鈴鹿のパーツメーカー『OVERレーシングプロジェクツ』創始者である佐藤健正さんは、仲間と共にオリジナルマシン「OV-41」を製作し、海外のクラシックレース「TT-F1」進出を目指します。そのきっかけとなったのは、モリワキZEROのレストアでした。

熟成は進むものの、2戦目を走れなかった「OV-41」

 当記事では、オリジナルマシンの「OV-41」で、海外のクラシックTT-F1レース参戦を夢見る3人の男、車両製作を担当した『OVERレーシング』の佐藤健正さん、ライダーを務める『D;REX(ディーレックス)』の豊田浩史さん、そして発起人の寺嶋浩司さんの活動を数回にわたって紹介しています。

OVERの佐藤さんがフルレストアを行った「モリワキZERO」。モリワキ製フレームにヤマハXJ400Z用エンジンを搭載する車両は、世界で唯一、このレーサーだけだろう
OVERの佐藤さんがフルレストアを行った「モリワキZERO」。モリワキ製フレームにヤマハXJ400Z用エンジンを搭載する車両は、世界で唯一、このレーサーだけだろう

 今回はこの活動に至る“きっかけ”についてですが、その前にOV-41にとって国内レース2戦目となる、2022年5月14日、15日の『Taste of Tsukuba(テイスト・オブ・ツクバ)』の報告をしましょう。

 パッと見の姿は以前と同様でも、筑波サーキットで行なった数回の練習走行を経て、シリンダーヘッド上部にアルミ削り出しのエンジンマウントプレート、フレームの左右メインチューブ間に2本の連結パイプを追加したOV-41は、車体剛性を大幅に高めています。

 そして車体の改善と各部の煮詰めを行なったOV-41に、ライダーの豊田さんはかなりの好感触を得ていたのですが……。テイスト・オブ・ツクバの本番直前に他のマシンのテストで負傷してしまったため、残念ながら今回は参戦できませんでした。

 というわけで、当面の目標である“筑波サーキットを58秒台でコンスタントに周回”を実現するまでには、もう少し時間がかかりそうです。

ヤフオク経由で、モリワキZEROを入手

 続いて、ここからは当プロジェクトの原点の話です。そもそもの話をすると、OV-40とOV-41が誕生するきっかけは、寺嶋さんが今から約4年前に1980年代のTT-F3レーサー「モリワキZERO」を入手したことでした。

OVERが主催するサーキット走行会のアストライドで、自らがレストアしたモリワキZEROを走らせる佐藤さん
OVERが主催するサーキット走行会のアストライドで、自らがレストアしたモリワキZEROを走らせる佐藤さん

 ちなみに、寺嶋さんは1966年生まれの56歳で、若き日はカワサキ「GPz400F」や「Z1」、スズキ「GSX-R1100」などを愛用していました。もちろんレースも大好きで、中でも4ストローク1000ccが主役だった時代のTT-F1/耐久レーサーには、並々ならぬ関心を抱いていたそうです。

寺嶋「本当はTT-F1用のモリワキ・モンスターを探していたのですが、なかなかいい車両に出会えず、諦めかけていたときに、ヤフオクでモリワキZEROを見つけたんです。とはいえ、コンディションは悪そうだし、エンジンがヤマハXJ400Z用だったので、購入するかどうかでかなり悩んだのですが、貴重なレーサーであることは間違いないので、思い切って入手することにしました」

TT-F1とTT-F3を戦った、2種のモリワキ

 いきなりマニアックな話になってしまったので、以下に補足を記しましょう。まず「TT-F1」と「TT-F3」は、1980年代に絶大な人気を誇った量産車ベースのレースで、排気量上限は、F1が4ストローク1000cc(1984年以降は750cc)か2ストローク500cc、F3は4ストローク400ccか2ストローク250ccという設定でした。そして車体に関しては、基本的に規制が存在しなかったため、オリジナルフレーム車が数多く参戦していたのです。

