子どもと接する場で働く人に性犯罪歴がないかを確認する仕組み「日本版DBS」をめぐり、こども家庭庁の有識者会議は9月5日、報告書案を取りまとめた。

学校、認定こども園や保育所、児童養護施設などに確認を義務付けるが、学習塾や子ども向けスイミングクラブなどは対象外とし、認定制を設けることが適当としている。

一方、職業選択の自由やプライバシー侵害の問題、犯罪歴という個人情報を取り扱うことなどから、「日本版DBS」の対象を範囲を広げすぎないことや、性犯罪歴の情報が漏えいしないよう注意も必要だ。

日本版DBSの懸念点について、刑事政策にくわしい園田寿弁護士に聞いた。

●「再犯率が高い」は本当?

子どもにわいせつした人は再犯率がすごく高いから、なんとかしなければならないという論調になっていますが、その前提を厳密に考える必要があります。

報告書案には、「平成21年から令和3年までの性犯罪に係る検挙人員(20歳以上)のうちに性犯罪前科を有する者が占める割合は平均して約9.6%である」とあります。

約9.6%という数字は、窃盗や覚せい剤、恐喝や詐欺など、他の犯罪の比率と比較しても低い数字です。

また、報告書案には「再犯率に関連して84.6%の数値が触れられることがあるが、この数値は、再犯率ではなく、小児わいせつ型の性犯罪で有罪確定した者のうち、それ以前に2回以上の性犯罪前科を有している者(該当者は13名)について見た場合に、それらの前科に同じく小児わいせつ型が含まれていた者はそのうち11名であり、その割合は84.6%であったというものである」とあります。

これはサンプル数があまりに少ない。この84%という数字が独り歩きして一般に誤解されています。

●刑事政策とはまったく相容れない制度

日本版DBSの考え方は、日本の刑事政策の基本的な仕組みと合いません。

日本の刑事政策の根底にあるのは「更生」です。犯罪を犯して道を外れたけれども、悔い改めて戻ってきたら、同じ仲間として共同体の中で一緒に暮らしましょう、というものです。

一方、日本版DBSの考え方は、性犯罪を犯したら共同体から排除、排斥するという考え方です。

日本の刑事政策には、「刑の消滅」というのがあります。つまり、10年経ったら前科は消えるんです。日本版DBSでは、例外的に10年を超えてもずっと前科を登録しておくのか。これを認めてしまうと、今の刑事政策とはまったく相容れない制度になります。今まで築き上げてきた日本の仕組みを真っ向から否定するものです。

子どもに関わる仕事に限定しているからいい、という意見もありますが、憲法の職業選択の自由は、本来、何の制限もありません。憲法の基本的人権の制限になりますので、合理的な制約と言えるのかどうかが必要です。

もちろん、子どもを守るというのは重要なことです。しかし、この制度は本当に子どもを守れるのでしょうか。再犯する人を排除したいというもので、初犯の場合はまったく効果がないわけです。再犯10%に満たない数字で、憲法上の基本的人権を制約できるのでしょうか。

●他の業種に広がる可能性を懸念

そして、前科は、最もセンシティブな情報です。国が管理している前科の情報を、別の機関にうつして管理していいのか。

一口に性犯罪と言っても、ものすごく範囲が広い。迷惑行為防止条例や青少年健全育成条例に定められている罪もありますが、報告書案では、全国で条例の内容に違いがあることなどから、制度の対象とすることには課題があるとしています。そうなると、ほとんど意味がないんですよね。

日本版DBSができると、他の業種にも広がっていく可能性を懸念しています。たとえば、万引きの履歴は、雇う店側にとってはすごく知りたい情報ですよね。データベースを作ることが当たり前という考え方になると、どんどん職業選択の自由を狭めていくことになります。

では、どのような仕組みが良いのか。日本版DBSのようなブラックリストではなく、ホワイトリストに変えたら良いと思います。問題がない人のリストを作り、就職希望先にホワイトリストに載っているという証明を出すのです。

ホワイトリストに載っていない場合には、面接でその理由を個別に聞いていくことになります。こうしたリストならば、漏えいしてもダメージは少ないでしょう。

【取材協力弁護士】
園田 寿(そのだ・ひさし)弁護士
甲南大学法科大学院教授(刑事法)。大阪府青少年健全育成審議会副会長、大阪弁護士会情報問題委員会委員、自治体の公文書公開・個人情報保護審議会委員を歴任、著作に『情報社会と刑法』(成文堂、2011年)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(共著:朝日新書、2016年)など。
事務所名:木村永田法律事務所