老舗内燃機屋「井上ボーリング」で、年間700台ものヘッド再生を行うベテランヘッド技師が、不動車となったホンダ「ベンリイC92」の再生とモディファイを行う連載。第6回目は、ホンダ「スーパーカブ70」用O/Sピストン流用を決めた、ホンダ「ベンリイCD125」シリンダーのボアアップに必要な、銅ガスケットを製作します。

O/Sピストンに合わせたヘッドガスケットの製作

 メーカー純正のヘッドガスケットは、オーバーサイズピストンのボア径に合わせてノーマル(STD)のものよりも大きい穴径で作られているため、0.5㎜や1.0㎜といったO/Sピストンに合わせたボーリングを行っても、ヘッドガスケットはSTDの物がそのまま使えるようになっています。

 しかしレース用などの、さらに大きなピストン径へのボアアップをするには、純正ヘッドガスケットの穴径を超えてしまう為、専用のガスケットが必須。

 車種別のボアアップキットなど、ヘッドガスケットまでセットになって販売されている物もありますが、今回の様に他車種のピストンを流用する場合は、ヘッドガスケットを別で用意しなければなりません。
 
 そんな時に役立つのが、弊社でおこなっている「銅ガスケット製作」というメニュー。純正ヘッドガスケットから、スキャナーで取り込んだ形状データをCADCAMで編集し、任意のボア径に変更した上でマシニングを使って、銅板から切り出して必要なサイズのヘッドガスケットを作成します。

スキャナーで取り込んだガスケットのデータをCADCAMで編集
スキャナーで取り込んだガスケットのデータをCADCAMで編集

古い外車等の希少車でヘッドガスケットが入手できない場合でも、実車から外したヘッドガスケットがあれば同様に加工をすることが可能で、厚みを変えて製作する事もできます。

 なお、スキャナーで取り込んだデータを基にしている都合上、どうしても若干の誤差が出てしまう為、切り出してそのまま組める訳ではなく、ノック穴などシリンダーに合わせられるよう、若干の修正は必須。

 同様にボア径も誤差を見越して若干大きくする必要がありますが、今回は敢えて小さく作成し、シリンダーボーリング時にノックピンを入れた状態でガスケットを載せ、同時に加工する事でシリンダー内径とピッタリ同径に仕上げました。

実はノーマルエンジンの圧縮は低い?

ヘッドガスケットを載せた状態でボーリングして同径に
ヘッドガスケットを載せた状態でボーリングして同径に

冒頭で純正ヘッドガスケットは、O/Sピストンに対応する分ボア径が大きいと説明しましたが、自分がこの事について強く意識する様になったキッカケはスズキ「GS750」のオーバーホールを行った時でした。

 弊社の主力商品であるICBMの耐久テストをする為に、純正STDピストンに合わせたアルミメッキスリーブを4本準備しましたが、全て同じスリーブでは鋳鉄シリンダーとの比較にならないと思い、メッキは2本で1本は鋳鉄材のターカロイ、もう1本は純正スリーブで走行し、減り具合を比較する事に急遽変更。

 純正スリーブはオーバーサイズピストンにしなければならず、仕方なく鋳鉄シリンダー2本は0.5㎜O/S、メッキシリンダー2本はSTDで仕上げる事になったのです。

 しかし、エンジンが組みあがって実圧縮を測定すると、メッキシリンダー2本はサービスマニュアル通りの8.7㎏/cm2から8.8㎏/cm2ですが、鋳鉄シリンダー2本は何故か、9.3㎏/cm2から9.4㎏/cm2もあったのです。

 多少の変動はあって当然ですが、ここまでの違いがある事は予想外でした。

STDピストンと0.5mmO/Sピストン混在で組んだエンジンを搭載したスズキ「GS750」
STDピストンと0.5mmO/Sピストン混在で組んだエンジンを搭載したスズキ「GS750」

 さらに上の1㎜オーバーサイズだったら、何処までハイコンプになってしまうのか?そこまで変わってしまうと、キャブセッティングも同じとはいきません。

 その要因の一端がヘッドガスケットだったのです。

 一般的にオーバーサイズピストンに合わせてボーリングしたエンジンが以前より力強く感じるのは僅かな排気量の違いよりも、むしろ圧縮が上がった事に依ると考えられます。

 この考えが間違っていない事を確信したのは、ベンリイC92のレストアを始める直前に、通勤用のホンダ「CB250RS」をレストアした時のことでした。

 CB250RSはピストンクリアランスが良好な状態であった為、シリンダーに関してはそのままで組む事にしましたが、ヘッドガスケットはSTDピストンΦ74㎜に対して2㎜O/Sピストンまで対応しています。

 厚さ1㎜のヘッドガスケットで片肉1㎜ものスキマがあったなら、当然圧縮は下がるので、厚みは同じ1㎜のまま銅ガスケットを使用して、Φ74.3mmにしました。

 そうすることで他の要因は変わらずに圧縮が上がった場合、キャブレーションがそのままでは濃すぎる状況になりますが、純正で#112だったメインジェットが#72まで下がったことで、アクセルレスポンスとトルク感が別物の様に良くなり、カタログ値25馬力とは思えない位には速いと感じられるバイクに仕上がったのです。

銅ヘッドガスケットでハイコンプ化に成功したホンダ「CB250RS」
銅ヘッドガスケットでハイコンプ化に成功したホンダ「CB250RS」

 話が逸れましたが、これでベンリイC92の部品単位でのオーバーホール作業や必要部品の準備は全て終わり、組立ができる状況が整いました。

 次回は、エンジンの組み立てをしていきます。