東日本大震災以降、各メディア上で「移住」という言葉を見かける機会が増えた。「地域力の創造・地方の再生」を謳い、総務省主導のもと2009年よりスタートした「地域おこし協力隊」は、スタート時の89名から14年には1511人に増員。実施自治体も31から444まで激増するなど地域活性化に対する注目度は年々高まっているといえる。

 だが、移住という観点で見るといささかハードルが高いのか、その現状は厳しい。また、一度移住しても数年で離れるケースも多く、人気地域とそうでない地域の明暗はくっきりと分かれている。北海道道央に位置する東川町は、20年間で約1000人の人口増に成功した稀有な都市だ。近接都市が微増、微減にとどまる中、なぜ東川町は大幅に人口を増やし得たのか。その秘密を探るべく、現地を訪ねた。

●30年前から継続して町おこしに着手

 東川町の人口は、1950年の1万754人をピークに減少が続き、93年にはついに7000人を切った。しかし、翌年以降徐々に移住者が増えていき、14年11月には8000人を数えた。東川町から車で30分ほどに位置する、北海道でも有数の大都市であり人口30万人を超える旭川市が、01年から2万人近く人口減少していることを考慮しても、いかにこの数字が特筆すべきものか理解できるだろう。

 もともと東川町は水田農業を基幹産業としていたが、旭岳という観光資源と、上水道が一切ないという水事情を除けば、これといった特徴のない地方都市だった。町を離れる人ばかり目立つようになり、危機感を覚えた町職員は「定住促進課」を設立した。85年には世界初となる「写真の町」を宣言し、以降国際写真展の「東川町フォトフェスタ」、高校生日本一の写真を決める「写真甲子園」を毎年開催している。また、景観にこだわりを持ち、住宅や建築物に関しては外観・屋根・色・材質を町指定のもので行えば補助金も支払われる。クラフト、家具生産といった工芸も含め、写真、住宅、工芸品といった要素を強化し、文化都市としての側面を強めていった。

「多くの方に移住していただいていますが、人口増加に成功した大きな要因としては、30年間継続できた結果だと思っています。その町のイメージは一朝一夕でできるものではありません。そういった意味では、長年かけて町の色をしっかりと出せたかと思います。実際に、旭川に働きに行く町民と、東川で働く人の割合は同じくらいですので、町の産業も発展しているといえます」(東川町役場・定住促進課職員)

●お金がなければアイデアでカバー

 東川町には写真、ワイン、エコ、オリンピック選手育成など、各プロジェクトに投資して町の株主となれるユニークな制度がある。株主になれば、来町時に宿泊施設などの株主優待を受けられるほか、米や野菜といった町でつくられた食料品も郵送される。今年4月時点で3695人が株主登録し、累計1億円以上が投資されている。

「職員気質がいい意味で役所らしくないと思います。普通の役所感覚なら、『お金がないならやめよう』『前例がないなら見送ろう』となりがちですが、東川町では『お金がないならアイデアを出してつくろう』『前例がなければパイオニアの町になろう』といった風土が浸透しています」(同)

 先述した株主制度も含め、写真の町宣言も後発で行われたもの。写真甲子園には毎年国内外から多くの参加者、関係者が訪れ、宿泊施設や地元企業を潤している。また、特別協賛にキヤノン、広告協賛企業に富士フイルム、ANAホールディングス、アシックスなどが名を連ねており、大手企業の協力を得ることに成功した。

●農業以外の産業の創出も

 移住後に問題となるのは、いかに収入を得るかという点だ。昨今、農業ブームが取り沙汰されているが、実際に農業のみで生計を立てるのはハードルが高く、また地域との連携も大きな焦点となる。東川町でも、農業に従事する移住者は数えるほどしかいないという。

 東川町では新たに起業または新規分野の事業を行った場合、対象経費の3分の1以内(上限100万円)を補助する制度がある。もともと芸術活動や写真、建築家といったクリエイター移住者は多かったが、近年ではカフェや飲食店、職人などの起業者が増加している。
今年からは、町内の賃貸アパートに転居する労働者に対して10万円助成する取り組みも実験的に開始した。子育て支援制度も充実しており、地元民と移住者が交流する機会を積極的に推進している。

 町長の松岡市郎氏は、地方再生について「どの地方都市でも、それぞれの特色、カラーがあり、いかにそのカラーを表現するかが大切」と話す。

 大自然に囲まれ、その景観を崩さず次世代に継承する。どこか牧歌的な雰囲気を持つ東川町に付加価値をもたらしたのは、行政、住民、地元企業の熱意によるところが大きい。そして、継続性を持ち長期的なプランと選択肢を提供すること。町おこしのひとつの成功モデルとして、東川町から学ぶべきことは少なくないはずだ。
(文=栗田シメイ/ライター)