪が確定しました。この結論については、刑法の研究者や実務家の間でも正しいものと受け入れられていると思います。

法改正の議論に当たっては、岡崎支部の事件も現状の準強制性交等罪の解釈で対応しうる、と裁判所が評価したということを前提にしなければなりません。

●「暴行・脅迫」という言葉の意味と裁判所の解釈に開きがある

——法務省検討会では「似た事件でも、有罪になる事案もあれば、警察に被害届を受け付けてもらえない事案や不起訴になる事案があると感じており、適切な要件の検討が必要」という意見が出ています。これは刑法を改正することで、解決する問題なのでしょうか。

ご質問のように、警察で被害を訴えても、たとえば、「殴られていないのであれば、暴行がないから強制性交ではない」といわれて、被害届を受理されなかったといった事案が報告されています。

しかしこれは、法改正の問題というよりも、警察や検察段階での運用の問題だと思います。そのため、まずはその運用を改めるべきだといえそうです。

ただその一方で、刑法の条文にある「暴行・脅迫」という言葉を素直に読めば、「殴ったり、脅したりしないと強制性交等罪にはならない」と読めてしまうということこそが、そもそも問題なのではないかという指摘にも非常に説得力があります。

そこで、そういった誤解から、性犯罪被害に適切に対応されない事態が発生することを避けるために、国民がより理解しやすい条文に変えるという立法のあり方が考えられます。

暴行・脅迫という語が持つ一般的な意味と、裁判所の解釈とがあまりにも異なっているという印象を与えているのであれば、条文に別の要件を列挙して、処罰されるべき対象をきちんとわかりやすく国民に明示するという改正を行うべきだと考えられます。

●「威迫」「欺もう」新たに導入すべき要件は?

——その場合、どのような要件を条文に入れるのが良いのでしょう。

それがもっとも難しいところでして、法務省の検討会でも議論されています。

前述した岡崎支部の事件のように、じわじわと追い詰められ、最後には諦めてしまうといった被害者心理があります。このような事案が処罰対象であることが条文上明らかになる文言とはいったいどのようなものなのかが問題となります。

暴行や脅迫といった手段に加えて、より低いレベルの威力や威迫といった手段、さらに、畏怖や諦め、フリージングなど被害者の心理状態を要件に併記するという案もだされているところです。

ほかにも、フランスを参考にして「不意打ち」という要件を提案する方もいます。ただし、この不意打ち(surprise)という語は多義的で、「欺もう」「だます」という意味合いもあるそうです。

この「欺もう」という手段は、日本の判例では、過去に、医師が治療に必要だとだまして性行為をした事案や、学習に効果があるとだまして女子高生にわいせつ行為をした事案において、「欺もう」という手段による性行為として処罰したことがあります。これらは、被害者が心理的に「抗拒不能」だとして、準強制性交ないしは準強制わいせつ罪として処罰されました。

法改正で新たに「欺もう」という要件を導入する場合、難しい問題が生じます。たとえば、自分には別の恋人がいて、二股をしていることを相手に黙って性行為をした。これは相手側から見れば「騙された」わけですが、これをいわゆる「レイプ」だとして処罰するかといわれると疑問の余地があるように思います。

ほかにも、上司といった地位を利用する場合を要件とすべきという提案もあります。海外では、このような「地位利用」型の性犯罪規定を持つ国も見られます。

ただし、たとえば上司が部下と性行為をすれば、すべて地位を利用した強制性交等罪だと評価するわけにはいきません。どういう地位をどのように利用すれば処罰されるのかということを明示する工夫が必要とされます。

●厳しすぎる運用だったドイツ

——海外の運用はどうなっているのでしょうか。

ドイツの事例をお話しします。ドイツは2016年に暴行・脅迫要件を削除しました。No means no モデルと言われるもので、被害者の拒絶意思に反して性交に及ぶ場合を処罰するというものです。

ただし、もともとドイツは、暴行・脅迫要件が日本よりもずっと厳しく解釈されており、痴漢による被害も処罰できない国でした。たとえば、被害者の背後から近づいていきなり下着の中に手を入れて性器を触ったという事案でも、「暴行がない以上は、性犯罪とはならない」などという、ありえない状態だったのです。

その後、「同意を得ていない性行為はレイプとみなす」と規定されているイスタンブール条約を踏まえて改正され、処罰範囲が広がりました。

条文では「他人の認識可能な意思に反して」という要件が入っています。このNo means no モデルは、被害者が拒絶の意思を示さないといけません。具体的には、口頭での説明の他、態度で表現していることで、客観的に認識可能であるとされています。

このように、ドイツの不同意性交等罪は、被害者が嫌だと思っていたというレベルでは足りず、客観的に認識可能ということを要求しています。そのため、ドイツで新たに処罰されるようになった事案は、日本では現在でも処罰可能なものだといえると思います。ドイツは、たしかに不同意性交等罪を導入しましたが、日本よりも大きく処罰範囲が広がったとは評価しえません。

ただし、ドイツでは現在、避妊具をつけると合意していたのに、相手に黙って避妊具をつけずに性交をした場合をレイプとみるか、という議論がなされています。 もし、これがドイツでレイプだと一般的に認められるようになる場合、日本で議論されていない部分に踏み込んでいくことになると思います。

●不同意性交等罪、被害者の負担が増える?

