新型コロナウイルスの感染拡大に伴う、2020年度第2次補正予算が6月12日に成立した。10兆円の予備費ばかりかが国会の論戦でクローズアップされたが、本当の目玉政策はコロナで苦境に陥った企業に対する資本注入である。12兆円もの予算が配分された。6兆円は政府系金融機関が企業の劣後ローンを買い入れ支援する。残り6兆円は直接出資するというスキームだ。株式市場では第1号はどこになるのかに関心が集まる。

 欧米では航空会社に公的資金が注入されている。連想ゲームとして日本でもANAホールディングス(HD)や日本航空(JAL)への資金注入の可能性をアナリストは指摘する。しかし、“安倍銘柄”と呼ばれるANAHDは4月の決算会見で福沢一郎常務が「経営の自立に重点を置きたい」と発言。独立独歩、公的資金の注入は望まない、との立場を鮮明にした。これは筆者の独断と偏見だが、「JAL嫌い」の安倍政権はJALに資金を注入したくないだろう。

 となるとどこが第1号になるのか。5月28日に発表した20年3月期決算で6712億円の巨額最終赤字に転落した日産自動車が最有力との声が上がる。日産の最終赤字はリーマン・ショック直後の09年3月期以来、11年ぶり。今回の赤字は、カルロス・ゴーン被告の手で経営再建に着手した00年3月期の最終赤字(6844億円)に匹敵するものだ。「仏ルノーに駆け込んだ時よりも、現状はもっと苦しい」(外資系証券会社の自動車担当のアナリスト)といった厳しい見方が出ている。

 というのも00年3月期決算ではゴーン・マジックをお披露目するために、わざと創業以来最悪の赤字をつくり出したという側面がある。具体的にいうと、事業構造改革特別損失と年金過去勤務費用償却額を計上したことだ。事業構造改革特別損失は翌年以降に発生する工場閉鎖、あるいは早期退職(いわゆる「肩たたき」)を行うための「退職金割増金」といった将来発生する引当金である。将来の損失を単年度に前倒しし、一気に2327億円の赤字を計上した。

 同時に年金過去勤務費用償却額(従業員の退職年金の積立金不足)2759億円を「費用」として計上した。「費用」だが、この分は実際にキャッシュは流出しない。2つの項目を含めて総額7496億円の特別損失を計上した。826億円の営業利益が出ているにもかかわらず、ゴーンは結果的に6844億円の大赤字、炎上を演出してみせた。だから、01年同期に、一気に3311億円の最終黒字に転換し、3年ぶりに1株7円の配当を復活したのは必然だったのである。V字回復はつくられたものだった。

早くも日産社内で内田社長交代説

 対する20年3月期決算は営業損益段階で405億円の赤字だった。確かに、米国の販売金融事業で貸倒引当金を積み増したほか、減損損失を含め6030億円の構造改革費用を計上したが、ゴーンが決算を操作した時より、事態は深刻なのである。ゴーンが「日産は、あと2、3年で倒産する」と語っていたそうだ。20年3月期決算でゴーンが来る前の倒産寸前の状態に戻ったわけだが、情況はこの時より悪いことは、すでに数字で示した。

 その上、内田誠社長が策定した「事業構造改革計画」に、なんとしてでも日産を再建させようという熱意が感じられないのだ。年間720万台という生産能力を540万台に削減。車種を69から55以下に減らす。ゴーンが策定した「日産パワー88」が荒唐無稽だったということだ。ゴーンは「世界シェア8%」を目指したが、これが720万台という過剰な生産能力を産み出した。

 新興国での拡販など絵に描いた餅にもならなかった。無理な増産計画こそが赤字の元凶なのである。20年3月期の世界販売台数は493万台にとどまった。昨年発表した中期経営計画では22年度(23年3月期)の販売目標を600万台としたが、この数字も撤回した。日産の再生計画に真剣味が感じられないのは、人員削減の規模を明らかにしていないからだ。

「労働組合、政府機関との協議が必要で、具体的な人数の回答は控える」(内田社長)。19年7月にすでに1万2500人の削減に言及している。この数字をどれだけ上回るかでしか、経営陣の覚悟のほどは示せないのに「回答を控える」だと。人員の削減には会社に対する従業員の信頼が絶対に必要になる。今、日産の経営陣に対する従業員の信頼・信認はゼロ。ルノーのトップの顔色ばかり見ている日産のトップに再生・再建を託す気になれないのだ。

 内田社長はどっちを向いて仕事をしているのか。日産の脱ゴーンは本物なのか。本気なのか。「内田、交代説」が社内外に根強く流れているのは、「内田は戦時の経営者なのか。平時ですら、社長の器ではないのではないのか」(日産の有力OB)との危惧の念があるからだ。

「日銀の社債購入ラインから外れかねないギリギリの信用力」

 年末年始、ゴーンはスキーに行ってすっかり肌が焼け、とてもいい顔色だったと、レバノンから伝わってきた。そのゴーン周辺も騒がしくなった。トルコ当局は5月7日、ゴーンの逃亡に使われたMNGジェットのパイロットらを告訴。7月3日に初公判が開かれる。逃亡に協力した元米グリーンベレーのマイケル・テイラーと息子が5月20日、米当局に逮捕され、日本に引き渡される可能性も出てきた。ゴーンはレバノン政府の庇護を受けてはいるが、レバノンの政情は不安定。決して安泰ではない。

 フランス人ジャーナリストが書いた『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』には、ゴーンが日産の資金をいかに私物化してきたかが詳細に書かれているという。日産が19年9月に公表した社内調査では「会社資産の私的流用」について突っ込んだ記述がない。日産が組織としてゴーンの行為を認めていた、つまり共犯の疑念が出てくることを、当時の日産の経営陣は懸念し、表面を撫でただけの内部調査を公表することでお茶を濁した。

 今後、ゴーンがやったことの実態・真相の暴露がトルコや米国の裁判と同時進行で進められることになる。2万人とも2万5000人ともいわれている全世界のリストラ対象者は、ゴーンの“悪行”を容認した日産の経営陣、ミニ・ゴーンたちを許せるわけがないだろう。

 トヨタ自動車は別格だが、ホンダに比べても日産の財務面の不安は、これから本格化する。格付け会社は日産の財務格付けを相次いで格下げした。「日銀の社債購入ラインから外れかねないギリギリの信用力」(国内の大手証券会社の自動車担当アナリスト)まで落ちた。

 政府・経済産業省には、「ルノーに対する発言力を確保するためにも、日産に公的資金を注入すべきだ」との意見があるといわれている。12兆円の資本支援予算の第1号が日産自動車になる蓋然性は日々刻々、高まっている。

(文=有森隆/ジャーナリスト)