ここへ来て、ジャパンディスプレイ(JDI)の経営再建に関する不透明感が高まっている。すでにJDIは主力工場の操業を停止し、キャッシュの流出を抑える状況になっているようだ。言い換えれば、同社の資金繰りはかなり厳しい局面に至っているということだ。

 投資家の立場から考えた場合、難しい状況に陥ったJDIに資金を提供するにはかなりの覚悟が必要だろう。台湾と中国の企業が参画してできたSuwaインベストメントホールディングスが、JDIへの出資を行わなかったことはそれを確認する良い材料といえる。国内外の企業や投資会社などがJDIに長期の視点で資金を拠出し、再建への取り組みを支えることは容易なことではないだろう。資金調達などをめぐる、JDIと投資会社などの交渉は紆余曲折が予想される。

 それに加え、JDIを取り巻く事業環境も一段と不確定になりつつある。同社では第3者委員会による不適切な会計処理に関する調査が進められている。それに加え、世界のディスプレイ市場では競争が激化している。同社がどのように中長期の資金繰りにめどをつけ、事業体制を安定させることができるか、今後の展開は読みづらい。

JDIへの出資を見送った台中連合

 台中の企業連合によって構成されたSuwaによる資金拠出の見送りは、今後のJDIの再建を考える上で見逃せない要素を含んでいる。特に、技術力の吸収を狙った外国企業にとってさえ、JDIの事業継続のリスクが軽視できないまでに高まったと考えられることは重要だ。

 Suwaは、台湾のタッチパネル大手であるTPK、台湾の投資ファンド、中国の投資ファンドであるハーベストテックの3社から構成された企業連合(コンソーシアム)だ。2019年4月、JDIはSuwaから同年末までに計800億円の資金支援を受け取ることに合意した。この時点で台中の3社には、1社ではなく複数の企業でリスクを分担すれば、技術力の吸収を目指してJDIに出資し、利得を手に入れることは可能との見方があったはずだ。言い換えれば、対中連合がJDIの増資に応じるためには3社の足並みがそろい、その上でJDIがSuwaの要請に応じることが不可欠だったと考えることができよう。

 しかし、台中の各社にとってJDI再建のリスクは想定していた以上に上昇してしまった。特に、JDIの業績が急速に悪化し、債務超過の状態が長期化する恐れがあることは軽視できない。19年7月以降、JDIは主力の白山工場(石川県白山市)の稼働を停止するなど、操業を続ければ続けるだけキャッシュが減少してしまう状態にある。最終損益も赤字が続いている。

 業況の悪化を食い止めるために、中国の投資ファンドは白山工場の一部を有機ELに転用することなどを目指していたようだ。理論的に考えると、稼ぎ頭となる事業を育てる考えは重要だ。同時に、設備の入れ替えには、追加の資金が必要になる。JDIの業績悪化懸念が強まるなか、コンソーシアム内で出資に対する消極的な考えが強まったことは想像に難くない。

 19年6月中旬にはTPKがコンソーシアムから離脱する旨を表明した。この表明はコンソーシアムの崩壊を意味したといっても過言ではない。6月下旬には台湾の投資ファンドもSuwaからの離脱を表明し、9月には中国のハーベストテックも離脱した。

紆余曲折が予想されるJDIの資金調達

 この結果、19年12月末までにSuwaからJDIへの出資は実行されなかった。これによって、改めてJDIの業況の厳しさが示されたといえる。その影響は小さくない。今後もJDIの資金調達などをめぐる交渉は紆余曲折が予想される。

 昨年9月に中国の投資ファンドが離脱を表明した時点で、Suwaからの出資実現は見込めないと考える市場参加者は徐々に増えた。出資が見送られたケースに備え、JDIは国内の投資ファンドであるいちごアセットマネジメントとの交渉を進め、昨年12月には資金調達に関する基本合意が締結された。

 ただ、本当にいちごアセットがJDIへの出資を実行できるか否か、依然として不確定な要素は多い。JDIでは過去の決算において在庫を過大計上した疑いが浮上し、第3者委員会による調査が進められている。今後の展開によっては、同社のコーポレート・ガバナンスに対する懸念が高まることもあるだろう。

 さらに主力工場の操業が止まっているなかで、JDIはフリーキャッシュフローを生み出すことが難しくなっている。窮状を脱するためにJDIは、アップルとシャープに対する白山工場の売却を目指していると報じられている。売却が実現すれば、一時的に資金繰りは改善する可能性がある。

 しかし、その発想で経営再建を目指すことは容易ではないだろう。資産の売却は目先の資金繰り確保にすぎない。また、資産売却を続ければ、組織全体の士気が追加的に低下してしまうだけでなく、再建に欠かせない成長期待の高い事業の育成に取り組むことも難しくなる。資産売却を続けると、最終的には企業そのものがなくなってしまう。

 目先、JDIがどのようにしてこの悪循環を断つことができるか、先行きの展開を予想することが難しい。そのなかで民間の企業などがJDIに対して出資を行うことは、口で言うほど容易なことではないはずだ。今後もJDIの資金調達に向けた交渉が二転三転する可能性は否定できない。

増大する不確定要素

 JDIを取り囲む事業環境面に関しても、不確定な要素が増えている。まず、世界のディスプレイ業界では、寡占化が進んでいる。本来、寡占化が進む競争環境に対応するために、企業は資本を増強するなど体力をつけなければならない。そう考えると、JDIはかなり厳しい状況を迎えている。

 すでに、有機EL市場では韓国のサムスン電子が世界の8割のシェアを握り、それに次いでLGが10%程度のシェアを誇る。中国では「中国製造2025」の下で京東方科技集団(BOE)が台頭している。アップルがBOEからの有機ELディスプレイ調達を検討するほど、価格と技術面で中国勢の成長は目覚ましい。その状況に対応しようとサムスン電子は次世代のパネル生産能力の増強に向けて、設備投資を積み増している。

 JDIが重視してきたアップルのビジネスモデルも大きく変化しつつある。リーマンショック後の世界経済を支えてきたスマートフォン市場では、アップルのiPhoneの販売が伸びていない。一方、ファーウェイをはじめ、価格帯が相対的に低い中華スマホのシェアが拡大している。

 アップルはiPhoneへの依存低下を目指して、サービスや拡張現実(AR)ビジネスの強化に取り組んでいる。米中の貿易摩擦も今後のアップルのデバイス販売に無視できない影響を与えるだろう。アップルなどにとって、収益確保のために製造原価を引き下げる重要性は高まっていくだろう。そうした要請にJDIが迅速に応えることは難しいはずだ。

 さらに、米国とイランの対立激化を受けて、市場参加者のリスク許容度が低下しやすくなっていることも見逃せない。地政学リスクの高まりを受けて原油価格が一段と上昇するのであれば、米国の個人消費の鈍化懸念も高まるだろう。それは、世界経済全体の下振れリスクを高める要因の一つと考えられる。

 このようにJDIを取り巻く不確定要素は増大しつつある。資金繰りの悪化懸念があるなかで同社がどのように事業体制を維持し、再建を目指すことができるか、先行きは見通しづらい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)