主に2輪メディアでライダーやジャーナリストとして活躍中の松井勉さんが、2022年にアジア最大のラリーイベント『Asia Cross Country Rally』(通称:アジアンラリー)に初参加しました。それが2輪ではなく4輪で、しかも助手席に!? そんなお話【動機・準備編】です。

いったいナゼ? 参加に至った経緯、そもそもアジアンラリーって?

 私(筆者:松井勉)は、2022年に開催されたFIA公認クロスカントリーラリー『Asia Cross Country Rally(アジアクロスカントリーラリー、通称:アジアンラリー)』に、チーム「WURTH TRD HILUX MSB Tras 135」から参加しました。日本でも人気の4WDピックアップトラック、トヨタハイラックスをベースにしたクロスカントリーラリー車両のサイドシートに、ナビゲーター(コ・ドライバー)として6日間、約1500kmのラリーに挑戦したのです。

チーム「WURTH TRD HILUX MSB Tras 135」のトヨタハイラックスをベースにしたクロスカントリーラリー車両
チーム「WURTH TRD HILUX MSB Tras 135」のトヨタハイラックスをベースにしたクロスカントリーラリー車両

 アジアクロスカントリーラリー(以下、AXCR)のアウトラインを紹介すると、国際自動車連盟であるFIA公認の、2輪、4輪が参加できるクロスカントリーラリーです。

 クロスカントリーラリーとは、国境を跨ぎ、ルートに砂漠、荒れ地を含み、長距離、長い日数を経てスタートからゴールへと走るモータースポーツです。クルマ、トラック、バイク、サイドカー、ATV、UTV、SSV(サイドバイサイドビークル)と呼ばれるバギー等、クロスカントリービークルが参加可能です。象徴的なビッグイベントとしては、ダカールラリーがお馴染み。

 AXCRは1996年から続く歴史あるイベントで、毎年8月中旬に開催されています。これまでタイ王国を中心に、マレーシア、シンガポール共和国、中華人民共和国、ラオス人民民主共和国、ベトナム社会主義共和国、カンボジア王国、ミャンマー共和国など、8カ国を舞台に毎回コースや通過国を変えてルート設定がされるのも特徴です。

 過去の通例では7日間、総走行距離2000km程度に設定され、ルートの特徴は雨期の熱帯雨林を走破すること。その中には山岳路、ジャングル、沼地、ゴム畑などのプランテーションも含まれ、それらを通過し、雨が降れば普通の道すらドロ沼に変貌する場所をあえて進むのが、この冒険ラリーの醍醐味とされているようです。

アジアンラリー2022の様子。2輪(MOTO部門)にはタイ周辺国をはじめ、日本からも多くのライダーが参加する
アジアンラリー2022の様子。2輪(MOTO部門)にはタイ周辺国をはじめ、日本からも多くのライダーが参加する

 2020年、2021年はCOVID19感染拡大の影響により開催を中止しましたが、2022年は8月から11月に会期を延期して、タイからカンボジア王国に跨がる、6日間でおよそ1500kmの行程で開催されました。

 さて、2輪ジャーナリストであり、バイクの参加者も多数いるこのイベントに、ナゼ私は4輪で参加したのか。そのあたりをQ&A方式でお伝えしようと思います。

Q.なぜ、4輪でイベントに出たの?

A.「冒険ラリーに一緒に出ない?」というお誘いにワクワクしたから。そしてFIA公認の4輪のモータースポーツラインセンスを持っていたから。この2点が発火点です。FIA公認のラリーに参加するためには、FIAインターナショナルCというコンペティションライセンスが必要になります。

ドライバーを務めた新田正直さんは筆者のバイク仲間。いろいろあってアジアンラリーへの参加を決め、それに巻き込まれるようにサイドシートへ着座した
ドライバーを務めた新田正直さんは筆者のバイク仲間。いろいろあってアジアンラリーへの参加を決め、それに巻き込まれるようにサイドシートへ着座した

 今回、ドライバーを務めた新田正直さんは、私のバイク仲間です。新田さんは国内で4輪のラリーにトヨタアクアで挑戦し始め、その流れで「世界のラリーに挑戦したい」という思いが膨らみ、その道のプロに相談した結果、AXCRにたどり着き、参加するための車両の準備、海外ラリーに出場するためのライセンスの取得など準備を進め、機が熟した2022年、一緒に参加することになったのです。

Q.チーム名の意味は?

