スズキの鈴木俊宏社長は2023年1月26日夕方に開催した「2030年度に向けた成長戦略説明会」で、バイクの製品展開、カーボンニュートラル対応について初めて言及しました。国内では2025年に排気量50ccクラスのバイクに適用される環境対応強化でガソリン車の生産が危ぶまれていますが、国内の環境規制に対応する内容はありませんでした。
2030年までに、バイクは4台に1台がバッテリーEV
スズキの鈴木俊宏社長は、バイクのカーボンニュートラル対応について、次のように話します。

「通勤・通学や買い物など、生活や仕事の足として利用される小型中型車は2024年度にバッテリーEV(電動バイク)を投入し、2030年度までに8モデルを展開する」
この7年間で、同社はバイクにおけるBEV(バッテリーEV)の割合を、パワートレイン比率で25%まで引き上げる予定です。生産するバイクの4台に1台をBEVにする計画は、世界市場を前提にしているので、国内でどの程度のスズキ電動バイクが走ることになるのかは分かりません。
しかし、日本ではまさに小型車である「原付」(排気量50ccクラス)が、2025年の環境規制強化で瀬戸際に立っています。適用されると、ガソリン原付車の生産は事実上不可能になります。
スズキは国内市場での小排気量のガソリン車生産を縮小していることもあり、2024年に初投入するBEVが、国内市場向けなのか、それともアジア市場向けなのかは、ユーザーにとって切実な問題です。
バイクの革新的カーボンニュートラル対応を続けるスズキ
スズキの主な市場は、成長が著しいインドです。同社は四輪車でも2024年度に、インド市場で6モデルのBEVを展開することを公表しました。ただ、インドでは依然として生活向けの給電が重要であること。電力共有が安定しないことなどから、BEVだけなく、HEV、CNG、バイオガス、エタノール配合燃料なども視野に入れた商品展開を考えています。

スズキは、インドで牛の排泄物(牛糞)を使ったバイオガスの製造に取り組み、10頭の牛糞で1台の1日の燃料に相当するカーボンニュートラル対応として、四輪車への供給を目指しています。
アジア市場のこうした電力事情を考えると、バイクのBEV初投入がどの市場を目指して行なわれるのかは、ますます予測がつきません。
一方、「Hayabusa」など高い評価を受けている大型バイクについて、鈴木氏はこう語りました。
「長距離ツーリングや趣味性の強い大型車は、カーボンニュートラル燃料での対応を検討している」
MotoGPでも合成燃料が導入され、内燃機関をそのまま使える取り組みとしてカーボンニュートラル燃料は期待されていますが、一方で、ガソリンスタンドのような燃料供給のインフラ整備が課題となっています。当分、ガソリン車の供給が続きそうです。
スズキはバイクのカーボンニュートラル対応で、他社に先駆けた取り組みを続けてきました。搭載型バッテリーの電動バイク試作が主流だった時代に、着脱式のバッテリーによる試作車を公表したり、世界で初めて水素燃料電池によるスクーターを試作し、日本で初めて「バーグマンFC」として型式指定を取得した実績もあります。そのスズキが初めてBEV投入を公表したのです。
「お客様の課題を解決したい、がスズキの原点」と話す鈴木社長は、バイク市場にどう切り込んでいくのでしょうか。