鈴鹿のパーツメーカー『OVERレーシングプロジェクツ』創始者である佐藤健正さんは、仲間と共にオリジナルマシン「OV-41」を製作し、海外のクラシックレース「TT-F1」進出を目指します。「OV-41」へ至る「OV-40」について紹介します。

レストアの次は、オリジナルレーサー

 当記事では、オリジナルマシンの「OV-41」で、海外のクラシックTT-F1レース参戦を夢見る3人の男、車両製作を担当した『OVERレーシング』の佐藤健正さん、ライダーを務める『D;REX(ディーレックス)』の豊田浩史さん、そして発起人の寺嶋浩司さんの活動を数回にわたって紹介しています。

パッと見の雰囲気は1983年型のKR1000だが、実際のOV-40は、歴代KR1000のいいとこ取りと言える構成
パッと見の雰囲気は1983年型のKR1000だが、実際のOV-40は、歴代KR1000のいいとこ取りと言える構成

 これまでの展開をざっとおさらいしておくと、「主力機種として熟成が続くOV-41の詳細」、「往年のTT-F1レースの概要」、「プロジェクトの発端となったモリワキZEROのレストア」、という内容でした。

 そして今回の話題は、OV-41の新規製作へ至るきっかけになった、OV-40の開発経緯です。

オリジナルフレームの製作依頼は大歓迎!?

 このプロジェクトの発起人である寺嶋さんは、1980年代前半の「TT-F1」(スーパーバイクが普及する以前に世界各国で開催されていた、改造範囲が相当に広いプロダクションレース)の大ファンで、以前から「モリワキ・モンスター」(1980年代前半から中盤のモリワキが手がけたTT-F1用マシン)の所有を夢見ていました。

メインフレームの素材はクロモリ、シートレールはアルミ角パイプ、スイングアームエンドのチェーン引きは歴代KR1000に倣う形でエキセントリック式を採用
メインフレームの素材はクロモリ、シートレールはアルミ角パイプ、スイングアームエンドのチェーン引きは歴代KR1000に倣う形でエキセントリック式を採用

 そして「モリワキZERO」(TT-F3用マシン)をレストアしている最中も、海外のネットオークションをマメにチェックし、海外でモンスターの出物を見つけたのですが、残念ながら落札はできませんでした。そのあたりの経緯をOVERの佐藤さんに話したところ、だったらウチで作りましょうか? という答えが返って来たそうです。

寺嶋「もちろん、エッ? と思いました。OVERさんがこれまでに、いろいろなオリジナルフレームを手がけていることは知っていましたが、それは製品化、あるいは自社か著名なショップのレース用が前提で、個人の依頼を引き受けてもらえるとは思っていませんでしたから」

KR1000に準じる形で、フレームの左右メインチューブをキャブレター側面に配置しているのがOV-40の特徴。現代的な剛性を追求したOV-41の場合は、左右メインチューブがキャブレター上方を通過する
KR1000に準じる形で、フレームの左右メインチューブをキャブレター側面に配置しているのがOV-40の特徴。現代的な剛性を追求したOV-41の場合は、左右メインチューブがキャブレター上方を通過する

佐藤「そんなことはないですよ(笑)。何でもかんでもというわけではないですが、ウチでは個人の依頼も受け付けています。事実、寺嶋さんと出会う少し前に一般のお客さんの依頼で、カワサキZ1000JのフレームをKR1000風にモディファイする、という仕事をしました」

 ただし、1976年から1982年にモリワキに在籍した佐藤さんとしては、師匠に当たる森脇護さんの作品、モンスターのレプリカ製作は仁義を欠くと感じたそうです。そこで寺嶋さんと相談した結果、1980年代前半の世界耐久選手権で圧倒的な強さを誇った、カワサキ「KR1000」のレプリカとして、「OV-40」として製作することが決定しました。

歴代KR1000のいいとこ取り

 KR1000には大別すると4種の仕様が存在し、外装を装着したOV-40は1983年型を彷彿とさせる雰囲気です。とはいえ、左右メインチューブの幅を広めとしたクロモリ製ダブルクレードルフレーム+アルミ製シートレールや、上部にベルクランクを備えるリアサスペンションは1982年型、シンプルな正立式フォークとAPロッキードの2ピストンキャリパーを採用するフロントまわりは1980年型、下部にスタビライザーを備えるアルミスイングアームは1980年から1981年型が規範と思える構成です。