A.メインスポンサーなどが入っています。

 まず「WURTH(ウルト)」は、今回の我々のチームのメインスポンサーです。ドイツの企業で工具、ボルト類、ガレージ用品、ケミカルと言った、バイク、クルマに親和性の高いものから、建設用資材など幅広い製品、商品を扱う会社です。

 今後、コンシューマー向けに日本でもメジャーになる存在として注目をしています。企業ロゴは創業者であるアドルフ・ウルトがネジの行商から起業したことにちなみ、ネジの頭を模しています。それは今も主力商品のひとつで、82カ国にグループ会社を持ち、従業員は7万6000人、売上は1兆6000億円という大企業です。

「WURTH(ウルト)」の看板を背負っての参加。取り扱う商品はクルマやバイクとの親和性も高く、バイク用品店でも見かける
「WURTH(ウルト)」の看板を背負っての参加。取り扱う商品はクルマやバイクとの親和性も高く、バイク用品店でも見かける

 次に「TRD HILUX MSB」は、4輪のモータースポーツ好きなら説明不用、トヨタ・レーシング・デベロップメントの頭文字がTRD。ホンダのHRC、スズキのヨシムラのようなイメージを私は持っています。そしてハイラックスは人気の4WDのピックアップ。MSBはモータースポーツベースの頭文字です。

 最後の「Tras135」は、ドライバーでありチームオーナーである新田正直さんが代表を務める会社「Tras(トラス)」と、鈴鹿8時間耐久ロードレースや4輪のレースに参戦した際に使ったゼッケン「135」を組み合わせたものです。

Q.クロスカントリーラリーの経験はあったの?

A.ハイありました。

 ここからは私、個人のコトです。人生初のクロスカントリーラリー参加体験は4輪のナビゲーターでした。1988年1月1日にベルサイユ宮殿前からスタートしたパリ〜ダカール・ラリーです。 

 その前年、1987年11月にメキシコ、バハカリフォルニアで開催されている長距離オフロードレース、バハ1000にバイクで参加したのが、自身初海外オフロードレース体験で、このバハ1000には、2011年まで断続的にバイクで参加しています。そのほか、1992年にはパリ〜ル・カップ(その年のダカールラリーです)、1995年に当時、ラリーレイドモンゴルと呼ばれたラリー等があります。

ドライバーの新田さん(左)と筆者(右:松井勉)
ドライバーの新田さん(左)と筆者(右:松井勉)

 参加をする毎に課題が見つかり、次へのモチベーションになりました。レース活動はもとより、海外ラリーの取材やエクスペディションツアーでサハラ砂漠(の一部)、中米各国、南米大陸南部、ロシアから中央アジア、オーストラリア大陸の縦断など、長い時で数カ月、1000〜1万kmほどの距離を移動する取材旅行もそうとう刺激的で、自分の血となり肉となっています。

Q.海外イベントに参加するために用意するものは?

A.まず、渡航にまつわるものとして必須なのが、有効期限を6カ月以上残したパスポート、海外で運転をするための国際免許、入国の際に必要となる書類などを航空会社、大使館などが発出している情報で確認します。

 今回、タイとカンボジアの2カ国に跨がるコース設定がされていたため、カンボジア大使館でビザを取得をしました。カンボジアのビザはオンラインで取得し、スマホで表示することも可能です。

 しかし今回はクルマで移動しながら国境を越えるため、路上にあるボーダーコントロールでもっとも混乱無く通過できるよう、パスポートにビザが貼付されたものを用意するよう、主催者からアナウンスがありました。もし、スマホの電源が入らない、電波を拾えない、という状況でも進めるような配慮です。

タイからカンボジアへ。国境を跨ぐと通行帯は左から右へ変わる(写真/青山義明)
タイからカンボジアへ。国境を跨ぐと通行帯は左から右へ変わる(写真/青山義明)

