スズキの新型アドベンチャーモデル「V-STROM 800DE」の海外試乗会に、ジャーナリストの松井勉さんが参加しました。日本への導入に期待が高まる万能ツアラーの完成度の高さとはどのようなものなのでしょうか。

ファミリー構成に新たな動き、プレミアムクラスに次ぐモデルを新開発

 2022年11月、スズキはEICMA(ミラノショー)でニューモデル「V-STROM 800DE」(以下:800DE)を発表しました。そして年が明けた2月、イタリアのサルディーニャ島を舞台にそのメディア試乗会が行なわれ、ワタクシ(筆者:松井勉)、ビシッ! と乗って参りましたので報告します。

スズキ新型「V-STROM 800DE」に試乗する筆者(松井勉)
スズキ新型「V-STROM 800DE」に試乗する筆者(松井勉)

 まずはアウトラインから。「V-STROM(ブイ・ストローム)」シリーズと言えば、舗装路を主体とした万能ツアラーとして欧米の主要バイク消費国で高い人気を持っています。

 日本でも排気量650ccと1050ccクラスの水冷Vツインエンジンを搭載するシリーズと、直列2気筒を搭載した250ccクラス、そしてジクサーと同じ油冷単気筒を載せた「SX」の発売もアナウンスされるなど、同じシリーズ名のファミリー構成で見れば、日本でも屈指のアドベンチャー・シスターズ(ブラザース?)でもあります。

 また、大型モデルでは「1050XT」に替わり、前輪に21インチタイヤを履きオフロードライディングも楽しめる「1050DE」が登場するなど、本格派アドベンチャーバイクファンに向けた訴求力をさらに高めているのも印象的。

 さらにこのセグメントで最近注目のアンダープレミアムクラスに向け、ここに紹介する「800DE」が登場したのです。

排気量776ccの水冷直列2気筒DOHC4バルブエンジンを搭載。クランク前とクランク下に2本のバランサーシャフトを備え、スムーズな回転を実現。その特性も素晴らしかった。エンジンの前後長が短いため、スイングアームピボットも前方に置くことができた
排気量776ccの水冷直列2気筒DOHC4バルブエンジンを搭載。クランク前とクランク下に2本のバランサーシャフトを備え、スムーズな回転を実現。その特性も素晴らしかった。エンジンの前後長が短いため、スイングアームピボットも前方に置くことができた

 搭載されるエンジンは、今後の環境規制への対応も視野に入れた直列2気筒、90度位相クランクを持つ水冷4ストロークDOHC4バルブです。V型2気筒と同様の不等間隔爆発をするこのエンジンには、Vツインと比較して次のようなメリットがあります。

 まず、エンジン全長を短縮化、軸間距離におけるスイングアーム長を稼ぐことできる。これによりハンドリング性能を向上させています。また、エンジンの搭載位置も理想的な場所に配置しやすくなり、フレームの剛性バランスやサスペンション設定を煮つめることで、総合的にオンロード、オフロードでの高いハンドリング性能を手に入れているのです。

 もちろん、ボア×ストロークなど基本的なフィーリングや特性造りをミッチリ検討して造り上げたそうなので、期待「大」です。

 サスペンションは前後とも220mmと長いストローク量を持ち、前輪に21インチタイヤを履くことからダート性能が高いのも特徴です。最低地上高もしっかり確保され、ファミリーに新たな1ページが加わった、そう解釈したい新型なのです。

 しかしスズキは、ことさら悪路性能の高さを強調せず、「V-STROM」シリーズが培ってきた日常性、万能性を持ち、従来モデルと同じ路線の上にあると語ります。実際、走ったらどうなのでしょうか。

スズキ新型「V-STROM 800DE」
スズキ新型「V-STROM 800DE」

 ぱっと見のサイズ感は、会場にあった「1050DE」と比べても遜色ありません。容量20リットルの燃料タンク、カウルなどを装備し、長いサスペンションストロークにより背が高いためなおさらです。つまり、大きい感じがします。

 跨がるとタンクやシートなど、ライダーがコンタクトする部分をスリムに仕上げているので、車体の大きさはスッと薄れます。素材に鉄を使ったフレームは、充分な強度を出しながらもパイプ径を細身にでき、車体のスリム化に貢献したというミリ単位の設計の成果でしょう。

