牛丼店「吉野家」を展開する吉野家ホールディングス(HD)は2019年12月26日、ステーキ店「ステーキのどん」「フォルクス」やしゃぶしゃぶ店「しゃぶしゃぶどん亭」などを展開する完全子会社のアークミールを、焼き肉チェーンを手がける安楽亭へ譲渡すると発表した。金額は非公表。20年2月末までに手続きを終える。

 アークミールは主に肉料理の業態を手がけ、19年11月末時点で158店を展開しているが、競争の激化で業績が悪化していた。19年2月期の営業損益は9億3000万円の赤字(前の期は2億1200万円の黒字)に陥った。売上高は前期比10%減の202億円だった。また、期末の純資産は3億3700 万円のマイナス(前の期末は17億9200万円のプラス)と債務超過になった。

 アークミールが足を引っ張り、吉野家HDの業績も悪化した。吉野家HDの19年2月期の連結最終損益は60億円の赤字(前の期は14億円の黒字)に転落。固定資産などの減損損失51億円を計上したことが響いたが、そのうちの9億円はアークミールによるものだった。

 フォルクスの1号店が誕生したのは1970年。76年にはステーキのどんの1号店が誕生した。それぞれ別の企業が運営していたが、のちに合併し、アークミールの前身企業であるどんが誕生。同社を吉野家HDが08年に連結子会社した。

 どんは、吉野家HDの子会社となる直前の08年2月末には191店を展開していた。吉野家HD傘下で業績向上を目指していたが、08年8月に腸管出血性大腸菌O-157による食中毒事故が発生し、リーマン・ショックによる不況も相まって業績は悪化していった。それを受けて不採算店の閉鎖を進め、11年2月末には170店まで減っている。

 どんは、しばらくは厳しい状況が続くことになった。しかし、13年2月に米国産牛肉の輸入規制が緩和され、15年1月に日豪経済連携協定(EPA)が発効して豪州産牛肉にかかる関税が大幅に下がったことで、状況が変わった。これらが起爆剤となり14年前後に「肉ブーム」が活発化し、アークミールに追い風が吹いたのだ。

 こうした状況のなか、吉野家HDはどんの再建を一気に進めていった。15年9月に完全子会社化し、同時に商号をどんからアークミールに変えている。

 肉ブームを追い風に吉野家HDはアークミール事業の店舗数を増やしていった。13年2月末時点では172店だったが、16年2月末時点には186店まで拡大している。それに伴い、売上高も増えていった。

いきなり!ステーキに負けて急失速

 だが、増加していたアークミール事業の売上高は、17年2月期に前期比5.7%減となる229億円に落ち込んだ。18年2月期も2.2%の減収となったが、吉野家HDはその理由として「ステーキ・しゃぶしゃぶ業態における競争が激化した」ことを挙げている。19年2月期に至っては9.9%減の202億円と激減したほか、8億4100万円のセグメント損失(前の期は2億900万円のセグメント利益)の計上を余儀なくされている。同期の不振の理由は前の期と同じだった。

 アークミールの業績が悪化したのは競争が激化したためだが、特に大きいのはペッパーフードサービスが展開するステーキチェーン「いきなり!ステーキ」だろう。いきなりステーキは13年12月に1号店を出し、立ち食い形式にすることでコストを削減して低価格を実現、それを武器に勢力を拡大してきた。肉ブームも追い風になった。19年11月末時点の国内店舗数は489店にも上る。

 アークミールの業績が特に厳しかったのは先述の通り19年3月期だが、この頃のいきなりステーキの出店攻勢は凄まじかった。19年3月末時点のいきなりステーキの国内店舗数は1年前から199店増えて433店に倍増している。

 さらに、この頃はアークミールのステーキ店が主戦場としている郊外ロードサイドにいきなりステーキが出店攻勢をかけていた時期だ。かつてのいきなりステーキは都市部の駅前を中心に出店を重ねてきたが、17年5月に郊外ロードサイド初となる店舗をオープンして以降、同立地に積極的に出店を重ねてきた。こうして、いきなりステーキとアークミールのステーキ店の競争は激しさが増していった。

 最近のいきなりステーキは、既存店売上高が18年4月から19年11月まで20カ月連続で前年を下回るなど苦戦が伝えられているが、この頃は勢いがあった。18年3月までは12カ月連続で前年超えを達成していた。しかも、前年同月比の増加率が高い月が多く、同期間で増加率が30%超の月は5カ月もあった。このように勢いに乗っていたいきなりステーキが郊外ロードサイドを中心に勝負を挑んできたため、アークミールの業績は悪化するようになったといえる。

 アークミールのステーキ店といきなりステーキが近接しているケースは少なくない。たとえば、「ステーキのどん三鷹店」(東京都三鷹市)と「いきなりステーキ三鷹東八道路店」(同調布市)の距離は車で10分と近い。19年8月末に閉店した「ステーキのどん武蔵村山店」(同武蔵村山市)と「いきなりステーキイオンモールむさし村山店」(同)の距離も車で10分だった。このように、アークミールのステーキ店といきなりステーキは激しい戦いを繰り広げているのだ。

 こうしてアークミールは厳しい状況に置かれている。一方でいきなりステーキは失速したとはいえ、それでも依然として大きな勢力を誇っている。アークミールのステーキ店は今後も厳しい状況 が続くことが見込まれる。そうしたなか、吉野家HDはアークミールを安楽亭に売却し、主力事業に資源を集中させる狙いだ。

 一方の安楽亭は、関東圏を中心に焼肉店「安楽亭」などを19年12月26日時点で219店を展開している。アークミールのステーキ店とは食材や店舗運営、出店立地などで相乗効果が高いと判断し、同社を立て直しいきなりステーキとの戦いに勝利したい考えだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。