2016年に新登場したロイヤルエンフィールド初となるアドベンチャーモデル「HIMALAYAN(ヒマラヤ)」は、排気量411ccの空冷単気筒エンジンを搭載し、日本では2020年より導入開始、2022年1月発売モデルでは環境規制ユーロ5に対応した新型となりました。先代モデルと比較しつつ試乗しました。
威圧感の無いアドベンチャースタイル、悪路を走れば全体のマッチングに驚く
ロイヤルエンフィールドの「HIMALAYAN(ヒマラヤ)」(日本国内ではヒマラヤという呼称を採用)は、乗りやすく、しかもどこへでも連れて行ってくれるマルチパーパスなバイクです。

搭載するエンジンの排気量が411ccと、微妙に普通自動二輪免許で運転出来る領域を超えているため、大型自動二輪免許が必要になりますが、この空冷SOHC2バルブ単気筒エンジンは、同社のエンジンらしい豊かな個性を持ち、ライダーをゆったりとした気分でどこへでも連れて行ってくれるのです。言うなれば「朗らかバイク」なのです。
フロントに200mm、リアに180mmのサスペンションストロークを持ち、フロント21インチ、リア17インチの細身なタイヤがその足まわりを受け持ちます。燃料タンク容量は15リットル。丸型ヘッドライトを支えるフレームがユニークで、そこには走行風を軽減するスクリーンも装備されています。こうして造られる全体のムードは、どんな道でも走破しそうなツーリングバイクです。
シート高は800mmと、数値的にはロードバイク並みです。車体がスリムなこともあり、足つきに不安がありません。車重が199kg(もちろん満タン計量で)なことも、手強さを感じさせないポイントでしょう。ハンドルバーはオフロード走行に備えた幅広なもの。それでも840mmという全幅から想像できるように、ここにも大柄な印象ではなく、手の内に収まるサイズ感をライダーに届ける「ヒマラヤ」なのです。

「個性的」と紹介したエンジンの特徴は、ロイヤルエンフィールドらしいロングストローク型のエンジンと、トルクを予感させる重厚感ある回転フィールにあります。ボア×ストロークが78mm×86mmで、パッとアクセルを開けると、トトトトン、トトトンと歯切れの良い排気音を出し、エンジン内部で起きる一発ごとの爆発が伝わるかのよう。ビッグシングルの鼓動を楽しみたい、という人にもヒマラヤは魅力的です。
1速にシフトしてクラッチを繋ぐと、低速回転から豊富なトルクで車体を押し出します。力強いのに荒々しさはありません。回転をことさらあげずとも速度が増してゆくような不思議なタイプで、例えるなら、歩幅を広く大股で進むような感じなのです。実際に5速あるギアを早めにシフトアップしても、低い回転数からエンジンが力を発揮するのです。

市街地でのハンドリングは、21インチのフロントタイヤ、長いサスペンションを持ちながらも、意外に軽快です。メーター、ヘッドライトなどが車体にマウントされていることもあって、低速走行時にハンドルまわりに重たさがありません。このメリットはツーリングでも実感できます。例えばワインディングロードでは、タイトなヘアピンカーブや長くカーブが続く道でも、ヒマラヤは軽快で安心感のあるコーナリング性能を披露します。道が多少荒れていてもやんわりと吸収してくれる足まわりとフレームの合わせ技で、緊張感が高まりません。
高速道路を走る「ヒマラヤ」は、100km/h巡航までは余裕です。120km/h規制の道もその速度に合わせて走れます。しかし、それ以上の速度域では苦しくなりそう。パワーが24馬力程度であり、5速でのギアレシオも6000rpm近く回っています。むしろ80km/hで巡航すれば、ガソリンが無くなるまで走れるような気もしてきます。大型トラックで荒れた走行車線も、長いサスペンションで快適。ここでもエンジンが大股で走るような感触が心地良いのです。6速が欲しくなる瞬間もありますが、これも「ヒマラヤ」の個性として受け止めておきましょう。
今回乗った最新の「ヒマラヤ」は、以前走らせたユーロ4仕様の車体と比較して、エンジンのパワー特性が滑らかになった印象です。メーターまわりにターン・バイ・ターンの矢印方式のナビを投影することができるモニターも標準装備になりました。

以前バイクのイベントで知り合った人が、インドのヒマラヤ、標高5000メートルを超す峠を目差し、ロイヤルエンフィールドで走った話を聞きました。赴任先のインドの道や、ヒマラヤに向かう酸素の薄い高地で想像以上にタフだった、とその印象を語っています。それを実感することがありました。「ヒマラヤ」で林道を走ったときのことです。ロングストロークのエンジンが持つ、路面を掴むようなトラクション特性を発揮し、パワー感こそ無いものの、アクセルを大きく開けても後輪が横へ無駄に滑ったりスライドせず、前へ前へと押し出してくれるのです。結果、何倍もパワーがあるバイクを置いてゆくほど加速につながる。
これはつまり、扱いやすいのです。確かに、市街地やワインディングでペースを上げれば、もう少しブレーキ性能を高めたい、と思う部分もありますが、悪路を走ると全体のマッチングがスゴイ!
「ヒマラヤ」の車体やエンジンが生み出す安心感の造り方は、ひとつの真理なのかも知れない……そんな意味で、冒険に最適なバイクなのだ、と思ったのです。
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ロイヤルエンフィールド「HIMALAYAN(ヒマラヤ)」の価格(消費税10%込み)はカラーリングによって異なり、87万4500円からとなっています。