新型コロナウイルス感染拡大の以前から、看護師の勤務環境が過酷であることは知れわたっている。50代の民間病院勤務の看護師はこう話す。

「統計があるわけではないが、看護師の平均寿命は日本人の平均寿命よりも短いといわれている。たぶん現役時代に夜勤の連続で体を酷使し続けることが、寿命を縮めているのだと思う」

 いったい、どのぐらい過酷なのか。その現実をデータで把握しておきたい。さる9月11日、日本看護協会は「2019 年 病院および有床診療所における看護実態調査」結果を発表した。調査期間は2019年9月2 日〜10 月 11 日。全国8300施設に勤務する看護職員(看護師、准看護師、保健師)を対象に調査を実施して1万5026 件(回収率 18.1%)の回答を得た。調査によると「夜勤をしていない」看護職員は 21.4%で、80%近くが夜勤に従事していた。夜勤・交代制勤務の形態は「三交代制勤務」が15.7%、「二交代制勤務」は「1 回あたり夜勤 16 時間以上」が43.1%で、「1 回あたり夜勤 16 時間未満」は8.8%だった。

 夜勤・交代勤務で明らかになったのは仮眠体制である。仮眠の取得状況に対する満足度は「やや不満」が16.0%で、「不満」の14.4%を合わせると否定的な評価は30.4%となった。さらに仮眠室などの環境に対する満足度でも、否定的な評価が肯定的な評価を上回り、「やや不満」が24.6%と「不満」の19.8%を合わせて44.4%。一方、「満足」は10.4%、「やや満足」は22.1%にとどまった。

 調査結果を受けて、日看協は「仮眠環境の整備と仮眠の確保が可能な夜勤体制の整備が今後の課題」と指摘した。健康管理に留意したくとも、それがかなわない環境を強いられているのだ。

給料が下がっても転職

 こうした環境からの出口のひとつに、夜勤がないという理由による訪問系介護サービス事業所への転職がある。都内に複数の訪問リハビリテーション事業所を開設する運営会社には、病院勤務を辞めて転職してくる看護師が十数名在籍している。30歳前後で転職してくる看護師が多いという。

「病院からリハビリ事業所に転職すれば給料は相当下がる。それでも転職してくるのは、20代で病院勤務しているうちに30歳前後になると、心身共に疲れ切ってしまうからだ。たとえ給料が下がってもいいから、普通のOLのようなライフスタイルに切り替えたい。それが、皆がうちに転職してきた理由である」(同社社長)

 激務もさることながら、さらに深刻な問題は、多数の看護職が暴力とハラスメントの被害に遭っていることだ。日看協の「2017年看護職員実態調査」によると、過去1年に勤務先・訪問先でなんらかの暴力・ハラスメントを経験した看護師は52.8%にも及んだ。半数以上の看護師が被害を受けていたのである。

 暴力・ハラスメントや加害者の実態はどうなっているのだろうか。ふたたび「2019 年 病院および有床診療所における看護実態調査」に戻って確認したい。

 暴力・ハラスメントの内容は「精神的な攻撃」が 24.9%で最も多く、次いで「身体的な攻撃」 が21.7%、「人間関係からの切り離し」が14.6%、「意に反する性的な言動」が14.4%。一方、「精神的な攻撃」は、「同じ勤務先の職員」からが 52.3%と最も多く、次いで「患者」からが 44.4% 。「身体的な攻撃」では「患者」からが 93.4%を占めた。

 患者と職員から精神的な攻撃を受け、さらに患者から身体的な攻撃を受ける――こうした状況に、夜勤負担が加わっているのだ。

 当然、離職を考える看護職も多い。正規雇用のフルタイム勤務に限定すると「精神的な攻撃」が「ある」と回答した者の離職意向は 56.3%。「身体的な攻撃」が「ある」と回答した者の離職意向は 53.3%だった。

 コロナ禍でなくとも、多くの看護職がこれだけ理不尽な環境で働いている。根本的な環境改善が実施されない限り、コロナ対策の一環で国から医療従事者に支給される慰労金や、社会的に広がった感謝のムーブメントも、それこそ水泡に帰してしまう。

 看護職の仕事は“感情労働”といわれる。自分の感情を抑えて、常に“良い人”としての立ち居振る舞いが求められ、ただでさえ甚大なストレスが溜まりやすい職業だ。病院にはなじみにくい手段かもしれないが、外来患者・入院患者・患者家族・職員に対して、暴力・ハラスメントの実態を告知した上で、禁止事項を周知徹底させることが必須ではないだろうか。

(文=編集部)