トライアンフは、ミドルクラスの3気筒スポーツネイキッド「ストリートトリプル765」の最新シリーズをスペインで発表しました。モーターサイクルジャーナリストのケニー佐川がMotoGP最終戦のバレンシアからレポートします。

トライアンフの新型市販車発表がMotoGP会場で行われたワケ

 英国が生んだ世界最古級のモーターサイクルブランドが「TRIUMPH(トライアンフ)」です。“大勝利”を意味するトライアンフの、ミドルクラススポーツネイキッド「ストリートトリプル765」にシリーズ最新モデルが登場するとのことで、その国際メディア発表会に参加するためスペインのバレンシアへ行ってきました。会場はMotoGP最終戦が開催されたリカルド・トルモ・サーキットです。

トライアンフが供給するストリートトリプル765ベースのエンジンで競われるMoto2。マシン性能差がほとんどなく毎戦激しいバトルが展開される。最高速は300km/hに達する
トライアンフが供給するストリートトリプル765ベースのエンジンで競われるMoto2。マシン性能差がほとんどなく毎戦激しいバトルが展開される。最高速は300km/hに達する

 何故、トライアンフの市販車がMotoGPのサーキットで発表されるのでしょうか、それには深い理由がありまして、実はMoto2マシンに搭載されるエンジンはトライアンフが供給しているのです。

 参考までに、Moto2とはFIMロードレース世界選手権の各クラスの中で、最高峰のMotoGPに次ぐ2番目のクラスにあたります。以前は2スト250ccマシンのカテゴリーでしたが、2010年からレギュレーションが変わってホンダ製4スト4気筒600ccのエンジンワンメイクになり、2019年からはこれに代わってトライアンフが独占的公式サプライヤーとして4スト3気筒765ccエンジンを提供しています。

 このエンジンを使って、各チームはシャーシビルダーと協力してマシンを作り上げレースに挑みますが、エンジンワンメイクなのでマシン性能差がほとんどなく毎回、見応え十分の激しいバトルが展開されます。

 そのMoto2用の水冷並列3気筒エンジンというのが、実はストリートトリプル765用をベースに開発されているのです。ルーツを辿ると、フルカウルスーパースポーツのDaytona 675Rをベースに排気量を765ccに拡大して2017年に登場した、新型ストリートトリプルRSが搭載する3気筒765ccエンジンがベースになります。これにレース専用チューンを施し、パワーとトルクの大幅な向上が図られたのがMoto2用エンジンです。

MotoGPバレンシアGP開催ウィークのリカルド・トルモ・サーキット特設会場にて新型ストリートトリプル765のメディアローンチが開催。アンベールが行われた
MotoGPバレンシアGP開催ウィークのリカルド・トルモ・サーキット特設会場にて新型ストリートトリプル765のメディアローンチが開催。アンベールが行われた

 そして今回、発表された新型ストリートトリプル765シリーズには、苛烈を極めるMoto2レースからフィードバックされた知見と技術を注いだ新型エンジンが搭載されています。

コンセプトは「公道を走れるMoto2マシン」

 新型マシンは3タイプで、スタンダードモデルの位置づけの「R」と上級モデルの「RS」、そして今回初めてラインナップに加わった限定モデルの「Moto2エディション」です

「Moto2エディション」は“公道を走れるMoto2マシン”がコンセプトの最強バージョン。出力はRS同様だがクリップオンハンドル、前後オーリンズ製サス。189万5000円(税込)
「Moto2エディション」は“公道を走れるMoto2マシン”がコンセプトの最強バージョン。出力はRS同様だがクリップオンハンドル、前後オーリンズ製サス。189万5000円(税込)

 いずれも見た目は従来モデルから大きく変わっていない印象ですが、全体的によりエレガントに洗練された感じです。ひと言で表現すると、昨年デビューした兄貴分たる新型「スピードトリプル1200RS」のミドル版、となるでしょうか。同じようにフロントが小顔になり、ボディもシェイプされたより現代的なフォルムになっています。

 トライアンフは伝統を大事にするメーカーで、生み出される製品も少しずつ改良を重ねて熟成させていく手法がとられることが多く、ストリートトリプルシリーズも毎回、地味ではありますが確実に進化してきました。

