32期連続で増収営業増益を達成するなど絶好調の家具チェーン最大手、ニトリホールディングス(HD)がアパレル市場に触手を伸ばしている。グループ企業が「N+(プラス)」のブランドで衣料品を販売しているのだ。「私のための大人服」をコンセプトに、大人の女性が毎日着たいと思うファッションを提案するという。現在、東京、埼玉、千葉の1都2県に4店舗を展開している。アパレル市場は厳しさが増しているが、はたしてニトリHDのNプラスは成功するのか。

 筆者は1月下旬、東京都立川市の大型商業施設「ららぽーと立川立飛」に入居しているNプラスの店舗を訪れた。

 店舗の外観はおしゃれで、「ニトリ」の文字は一切見当たらない。ニトリのイメージカラーのエメラルドグリーンも使われていない。何も知らない人は、Nプラスがニトリグループのブランドとは気づかないだろう。

 売り場は4つのテーマに分けられている。メインの入り口から見て右手前にはネイビー(濃紺) の商品をメインとする商品群、右奥にはブラックの商品をメインとする商品群、左手前にはブラウンとワインレッドの商品をメインとする商品群、左奥にはアイボリーとベージュの商品をメインとする商品群を配置していた。すなわち、右側が暗めの色、左側が明るめの色という構成だ。

 それぞれのコーナーでは、メインとなるカラーの商品を中心に、それに合う商品を近くに陳列し、全身をトータルでコーディネート提案していた。たとえば、メインカラーとなるネイビーのコートを中心に、それに合うオレンジ系ブラウンのブラウスとベージュのパンツを一緒に陳列したり、ネイビーのブルゾンとネイビーのパンツに合わせるかたちでオレンジのプルオーバーを一緒に陳列するといった具合だ。

 商品のデザインは、どれもシンプルだ。無地のものが大半で、柄ものは少ない。柄ものであっても、シンプルなものがほとんどだ。それでいて、いずれも“どシンプル”ではない。細部に、ちょっとしたおしゃれな施しがされていたりする。シンプルな衣料品といえば、ユニクロが思い浮かぶが、Nプラスはユニクロほどシンプルではない。

 Nプラスの価格帯は定価で1点2000〜5000円程度だ。8000〜1万5000円程度で全身コー ディネートできる。たとえば、5990円(税込み、以下同)のコートと2490円のプルオーバー、4990円のプルオーバー、2990円のパンツをトータルでコーディネート提案していたが、トータルの価格は1万6460円だ。コートがないコーディネートであれば1万円を切るケースもある。なお、訪れた時はセールを実施していたため、さらに安い価格で購入できた。

 Nプラスの価格帯はユニクロよりもやや上で、無印良品と同程度といったところだろう。アパレル市場では、「中価格帯」との位置づけになりそうだ。中価格帯に属する無印良品は手強いが、同価格帯は無印良品以外に有力な競合が存在しない価格帯ともいえる。

 もっとも、Nプラスと無印良品の競合度は、そう高くはなさそうだ。デザイン性や趣がやや異なり、ターゲットとする層もやや異なるためだ。どちらも大雑把に「シンプル」といえるが、無印良品はユニクロに近く“どシンプル”だが、Nプラスは先述した通り“おしゃれ感があるシンプル”だ。同じシンプルでも、意味合いがやや異なる。そのため、Nプラスと無印良品は住み分けができるかもしれない。

ニトリがアパレルに参入したわけ

 Nプラスはこのようにアパレル市場のなかでも競争が少ないところを狙っているわけだが、それでも簡単な市場とはいうことはできない。アパレル市場は全体的に競争が激しさを増しているからだ。

 最近は競争の激化でアパレルブランドの苦戦が目立つ。昨年はフォーエバー21とアメリカン・イーグルが日本から撤退したり、ファッションセンターしまむらの不振が続くなど、カジュアル衣料品店の苦境を示す出来事が相次いでいる。さらに、女性向け衣料ブランド「23区」などを展開するオンワードHDが大量閉店を発表するなど、百貨店アパレルも苦境にあえいでいる。

 こうした状況のなか、ニトリHDが畑違いのアパレル市場に本格参入する背景には、国内で展開する家具店の飽和懸念がある。同社は家具店「ニトリ」のほか、小型店の「デコホーム」や「ニトリEXPRESS(エクスプレス)」を国内で展開し、圧倒的な低価格を武器に市場を席巻してきた。勢いは今も衰えておらず、これまで手薄だった都市部を中心に出店攻勢をかけ、店舗数を増やしている。ただ、これまで主戦場としてきた郊外は飽和状態に達した感があり、都市部は開拓の余地がまだあるとはいえ、限界はある。そう遠くない将来に行き詰まる可能性がある。

 海外でのつまずきも懸念材料だ。ニトリHDは国内では昨年11月度末時点で526店を展開しているが、一方で海外の店舗数は69店と少ない。主に中国や台湾などで店舗展開しているが、特に巨大市場の中国でのつまずきが誤算となっている。中国では思うように消費者から支持が得られておらず、店舗数はわずか37店にとどまっているのだ。

 中長期的な視点で考えると、家具一辺倒ではいずれ行き詰まる可能性がある。そこで収益源の多様化を目指し、Nプラスの本格展開に踏み切ったとみられる。

 Nプラスの展開にあたっては、これまでニトリで女性用と男性用のルームウェアやインナーウェアを販売してきた経験を生かすことができる。また、ニトリで培った、製品の企画・開発から販売までを一貫して手がけるSPA(製造小売り)のノウハウを導入することもできるだろう。

 事実、ニトリHDはNプラスのSPA化を視野に入れている。19年12月28日付北海道新聞に掲載された似鳥昭雄会長兼最高経営責任者(CEO)のインタビューでは、Nプラスについて「今は商品の多くを他社から仕入れて販売しているが、今後は自社で開発・製造することも考えている」と語っている。

 SPA化が実現できれば、高い競争力を発揮できる可能性がある。ユニクロがSPAを力の源泉にして低価格帯市場を席巻したように、NプラスもSPA化で力をつけて中価格帯市場を席巻することが十分考えられる。

 高価格帯の百貨店アパレルが苦戦していることがNプラスの追い風になる可能性もある。価格の高さを理由に百貨店アパレルから離れた人が、手頃な価格のNプラスに流れることが十分考えられる。もしかしたら、ニトリHDはそれを狙って“大人の女性が毎日着たいと思うファッションを提案”するNプラスを立ち上げたのかもしれない。

 いずれにせよ、家具チェーン最大手のニトリHDがアパレルを本格展開するというのは興味深い出来事だ。今後の動向に注目したい。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。