レストア前の「モリワキZERO」。マービックのマグホイールやカヤバ製リアショック、スズキ「RGB」用ブレーキディスク、ヨシムラミクニVMキャブレターは、すでに賞味期限切れと言うべき状態だった
レストア前の「モリワキZERO」。マービックのマグホイールやカヤバ製リアショック、スズキ「RGB」用ブレーキディスク、ヨシムラミクニVMキャブレターは、すでに賞味期限切れと言うべき状態だった

 もちろん、1980年代に生まれたTT-F1とTT-F3レーサーを、現時点で入手するのは容易ではありません。とはいえ、国内外のネットオークションをマメに検索したり、マニアと交流を深めたりすれば、入手は不可能ではないのです(ごく稀にですが、海外ではTT-F1用のワークスレーサーが売りに出されることがあります)。

 中でも、入手が容易なほう……ではないかと思えるのが、1980年代前半から中盤のモリワキが手がけた、TT-F1用の「モンスター」とTT-F3用の「ZERO」でしょう。と言うのも、当時のモリワキは自社でオリジナルフレームのレーサーを走らせるだけではなく、フレーム単体やローリングシャシー、コンプリートマシンを市販していたのです。

 なおモリワキ自身は、モンスターには1000ccのカワサキZ用、初期のZEROにはホンダCBX400FやカワサキZ400FX用エンジンを搭載していましたが、いずれのフレームも小変更で他機種のエンジンを搭載することが可能でした。具体的な事例を挙げるなら、スズキGSX用エンジンのモンスターやZERO、ホンダCB-F用エンジンのモンスターなどが存在しました。

 ただし、モリワキZERO+ヤマハXJ400Zは、一般的な視点で考えると意外な組み合わせです。だからこそ寺嶋さんは購入時にかなり悩んだのですが、後に素性を調査してみると、興味深い事実が判明しました。その件については長くなりそうなので、また別の機会に紹介します。

佐藤さんがレストアを快諾した理由

 さて、細かい解説を書いているうちに今回の原稿が終盤に近づいてきましたが、モリワキZEROを入手した寺嶋さんは、すぐに自宅から気軽に行ける範囲内、関東近県のショップにレストアの相談を持ちかけます。とはいえ、素性がハッキリしない30年以上前のレーサーで、しかも補修部品の入手が難しいXJ400Zのパワーユニットを搭載しているからでしょうか、十数件に打診しても、作業を引き受けてくれるショップはありませんでした。

1983年から1985年に販売された「XJ400Z」は、ヤマハにとって初となる水冷DOHC4バルブ並列4気筒エンジンを搭載。現在は補修部品の多くが、メーカー欠品になっている
1983年から1985年に販売された「XJ400Z」は、ヤマハにとって初となる水冷DOHC4バルブ並列4気筒エンジンを搭載。現在は補修部品の多くが、メーカー欠品になっている

 そこで、寺嶋さんはOVERグループのクラシックバイク部門である『moto-JOY(モト・ジョイ)』に連絡を取ります。その理由は至って単純で、手元に来たモリワキZEROのマフラーがOVER製だったからなのですが、電話で打診を受けた佐藤さんはあっさり快諾。その事実に寺嶋さんは驚きを感じたのですが、常日頃から多種多様なクラシックバイクに接しているうえに、OVER創設前の1976年から1982年にモリワキに在籍した佐藤さんにとって、このレーサーのレストアは難事業ではなく、むしろ積極的に行ないたい仕事だったのです。

 と言うか、じつはこのレーサーがヤフオクに出展されている時点で、寺嶋さんと同様に佐藤さんも注目していたのです。もっとも、価格とコンディションを考慮して、佐藤さんは入札を見送ったのですが、頭の隅には姿形が残っていたため、寺嶋さんから電話で依頼を受けたときは、思わず、渡りに船? という気持ちになったようです。