「RS」は上級バージョンで最高出力は130psにアップ。リアサスペンションにオーリンズを採用。車体のディメンションもRより戦闘的になっている。149万5000円(税込)
「RS」は上級バージョンで最高出力は130psにアップ。リアサスペンションにオーリンズを採用。車体のディメンションもRより戦闘的になっている。149万5000円(税込)

 車体とエンジンのベースは3タイプとも共通で、水冷並列3気筒はボア・ストロークや排気量こそ従来どおりですが、燃焼室とピストンが新設計となり、圧縮比を上げることで燃焼効率を高め、従来から一気に7psアップの130ps(スタンダードの「R」は120ps)を実現しています。

 フレームやサスペンションも従来型をほぼ踏襲していますが、「R」の前後サスペンションがSHOWA製なのに対し「RS」はリアショックにオーリンズ製を採用するなど足まわりが強化されました。

「R」はスタンダードの位置づけで最高出力120ps。前後SHOWA製サスペンションを採用。ライドモード、コーナリングABS&トラコンは全タイプに装備。119万5000円(税込)
「R」はスタンダードの位置づけで最高出力120ps。前後SHOWA製サスペンションを採用。ライドモード、コーナリングABS&トラコンは全タイプに装備。119万5000円(税込)

 全タイプとも、新スロットルマップを採用する進化したライディングモードと、コーナリング対応のABSおよびトラコン、クイックシフターが投入されるなど、電子制御も最新化されています。

 そして、今回のトピックスはやはり「Moto2エディション」でしょう。“公道走行可能なMoto2バイク”をコンセプトに、レーシングカラーをまとい、サスペンションはリアだけでなくフロントフォークにも最新のオーリンズ製を装備しました。ハンドルもクリップオンタイプが採用され、より前傾した戦闘的なライディングポジションになっています。

ストリートトリプルのエンジンで競われる「Moto2」の様子に鳥肌!

 現地発表会のコンテンツの一環としてMoto2チームに密着取材ができる機会があり、自分(ケニー佐川)はそのひとつ、「Speed Up」チームに1日、張り付いていました。同チームは、昨年のMotoGP王者であるクアルタラロもかつて所属していたイタリアの名門で、想像していた以上に多くのスタッフが関わりシステマチックに運営されていることに驚きました。世界選手権なので当たり前といえばそれまでなのですが、ピットクルーの練度や機材、ホスピタリティなど、日本だと鈴鹿8耐に出てくるメジャーチームくらいの充実度を感じました。

「Speed Up Racing」はイタリアの強豪チーム。走行する度にマシンを全てバラして完璧に整備する様子を見せてくれた。アロンソ・ロペス選手は将来が楽しみなひとり
「Speed Up Racing」はイタリアの強豪チーム。走行する度にマシンを全てバラして完璧に整備する様子を見せてくれた。アロンソ・ロペス選手は将来が楽しみなひとり

 発表会の合間には、MotoGP各クラスの公式練習やレースを観戦するラッキーにも恵まれました。バレンシアGPでのMoto2のラップタイムは、おおむねMotoGPから5秒落ちくらいといったところでした。MotoGPクラスが最高出力240ps以上で、レギュレーションの中でやれることは何でもやってくる最強プロトタイプマシンであることを考えると、市販車ベースのエンジンを搭載するMoto2のレベルの高さが、逆に凄いなと感じます。もちろんライダーの腕も一流ですが、ストリートトリプルの3気筒エンジンのパフォーマンスも大きなファクターになっているでしょう。

 Moto2マシンのやや低くビブラートがかかったように調律されたサウンドは、まさにトライアンフ3気筒そのもの。スタンドから観戦していてもコーナリングスピードはMotoGPと遜色なく、ロングストレートでの最高速は300km/hを超えます。ストリートトリプルのエンジンであんな凄い走りをしていると考えると鳥肌ものでした。

Moto2エディションと筆者(ケニー佐川)。MotoGP2022最終戦バレンシアGPパドックにて
Moto2エディションと筆者(ケニー佐川)。MotoGP2022最終戦バレンシアGPパドックにて

 というわけで、気になる新型ストリートトリプル765の発売時期ですが、来年春頃を予定しているとのこと。日本デビューが待ち遠しいですね。