OEMという用語は、メーカーが自社ブランドで販売しない製品を作ることをさします。しかし、この定義だけを聞いてピンとくる人は多くないかもしれません。バイク業界でもOEM製品はたびたび目にしますが、一体どのような制度なのでしょうか。また、なぜバイク業界ではOEMが採用されているのでしょうか。
現在はホンダとヤマハがOEMで連携
OEMと聞いて、どのような制度か説明できる人は多くないかもしれません。ましてやバイク業界でどのように活用されるかを知っている人は、さらに限られるはずです。OEMとは、一体どのような制度なのでしょうか。

OEMは、正式には「Original Equipment Manufacturer」といい、「本来の製品の製造者」という意味を持ちます。日本語では「相手先ブランド製造」とも言われ、他社のブランドで販売する製品をメーカーが作ることをさします。
OEMの始まりはコンピューターや電子部品の業界でしたが、今では家電やクルマ、バイクの業界にも普及しています。しかし、現在売っているバイクのうち、どれがOEMかを把握している人は多くはいないでしょう。

では、具体的にはどのような車種がOEM生産されているのでしょうか。
例えば2016年10月に、ホンダとヤマハは原付一種のOEM供給などで協業を検討すると発表しました。ホンダが製造した製品をヤマハが販売するという構造で、実際に2018年にはホンダのエンジンやフレームなどを採用したヤマハ「ジョグ」「ビーノ」の販売が始まりました。

2車種のベースはそれぞれホンダの「タクト」「ジョルノ」であり、外装こそベース車両とは違うものの、エンジンのケースにはホンダのロゴが入っています。
なお、かつてはスズキとカワサキがOEM提携をしていましたが、現在国内で提携しているのはホンダとヤマハの2社のみとなっています。
このホンダとヤマハの協業は、昔のバイク業界を知っている人にとっては意外だったかもしれません。かつてこの2社は、”HY戦争”と呼ばれる熾烈な販売競争を繰り広げていたからです。
1980年ごろ、原付一種の国内販売台数がピークを迎えていた時期に戦争と称されるほどの覇権争いをしていた2社が協業するようになるとは、当時の人は誰も思わなかったでしょう。
OEMのひとつのメリットはコストカットにある
かつてしのぎを削るライバルであった2社を協業させた理由は、どのようなものだったのでしょうか。
協業の背景には、原付一種の市場の厳しい縮小があります。日本自動車工業会のホームページによると、HY戦争真っ只中の1980年、原付一種の生産台数はおよそ250万台でした。一方、ホンダとヤマハが協業することを発表した前年の2015年には、7万台を下回っています。
バイクに限らず全ての製品は、大量に生産するほど製品一つあたりにかかるコストが減ります。裏を返せば、生産量が減ってしまうとその分一つあたりにかかるコストが増えてしまうのです。
原付一種の市場の縮小は、一台あたりの生産コストの上昇を招きます。そこでホンダとヤマハは、それぞれ別々のエンジンを企画、製造するより片方の設備で共通のものを作ったほうが開発、製造にかかるコストが抑えられると考えたと予想できます。これこそが原付一種の生産において2社を協業させた理由だと言えるかもしれません。
また、コスト以外にも技術的な理由などで自社では製造が難しい製品もOEM供給される場合もあります。

ちなみにかつてスズキとカワサキが相互にOEM供給していた時には、スズキからはビッグスクーターとオフロードが、カワサキからはスポーツネイキッドとオフロードが供給されていました。
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OEMは、現在のバイク業界においては効率的に原付一種を生産し、コストを抑えるために活用されています。原付一種は市場の縮小だけでなく排ガス規制の問題もあり、厳しい状況に立たされているため、原付一種をめぐる今後の動向に注目したいところです。