1980年から始まった世界耐久選手権で、カワサキKR1000は1981年、1982年に王座を獲得。写真は1982年、ライダーはジャン・ラフォン
1980年から始まった世界耐久選手権で、カワサキKR1000は1981年、1982年に王座を獲得。写真は1982年、ライダーはジャン・ラフォン

寺嶋「仕様については特定の年式にこだわらず、いいとこ取りをしました。KR1000と言うと、アッパーカウルとシートカウルが大柄な1982年以前を思い出す人が多いですが、OV-40の外装は私のこだわりで、シンプルでスッキリした1983年型を再現しています」

 こうした経緯で誕生したOV-40ですが、日本のクラシックレースでオリジナルフレームが認可されているクラスはごくわずかしか存在しないため、寺嶋さんと佐藤さんは、海外で開催されるクラシックTT-F1レースに目を向けるようになります。

 そしてそれを前提にして、国内最大の草レースである『Taste of Tsukuba(テイスト・オブ・ツクバ)』の改造無制限クラス、ハーキュリーズで熟成を図ろうとしたのですが……。実際に筑波サーキットを走ったライダーの豊田さんは、1分3秒前後をマークしつつも、OV-40に厳しい判断を下しました。

Z1000MkII用をベースとするエンジンは、アフターマーケット製の鍛造ピストンを使って排気量を1100ccに拡大。点火ユニットはイギリスのエレクトリックワールド製、5速ミッションはクロスレシオ化
Z1000MkII用をベースとするエンジンは、アフターマーケット製の鍛造ピストンを使って排気量を1100ccに拡大。点火ユニットはイギリスのエレクトリックワールド製、5速ミッションはクロスレシオ化

豊田「1台のレーサーとしては、よく出来ていて、面白いと思いました。ただし、非常にレベルが高いハーキュリーズで熟成を行なうのは、正直言って厳しいんじゃないかと。具体的な話をするなら、エンジンが空冷Z用では絶対的なパワーが足りないし、往年のTT-F1レーサーを意識した足まわりは、いろいろな意味で気遣いが必要です。もちろん現状も参戦はできますが、上位進出は難しいですし、上位進出しないと戦闘力は上がらないでしょう」

佐藤「最初からハーキュリーズで熟成することが決まっていたら、KR1000の再現にこだわらず、現代的な構成を採用したんですけどね。豊田さんの意見を聞いた後はOV-40の改革も考えましたが、寺嶋さんと今後の方針を協議したうえで、現代的な運動性能を獲得することを念頭に置いて、OV-41を新規製作することにしました」

レジェンドライダー、多田喜代一さんを起用

 さて、ここまでの話では何だか立つ瀬が無くなってしまったかのように思えるOV-40ですが、2020年の秋、佐藤さんは自社で開催するサーキット走行会「ASTRIDE(アストライド)」に、1980年代中盤から1990年代前半にカワサキのライダーとして活躍した多田喜代一さんを招き、OV-40のデモランを依頼しました。

OV-40を駆って、筑波サーキットの第1ヘアピンを立ち上がる多田喜代一さん。1954年生まれの68歳という事実が信じられないほど、その走りはアグレッシブ
OV-40を駆って、筑波サーキットの第1ヘアピンを立ち上がる多田喜代一さん。1954年生まれの68歳という事実が信じられないほど、その走りはアグレッシブ

 そして久しぶりの空冷Zレーサーのフィーリングが気に入った多田さんは、2021年からOV-40を駆って、MCFAJのオーバー40レンジェンドクラスへの参戦を開始しているのです。

寺嶋「ZXR-7の黎明期となる1980年代中盤以降の活躍が有名ですが、1980年から1981年にモリワキに在籍した多田さんは、往年のTT-F1をよく知るライダーです。そういう方にOV-40に乗ってもらえるのは、私にとっては望外の喜びで、いまはOV-41の熟成だけではなく、少しずつ全盛期のアグレッシブさを取り戻していく、多田さんの進化も楽しみにしているんですよ」