レーシングドライバーの木下隆之さん(筆者)は、トム・クルーズ演じるマーヴェリックの愛車はスズキ「Hayabusa」の方が適しているのではないか? と言います。どういうことなのでしょうか?

映画『トップガン マーヴェリック』を2回観る

 ふたたび映画『トップガン マーヴェリック』を鑑賞した。初回は字幕版。今回は日本語吹替版だ。翻訳家・戸田奈津子ファンでもある僕(木下隆之)は、まずは役者の生声と字幕の連動性を楽しむことにしている。字幕で満足してから2度目は吹き替えで映像に没頭。そうすることによって、より作品の深層を理解することかできるからだ。

『トップガン マーヴェリック』(c) 2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
『トップガン マーヴェリック』(c) 2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

 噂にたがわず娯楽として面白かった『トップガン マーヴェリック』だが、二度見すると、細部に意識が回る。役者の振る舞いや台詞回し、あるいは舞台設定や演出を楽しむ余裕が生まれるのだ。素人監督になりきって「オレだったらこう演出するのになぁ……」なんてブツブツ心の中で呟いたりするわけである。

 この作品には大満足なのだが、「あれっ?」と首を傾げたくなる点がひとつだけあった。それは、例のバイクの疾走シーンである。

 伝説の撃墜王「マーヴェリック」を演じるトム・クルーズが、カワサキ「GPZ900R」で登場する。超音速で飛行する戦闘機パイロットであり、ちょっと異端児的な性格であるマーヴェリックには、ヤンチャなイメージのカワサキブランドと、その中でも激速な「GPZ900R」がよく似合う。バイク乗りとして、この機種をチョイスした演出家に拍手を送った(心の中で)。

 ただ、2回目の鑑賞で、これってスズキ「隼(ハヤブサ)=Hayabusa」の方が適していたのではないか……? と思ってしまった。

 マーヴェリックは劇中で、人類最速のマッハ10.2を記録する。誰よりも速く戦闘機を操る。つまり、置き換えるならば世界最速の猛禽類である「隼」であろう。猛禽類の隼は時速300km/hで滑空するという。一方、スズキ「Hayabusa」の最高速度は、時速300km/hオーバーに達する……。「Hayabusa」と「隼」。開発のコンセプト通り、組み合わせとしてこれほどピッタリなのも珍しい。

 重ねて言うならば、「Hayabusa」が誕生したその頃、ホンダは「CBR1100XXスーパーブラックバード」が最速マシンとして君臨していた。その記録を破ったのが「Hayabusa」だ。

 ブラックバードとは、アメリカ空軍の超音速偵察機「SR-71」のことであり、世界最速であることから、ホンダは「スーパー」を加えて命名している。つまり、その世界最速の空軍機(の名を冠したホンダのバイク)を駆逐した「Hayabusa」こそ、マーヴェリックの愛車とするのが筋ではないのか……と、思ってしまったのだ。

 そんなことを考えていたら、2度目の映画鑑賞は上の空。モヤモヤと疑問を抱えているうちに緞帳が降ろされた。

 だが、帰宅後あらためて調べてみると、マーヴェリックの愛車が「Hayabusa」であるわけがない確かな理由が判明した。映画『トップガン』は1986年に封切りした。スズキ「GSX1300R Hayabusa」の誕生は1999年。つまり「Hayabusa」はまだ生まれてはいなかったのだ。

 バイクの量産市販車最速を巡り、スーパーブラックバードを駆逐した出来事がもっと早かったら、おそらくトム・クルーズがまたがっちゃうのは「Hayabusa」だったかもしれない。