離婚前後における子どもの養育支援に取り組む兵庫県明石市が打ち出した、養育費確保のための支援策が、全国的に注目を集めている。正式な書類で養育費の額を決め、相手方に支払い能力があるにもかかわらず、養育費が支払われていないひとり親家庭に対して、養育費の立て替えや相手方への給料の差押え、氏名の公表も含めた対策を行う。「子どもに寄り添った支援をしたい」と話す泉房穂市長に2019年12月、話を聞いた。(ライター・南文枝)

●養育費の受取率を5年以内に5割以上に

明石市が検討しているのは、「養育費不払いによる泣き寝入りの救済」を行う制度だ。調停調書や公正証書など正式な書類で養育費の額を決めながら、支払われていないひとり親家庭に対して、いったん市が立て替えをする。その際、市が不払いの親の債務を肩代わりしたという形になるため、市は求償権を行使して不払いの親に相当額の支払いを求める。支払い能力があるにもかかわらず応じない場合は支払い命令を出し、命令に従わない場合は、過料の徴収や氏名公表も検討する。

厚生労働省の2016年度の調査によると、母子家庭の養育費の受取率は24.3%。母子家庭の子どものうち4人に1人が養育費を受け取れておらず、このことが「子どもの貧困」の要因とも言われている。それを5年以内に、少なくとも半分以上の子どもたちが養育費を受け取れるようにするのが、明石市の狙いだ。

2011年に泉市長が就任して以降、明石市は、離婚前後の両親に対し、養育費や面会交流の方法などを取り決める参考にする「こどもの養育に関する合意書」の配布や、面会交流の立ち会いや場所の提供、児童扶養手当の毎月の支給など、様々な支援策を行ってきた。

2018年からは、市内のひとり親家庭を対象に、市が業務委託した民間の保証会社と保証契約を結ぶことで、養育費の不払いがあった場合に、保証会社から月5万円まで、1年間を上限に立て替え払い金を受け取れる事業を試験的に実施。現在18家庭がモニターとして参加している。

そして2019年5月、改正民事執行法が成立し、裁判所を通じて、離婚相手の勤務先や預貯金口座などの情報が得やすくなり、裁判所に養育費不払いの強制執行を申し立てやすくなったのを機に、立て替え制度を含めた養育費をめぐるテーマについて条例化の検討を始めた。

同年10月には大学教授や弁護士、NPO法人理事長らで構成する「こどもの養育費に関する検討会」をスタート。これまでに2回、会合が開かれた。今後は、市議会での条例案の提出を目標に、養育費の立て替えの範囲や条件、悪質なケースでの過料の徴収、子どもの同意を前提にした不払いの親の氏名公表など、施策の具体化に向けて検討する。

●「子どもに寄り添った支援を進めたい」

泉市長のインタビューでの主なやり取りは以下の通り。

――もともとどのような問題意識があったのか。

私は大学時代から、子どもの貧困や虐待などについて強い問題意識を持っていました。核家族化していく社会の中で、子どもを社会、まち全体で支えていかないと、日本に未来はないと考えていました。

マスコミで働き、30歳を過ぎて弁護士になっても、その思いは変わりませんでした。離婚に関する依頼があった時は、可能な限り子どもの意見を聞くようにしました。子どもは離婚後にどうなるのだろうという不安を抱えながら、親に気を遣っています。しかし、親はほとんどの場合余裕がなく、なかなか子どもの気持ちに寄り添えない。弁護士や裁判所は、ほとんどそのことに興味がない。がく然として、他の国のケースを調べました。

驚きました。日本以外の多くの国は、未成熟の子どもがいる離婚の場合は、行政か司法のいずれかが、養育費や生活保障、面会交流の取り決めなどを、子どもの立場に立って支援します。原則として、これらの取り決めがないと、なかなか離婚できません。それもせず、離婚届1枚で離婚を認めてしまうような国は日本ぐらいでした。約20年前のことです。

そのころから、離婚による子どもの不利益を減らせないかと、2003〜05年の衆議院議員時代を含め、離婚時に養育費や面会交流の取り決めを促す活動に取り組んできました。そして2011年に市長となり、14年から様々な支援策を進めてきました。それでもなかなか養育費の受け取り率が一気に上がるわけではないので、今回、総合的に検討を始めたのです。

●「養育費の立て替えありきではなく、普通に払ってほしいだけ」

――今回の支援制度のポイントは。

誤解されることが多いのですが、市が養育費を立て替えることが前提ではないんです。立て替えたいわけではなく、普通に払ってほしいんです。まず離婚の時に、子どものその後のことに関心を持つように促します。そして、養育費や面会交流の取り決めをして、正式な書類に残す。明石市はこれらを順番に支援して、支払い能力がありながら、正当な理由なく支払われない状況の時に、強制執行のお手伝いをするという流れです。

ちゃんと本来の手続きにのっとって養育費が支払われるよう支援したうえで、それでも支払われない場合に、市が立て替えて、同額を本来支払うべき方から回収を図ることになります。立て替えの場合には税金を使いますから、市民の理解が必要です。この制度に対して、どれだけ市民、市民の代表である議会の理解が得られるかが課題となります。

――行政による養育費の立て替えが注目されていますね。

どうしてもそちらが目立ちますが、立て替えありきではありません。不払いの親の氏名公表をしたいわけでもありません。養育費を普通に払ってほしいだけです。

市としては、立て替えを制度化する場合、その効果について期待しています。立て替えの前提となる債務名義として、調停調書などの正式な書類が必要になりますよね。離婚時に正式な書類を作成するケースはまだまだ少ないですが、明石に立て替え制度があれば、書類を作る動機が生まれます。養育費や面会交流を取り決める書類を作る動きにつながるんです。

また、市が延々と立て替え続けることもありません。立て替えの際に不払いの人の勤務先や、強制執行できる状況が分かれば、行政がかかわらなくても、正式な書類を裁判所に提出すれば強制執行できます。第三者がかかわることによって、不払いをしていた人が開き直れなくなるという形で払う動機が生まれることもポイントです。これらの点で、立て替え制度の効果は大きいと思っています。

●養育費をめぐる国民的な議論にも期待

――条例化を検討する理由は。

今回の支援策は、条例を作らないとできないわけではありません。しかし、私が市長でなくなった後も、これまでに行ってきた子どもの養育支援を安定的な制度として続けてほしいですので、条例化した方がいいと思いました。また、条例化の議論の過程で、市民や市議会の理解を得るとともに、他の自治体も参考にしてほしいです。

私は他の自治体でもぜひやってほしいし、こういった支援は本来、国がやるべきだと考えています。明石市の取り組みが注目されることで、養育費について、国民的な議論が活発になることを強く望んでいます。

<プロフィール> 泉房穂(いずみ・ふさほ) 1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学卒業後、NHKディレクターなどを経て1997年から弁護士。2003〜05年は衆議院議員を務めた。07年に社会福祉士の資格を取得し、2011年の明石市長選で初当選。現在3期目。