「当時のホンダ車のラインナップは、V4モデルやフルカウルを装備したCBRシリーズを頂点とした構成で、CBブランドを強烈に印象付けるようなスタンダードなビッグバイクがありませんでした。社内で後輩たちのバイク談義などを聞いていても他社の逆輸入直4モデルのことばかりで、その現実に憤りさえ感じていました」と、BIG-1のラフスケッチを描いたデザイナーの岸 敏秋さんは当時を振り返ります。開発責任者を務めた原 国隆さんらの貴重な証言を30年の節目にまとめました。
ファンの見る目が違う
「1968年にCB750フォアが登場した時と同じ反応でした。もうお客様の目の色が違うんです」

プロジェクトBIG-1を立ち上げ、1992年にビッグネイキッドブームの呼び水となった『CB1000SUPER FOUR』をリリース。続く『CB1300SUPER FOUR』でも開発責任者を務めた原 国隆さんは、91年の東京モーターショーに“BIG-1”を参考出品したとき、CB750フォアの再来であることを確信しました。

デザイナーの岸 敏秋さんも「来場者の熱量を感じました。自分たちとお客様は共感できている、と感慨深い光景でした」と振り返ります。
30周年を祝う限定モデルが登場
ホンダを代表するブランドである“CB”。そのフラッグシップとして“BIG-1”はロングセラーを続け、ついに30年。2022年12月15日には受注期間限定モデルとして『CB1300スーパーフォアSP 30th Anniversary』および『CB1300スーパーボルドールSP 30th Anniversary』も発売されました。

両モデルとも前後サスペンションをオーリンズ製にし、ゴールドに輝くインナーチューブ径43mmのフロントフォークや大容量リザーバータンクを備えるツインショックにグレードアップした「SP」がベース。フロントブレーキにはブレンボ製モノブロック対向4ポットラジアルマウントキャリパーを装備しています。

30周年記念車では初代イメージのホワイト×レッドの車体カラーにゴールドのラインを施し、フューエルタンク上部には記念マークも入りました。
スチール製のダブルクレードルフレームはメタリックレッドにペイントされ、ホイールやポイントカバーも煌びやかなゴールドとしています。
まさに集大成とも言える限定エディションで、実車を目の当たりにすると、威風堂々とした存在感や迫力は写真以上のものがあり、憧憬の念を抱くのでした。
はじまりは1枚のラフスケッチから
生みの親たちにも、ただただ敬服するばかりです。『CB-1』の車体に『CB1100R』の燃料タンクを載せたラフスケッチを描いたのは岸さんで、「CBブランドを強烈に印象付けるようなスタンダードなビッグバイク」としてイメージしたものが、プロジェクトBIG-1の発端となります。

『CB-1』はレーサーレプリカブームがまだ続く1989年に発売した400ccのハイパフォーマンスネイキッドで、普遍的なバイクのシルエットをファンらに再認識させ、人気を集めました。前年(88年)には国内二輪車販売における排気量の上限自主規制が撤廃され、大型バイクブーム到来の気配を岸さんや原さんは察知していました。
デザイン現場の責任者だった中野耕二さんは、岸さんのスケッチを見て「おっ、いいね!」と共感します。とあるバイクユーザーから「ホンダはバイクの選択肢は多いけど、中心は250と400の会社だと思う」という感想を聞かされショックを受けていたので、そんなイメージを覆す新しい直4ビッグバイクが欲しいと考えていたのです。

まだ非公式のプロジェクトであるにも関わらず、多くの開発者の目に触れやすいようデザイン室の一等地でクレイモデルで検討を始め、「大人の乗るバイクがない」と感じていた原さんも加わって、社内の賛同者が増えていきます。
社内では当初、反対の意見も
しかし、「新技術のない2本ショックのモデルでは、欧米での売り上げ台数が見込めない」という営業的な見地から却下されてしまうものの、岸さんらはクレイモデルを廃棄せず、デザイン室の小部屋に隠してアイデアを出し合うことをやめませんでした。

そして、「社内に反対意見があるのなら、お客様に直接問うてみよう」(原さん)と、すでに開発が進んでいた『CB400スーパーフォア』のイメージ訴求という位置づけで、東京モーターショーに参考出品。“BIG-1”のネーミング通り堂々とした車格で、「大きい」「迫力がある」というインパクトによって受け入れられたのでした。
当時はV4モデルを中心に担当し、後年になって『CB1300SF』を手掛けることになる完成車テストの工藤哲也さんは、「最初に見た時は“こんなデカいの、どうするんだ!?”って思いましたが、とてもトルクフルで“太い走り”が感覚的に理解できました」と、はじめて乗った時のインパクトをこう語ります。
限定解除の試練なくなり追い風に
『CB1000SF』は93年に約4000台を売るヒットモデルとなり、95年には大型二輪免許の教習所取得が解禁されたことも追い風となってビッグネイキッドブームが訪れます。

1998年には1300ccにスケールアップし、ライバルに対抗。『CB1300スーパーフォア』は販売計画を上回る4600台を売り上げ、シーンを牽引し続けていくのでした。
この2代目は「“あれもこれも”と欲張りすぎて」と原さんが言う通り、車両重量が260kg→273kgに増えて、強烈にでかい! そこで2003年に発売した3代目では、20kgレベルの減量を果たします。「もう一度、スポーツバイクとしてのCBの原点を見つめてみようと思ったのです」(原)

グラマラスなボディから、シャープなボディへと変身を遂げた『CB1300スーパーフォア』は、マイナス19kgの254kg。車体サイズは歴代で最もコンパクトで、ショートホイールベースとなりました。
2代目『CB1300スーパーフォア』のデザインについて岸さんはこう言います。

「斜め後ろに跳ね上がったスラッシュ感のあるテールがポイントで、音や排出ガスの規制で大きくなったサイレンサーのサイズを意識させないダイナミックなスタイリングが完成しました。また、初代モデルの原点とも言える水冷エンジンの外観も見直し、カムタワー周りやカバー類の造形をガラリと変えています」
完成度高く、満足が行く出来栄え
2005年に高速道路二人乗りが解禁されると、ハーフカウルを装備した『CB1300スーパーボルドール』も設定されます。工藤さんはロングセラーを続けるBIG-1に対し、まだ進化の余地があると見ています。

「03年のフルモデルチェンジで手応えを感じ、05年モデルでは国内ナンバーワンを目指したのですが、そこで満足できる仕上がりになりました。だから、それ以降はあまり手を入れるところもないだろうなと当時は思っていましたが、18年の出力向上やサウンドの演出、19年のSP仕様を見て“まだまだやり方があるな”と感じています」(工藤)

2017年の『CB1000R』のプロジェクトリーダー(開発責任者)内田聡也さんの言葉を思い出します。「CBの伝統は、変えない事ではなく、ロードスポーツの王道にチャレンジし続けることなのです。それは時代と共に進化するものであり、次の時代の王道を切り拓くことがCBの役割なのです」