 シート高は855mmあるものの、足をまっすぐ下せるので足つき感に不安がありません。ステップ位置、ハンドルのグリップ位置はいわゆるアドベンチャーバイクらしいものです。アップライトかつゆったりしていて、長距離移動が快適そう。

全体の完成度は高く、路面問わずツーリングの行動半径を拡げてくれる

 新型のエンジンは、排気音などから鼓動感が伝わります。振動は低く、グリップ、ミラーに不快なブレもありません。アイドリングから充分なトルクを生み出し、1速に入れてクラッチレバーだけで発進も楽々。これは「ローrpmアシスト」という機能がそれとは気づかせないようライダーを助けているのかもしれません。

集落から海岸線、峠へと走り出せば、乗り心地の良さ、快適性、ハンドリングの素直さ、サスペンション設定の妙が伝わってくる
集落から海岸線、峠へと走り出せば、乗り心地の良さ、快適性、ハンドリングの素直さ、サスペンション設定の妙が伝わってくる

 会場から出発した試乗コースは、集落から直線を抜けて海岸線を目指します。第一印象は乗り心地の良さです。前後のサスペンションともフリクションが少ない印象で、走行距離はまだ100km程度のバイクですが、しっとりとした動きで、しんなりと路面からの衝撃を吸収しています。ナックルガードとウインドスクリーンの防風効果も、快適に走るために貢献していることがわかります。

 直線からワインディングへと変わります。21インチの前輪と17インチの後輪を選んだ理由は、舗装路でのハンドリングの良さを狙ったものだと開発者は話していました。カーブに向けてリーンさせると、フロントタイヤがしっかりと路面を捉え、曲がり出すハンドリングは素直。かつ走りを楽しめるもので、今日一日このまま峠を走ることに集中したくなります。ここでも前後サスペンションには設定の妙を感じます。ピッチングはするものの、上下にフワつかず、無駄な姿勢変化をしないのです。

 標準装備されるタイヤは、「800DE」用に内部構造やトレッドの溝の深さまで専用に設計したダンロップ製「トレールマックス・ミックスツアー」で、ハンドリング、グリップ感もこの車体にまさにジャストフィットしていると感じました。

スズキは「V-STROM」シリーズが培ってきた日常性や万能性を新しいファミリーの一員にも継承し、悪路性能の高さをことさら強調することは無かったが、ダート路での走りは舗装路同様に十分楽しいものだった
スズキは「V-STROM」シリーズが培ってきた日常性や万能性を新しいファミリーの一員にも継承し、悪路性能の高さをことさら強調することは無かったが、ダート路での走りは舗装路同様に十分楽しいものだった

 手短にダート路での走りに関してもお伝えします。ハンドリングやサスペンションの吸収性、そしてグリップ感やコントロール性についても舗装路同様、解りやすく乗りやすい! そして楽しいのです。

 ダート路で活躍するトラクションコントロールは、このエンジン用にチューニングされた「G(グラベル)モード」で、舗装路用モードでは滑りを察知するとスロットルバルブを調整してパワーを絞るのに対し、Gモードでは点火を遅らせるなどしてパワーを減じながら、スムーズに過度な滑りを抑制するように仕事をしています。

 ダートでパワーを使って曲がりたい、向きを変えたいというライダーの思いをしっかりと受け止めつつ、理想的な姿勢まではテールスライドを許容するものの、必要以上は抑えてくれるという働きで、「800DE」との一体感を楽しめます。

アルミラゲッジケースもオプションで用意。荷物を載せた状態での安定性を確認するため、横風の吹くことが多い自社テストコースでかなりの速度域までテストを繰り返したという
アルミラゲッジケースもオプションで用意。荷物を載せた状態での安定性を確認するため、横風の吹くことが多い自社テストコースでかなりの速度域までテストを繰り返したという

 全体に完成度が高く、路面を問わないツーリングといった行動半径を拡げてくれそうなバイク。それが「V-STROM 800DE」でした。

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 スズキ新型「V-STROM 800DE」の日本導入時期や価格は未発表です。2023年3月17日より、大阪、東京、名古屋で開催されるモーターサイクルショーに参考出品車として展示される予定です。