 国際免許の取得は、運転免許試験場での申請がデフォルトで、私は都内の新宿運転免許更新センターにて申請、取得しました。また、先述したモータースポーツライセンスも、AXCRの参加者受付では必須となります。

 次に、競技中に使用する装備品です。2輪との違いを中心にお伝えします。

 バイクでモータースポーツに参加する時、サーキットならばレーシングスーツ(革ツナギ、ツナギと呼ばれます)が必要ですが、4輪にも必須アイテムがあります。ヘルメットなど4輪用と2輪用では共用できないと考えるのが正しいようです。FIAが定める耐火性能に関する規定が、4輪用には必要になってくるからです。

 まずヘルメットについて。チームではアライヘルメットのGP-J3を使いました。スネルSAに加え、FIA8859規格に批准した製品です。バイク用のジェットタイプに近いフォルムをしていますが、バイザーの形状や、耐火素材で造られた内装やアゴひも。そしてHANSデバイスを装着するためのチタン製ターミナルが装着されています。

ヘルメットはアライの「GP-J3」に素晴らしいペイントを施した仕様。アライロゴの下にあるのがHANSのアンカー。コミュニケーションツールはバイクでもお馴染みのSENAを利用。機材が帽体の外に出ないタイプ。本来ワイヤードタイプのインカムを搭載していたハイラックスですが、Bluetoothヘッドセットを選択した理由は、ステージ中、ナビがドライバーを車外から誘導することを想定してのこと
ヘルメットはアライの「GP-J3」に素晴らしいペイントを施した仕様。アライロゴの下にあるのがHANSのアンカー。コミュニケーションツールはバイクでもお馴染みのSENAを利用。機材が帽体の外に出ないタイプ。本来ワイヤードタイプのインカムを搭載していたハイラックスですが、Bluetoothヘッドセットを選択した理由は、ステージ中、ナビがドライバーを車外から誘導することを想定してのこと

 ちなみにヘルメットのペイントは、新田さんが代表を務めるカーボンコンポジット製品の会社内ペイント事業部のペインターが手がけたもので、素晴らしい塗装をしていただきました。見るだけ、被るだけでテンションが上がる仕上がりとなっています。

 そしてHANSデバイスですが、これはヘッド&ネックサポートをするアイテムです。バイクで言えば、ネックブレースでしょうか。クルマの場合、競技用車両には乗員は通常の3点式ではなく、6点式のシートベルトが装備されています。衝突時にも体をしっかり保持することが可能で、上半身をガチっとキメるだけに首に掛かる衝撃が大きくなります。そこでヘルメットとストラップで結び、本体を両肩にかけるシートベルトと共締めにすることで、首の可動範囲を規制するのがHANSの役割です。

 ドライバー、ナビゲーターの横にある窓には横転時など車外に手や頭が出てしまうのを防ぐ目的で、ナイロンベルトで造ったサイドネットも装着されています。ヘルメットを被り、HANSを装着して、サイドネットを窓側に装着すると、普段のクルマで見られる横の視界は、イメージ的に半分程度になります。

 レーシングスーツ類は、2輪でサーキットを走る時に革ツナギ、ブーツ、グローブ、脊椎パット、フルフェイスヘルメット等々が必要なのと同様に、クルマでモータースポーツをするにはレーシングスーツ、シューズ、グローブ、そして耐火アンダーウエアが必要になります。

 ヘルメット同様FIA規格8856-2018に適合している必要があり、2輪用のウエアでもお馴染み、アルパインスターズブランドでレーシングスーツ、ブーツ、グローブは固めました。「カッコ良いいのが一番!」そんな新田さんのアイディアからです。最新作を選んだため、ブーツの履き心地も最高。その分、バイクのサーキット用具一式を揃える程度のコストが掛かりました。

アジアンラリー初挑戦(写真/青山義明)
アジアンラリー初挑戦(写真/青山義明)

 ほかにも、健康診断を受診し、それをFIAフォーマットに則った健康証明書的なものをドクターに英文で作っても請も必要でした。必要な時期までに必要なものを揃える。それは時に時間との闘い(小さいですが)でした。

 さてさて、AXCRの話はまだ続きます。