ーー不同意性交等罪を創設すると、どうなるのでしょうか。

「相手の明示された同意を得ていない性交は全て処罰すべき」というYes means yes モデルを採用した国において、日本で処罰していない事例をどんどん処罰しているかというとそうではないように思います。裁判において、性交には同意していなかったと被害者が言っているというだけで、ほかにそれを裏付ける証拠がまったくないのに有罪にすることはできません。

そうすると、結局のところ、どういった手段が用いられたか、行為者と被害者との関係、年齢、地位・立場、行為時の状況、行為前後の行動などといった要素が判断材料となってきます。この点は、前述のような現在の日本の裁判所の判断手法と大差ないようにも思えます。

仮に、日本で「暴行・脅迫」要件を削除して不同意性交等罪を導入した場合に心配されるのは、裁判において、「被害者の同意の有無」が今まで以上に直接的に争点とされることになり、被害者の負担が増える可能性があるという点です。

つまり、被害者の同意の有無を明らかにするために、捜査段階から、被害者に対して「嫌だったのに、なぜ、ホテルまで一緒に行ったのか」、「抵抗しなかったけれども、本当に嫌だったのか」などと細かく尋ねることにつながり、今以上に被害者の負担となることが懸念されるのです。

前述のように、日本では警察における被害者対応が問題視されている現状にあります。そのような中、不同意性交等罪を導入すれば、セカンドレイプのおそれが高まるのではと考えています。

●条文に要件を追加する改正が望ましい

——ドイツのようなNo means noモデルの創設は、どう考えられますか

前述のドイツのように、No means noモデルを採用して「他人の認識可能な意思に反して」性行為をする場合を処罰するという方式をとることも考えられます。

ただし、このモデルでは、「被害者が拒絶の意思を示したこと」が処罰の要件となりますので、「被害者が嫌だったけれども、拒絶の意思を示せなかった」という事案は、原則として処罰対象とはなりません。

しかし、むしろ日本で問題とされているのは、拒絶の意思が示せない、弱い立場の被害者の保護のはずです。そうすると、被害者に拒絶の意思を示すことを求める、ドイツ型のモデルでは不適切だということになります。

以上のように、日本における性犯罪被害を適切に把握し、被害者に過重な負担を負わせないという観点から、不同意性交等罪の導入には慎重になるべきです。

「被害者の同意の有無」を直接的に争点化させるような条文は避け、前述のように、条文に要件を追加するという方法による改正が望ましいように思います。

●性交同意年齢、若者の恋愛はどうなる?

——検討会では、性交同意年齢についても議論がされています。

現状では、13歳未満の者に対して、性交等やわいせつ行為を行った場合、その人の同意があったとしても処罰されます。この13歳という年齢(性交同意年齢)を引き上げて、15や16歳とすべきかが論点となっています。たしかに、この年代は判断が未熟であり、大人に騙されて性犯罪被害に遭うおそれが高いといえます。

しかし、現在においても、青少年の健全な育成という観点から、児童福祉法における「淫行させる罪」や、地方公共団体が制定している青少年健全育成条例の淫行処罰といった、18歳以下の者に対する性犯罪が存在しています。現状でも、13歳以上18歳未満の者に対する特別な保護がまったくなされていないわけではありません。

また、未成年とはいえ、15、16歳といった年代は自由な恋愛ができる年齢でもあり、性交同意年齢を引き上げれば、こういった年齢の人たちの性行為を刑法で一切禁止することになってしまいます。この点も踏まえてより慎重に議論されるべきだと思います。

——諸外国と比較しても、日本の13歳という性交同意年齢は低いと言われています。

性交同意年齢が日本よりも高い国の場合、何らかの条件を付けているのが一般的です。

たとえば、16歳未満とするスイスでは、「年齢が近い者同士の性行為であれば処罰されない」といった条件を付けています。また、15歳未満とするスウェーデンでも、「児童に対する侵害が明らかにない」とみられる場合は不処罰とするという規定があります。

以上のような、各国の性犯罪に関する情報を知りたい方は、樋口亮介教授(東京大学)と深町晋也教授(立教大学)が編集された『性犯罪規定の比較法研究』(成文堂、2020年)をぜひお読みいただきたいと思います。