「業務スーパー」を運営する神戸物産の株価が大幅上昇している。4月23日、昨年末比1870円(49.9%)高の5620円まで上げ、株式分割考慮後の上場来高値を更新した。5月に入っても5000円の高値圏で推移し、5月15日の終値は4975円。株式時価総額は6805億円。百貨店最大手、三越伊勢丹ホールディングスの2570億円の2.6倍である。

 日本経済新聞社は日経500種平均株価の構成銘柄を4月1日から一部入れ替えた。過去3年間の売買高、売買代金、時価総額を基準に、毎年実施している定期見直しの結果、今回は7銘柄が対象となり、神戸物産が新たに採用された。

 新型コロナウイルスの感染拡大で政府は4月7日、7都府県を対象に緊急事態宣言を発出した。外出自粛の流れや在宅勤務の増加で買いだめ需要が強まり、業務スーパーの収益が拡大するとの期待が高まった。昨年はタピオカブームの恩恵を受けて業績好調。今年はコロナ拡大によるまとめ買い需要が発生し、株価を一段と押し上げた。コロナの感染拡大で日経平均株価は一時、大暴落したが、神戸物産の株価は右肩上がりの上昇を続けた。

3月の既存店への出荷実績は28.6%増

 業務スーパーは低価格の店としてテレビの情報番組などに登場する常連だ。食品スーパーと比べてひとつのパッケージの量が多く、しかも安い。「上州高原どり若どりもも」(2kg:税込1620円)、焼き鳥「鶏皮串」(50本:1490円)、「チキンナゲット」(1kg:538円)、「チャーシュー用ネット入り豚肉」(900g:950円)など、どれをとっても量が多くて安い。

 今期(2019年11月〜20年10月)の直轄エリアの業務スーパーの既存店への商品出荷実績を見ておこう。19年11月が前年同月比10.9%増、12月は10.4%増と消費増税後にもかかわらず 2ケタの伸びをみせた。今年に入るとコロナ禍による特需が起きた。20年1月は13.6%増、2月は19.6%増、3月は28.6%増と、月を追うごとに売れ行きに弾みがついた。3月末現在の総店舗数は856店だ。在宅勤務の広がりや外出自粛などによる内食需要の高まりが追い風となっている。

 商品では「揚げなす乱切り」をはじめとした冷凍野菜が引き続き堅調。レトルトカレーやインスタント麺など、日保ちがして手軽に食べられる食品が売れた。業務スーパーはコロナに打ち克った企業の先頭を走っている。

製造と販売を一体化し、超激安を実現

 創業者は沼田昭二氏。1954年兵庫県加古郡稲美町生まれ。兵庫県立高砂高校卒。三越神戸支店に入社し呉服を担当。弁当・仕出しの入船を経て独立。1981年4月、加古川市で小さな食品スーパー「フレッシュ石守」を創業した。

 92年7月、中国・大連で自社工場を開設、日本の食品メーカー6社に工場を貸した。自社の従業員を使ってもらうことで製造ノウハウを蓄積。大連工場で製造したわさびや梅干しを欧米で販売したのを手はじめに製造卸売業に進出した。

 沼田氏はスーパー界のユニクロというべき製販一体のビジネスモデルを構築し、2000年3月、業務スーパー1号店をオープンし、社名を神戸物産に変更した。これを機にフランチャイズチェーンの展開を始めた。業務スーパーとしたのは、卸価格で購入でき、プロが納得できる品質であることを内外に示すためだった。

 自社でコストをコントロールした商品を売り切る力があれば、ナショナルブランド(NB)より低価格で販売しても、確実に利益をあげることができる。人件費、原材料費が安い海外を生産拠点にし、商社や卸を使わず自社で製造・販売するのだから中間マージンを省くこともできる。FCを中心に店舗展開しているので設備投資負担も少ない。

 このビジネスモデルが評価され、06年6月、大証2部(12年大証1部、13年に東証、大証の市場統合により東証1部)に上場を果たした。08年から国内の赤字メーカーを次々と買収、生産子会社に組み込んでいき、国内での製造体制も整えた。12年2月、沼田昭二氏の次男の博和氏が社長の椅子に座った。

最大の試練だったインサイダー取引事件を乗り切る

 博和氏は1980年生まれ。京都薬科大学薬学部・同大学院卒業後、大正製薬に研究者として入社。09年、父が経営する神戸物産に転職。32歳の若さで社長に就任した。

 インサイダー取引事件が博和社長の最大の試練となった。16年2月、証券取引等監視委員会と兵庫県警が合同で金融商品取引法違反容疑で神戸物産の本社など関係先を強制調査した。同社は14年12月、自社株買いを実施し、31万株を30億円で取得した。15年7月にも47万株を53億円で買い取った。いずれのケースも公表前から徐々に株価が上昇し始め、公表後に急騰した。

 神戸物産の取引先関係者が自社株買いの情報を事前に入手し、神戸物産株を大量に買い付け多額の利益を得たとみて、関係当局が実態解明に乗り出した。兵庫県警は神戸物産の関係者6人と1法人を金融商品取引法違反容疑で神戸地検に送検した。16年12月、インサイダー取引疑惑について、神戸地検は不起訴処分とした。同地検は不起訴にした理由を明らかにしていないが、「関係者全員がインサイダー情報のやりとりを否認した」(関係者)ということのようだ。

激安のPB商品で利益が出るからくり

 自社・グループ工場で製造したプライベートブランド(PB)商品が業務スーパーの品揃えの中心だ。輸入先は40カ国に及び、ここ数年は中国以外の国から輸入を増やした。2019年の最大のヒット商品となったタピオカドリンクは台湾からの輸入だ。

 PB商品を超激安で売っても利益が出る仕組みになっている。19年11月〜20年1月期の連結決算の売上高は前年同期比16%増の815億円、営業利益は34%増の56億円、純利益は32%増の35億円だった。売上高営業利益率は6.9%である。神戸物産の売上高の約9割は業務スーパー事業だ。グループ会社で農産物を生産、漁業や水産加工にも手を染めている。

 20年10月期通期の連結業績は売り上げが前期比4%増の3118億円、営業利益は16%増の203億円、純利益は10%増の133億円とする従来予想を据え置いている。下方修正とは無縁といっていいかもしれない。売り上げ、利益ともこのままいけば過去最高を更新する。新型コロナがもたらした、まとめ買いの特需は業績の予想に織り込んでいない。どこかで上方修正することになるかもしれない。

 今年後半にかけて既存店売上高の伸び率が鈍化する可能性はある。それでも地に足のついた商売を続ける限り、急激な落ち込みはないとみられている。

(文=編集部)