プリンターを安く買ったものの、交換インクカートリッジのあまりの高さに腹を立てている人は多いはずだ。キヤノンを中心とするプリンターメーカーのこの商法は、スマートフォンを無料、または安価で提供して通信費で儲ける手法にも似ている。

 そんななか、安価にインクカートリッジを提供していた大阪の会社が、それをさせまいとしたキヤノンと法廷闘争を開始した。リサイクル大手のエコリカ(大阪市中央区/宗廣宗三社長)は10月27日、「再生インクを使えなくしたのは独禁法違反」と主張してキヤノン(東京都大田区)を相手に約3000万円の損害賠償金などを求めて大阪地裁に提訴した。

 エコリカは家電量販店から使用済みのキヤノン製カートリッジを回収してインクを詰め替え、純正品より2、3割安い「キヤノン用インク」を販売してきた。近年の環境意識への高まりと共に、その品質の高さも評価され大手民間企業はもとより、官公庁においても「リサイクルインク」が調達物品に指定されているという。

 訴状によれば、キヤノンが2017年9月に発売した純正品インクカートリッジの「BCI−380」と「BCI−381」は、回収したカートリッジにインクを詰めてプリンターに入れて起動させても「インクなし」と表示される。そのまま使うとプリンターを破損する恐れもあるためエコリカはこの3年近く当該のキヤノン用再生インクを製造・販売できなかった。

 実はキヤノンは密かにカートリッジのICチップを暗号化し、初期化できないように仕様を変えていたのだ。これについてエコリカは「技術上、必要な変更ではなく、再生インクカートリッジを製造・販売させない目的でしかない」と主張し、独占禁止法が禁じる「競争者に対する取引妨害」に該当すると訴えている。

 エコリカの宗廣社長は「仕様変更でキヤノンのインクの市場占有率は95%に達する独占状態。環境省のエコマーク認定基準書にも、『カートリッジが再利用できないような装置をカートリッジに取り付けてはならない』と明確に書かれている。キヤノンのやり方は再生インクカートリッジの存在を危うくしユーザーの選択肢をなくしてしまう。世界でプラスチックごみが大きな問題になっている中、地球環境保護に逆行する行為」と話す。

 キヤノンは回収したカートリッジを溶かして資源化しているが、エコリカのようにそのまま使ったほうが環境負担はずっと少ない。こうしたことからもエコリカは環境省の「第20回グリーン購入大賞」の大賞など多くの賞を受賞している。宗廣社長は「勝手に製造してきたわけではなく、環境省とキヤノンさんと3者の代表で協議して、市場バランスの良い方向で決めてきたはず。それがなぜキヤノンさんが急に販売できないように仕様を変更してきたのかわからない」と首をかしげる。

 一方、キヤノンには何を尋ねても「係争事案になったのでコメントは控えたい」(広報担当)の一辺倒だった。

「技術上の変更理由」が焦点

 エコリカはかつて、セイコーエプソン(本社・長野県諏訪市)のプリンター用の安価な再生インクカートリッジを販売した際、販売差し止めなどを求めて、セイコーエプソンから訴えられた。しかし「セイコーエプソンの特許権は無効」と判断されて実質、エコリカが勝訴した経験がある。

 2004年に公正取引委員会がキヤノンのカートリッジの仕様変更を問題視して調査を開始したケースがあった。しかし、キヤノンが再生品をつくれるように仕様を改善した対応を見て、審査を終了させて告発はしなかった。

 独占禁止法などに詳しい大東泰雄弁護士はいう。

「エコリカ側の『キヤノンのカートリッジの仕様が競争者(再生品業者)の事業活動を妨げていることが独禁法の禁止する競争者に対する取引妨害に当たる』という主張の筋立ては、04年の公取委の事例とほぼ同様であり、筋違いの主張をしているわけではないでしょう。しかし、現実の訴訟の行方は技術上の変更理由が本当にあったのかどうかになると思う」

 互換製品メーカーとプリンターメーカーの裁判としては、大阪などの互換製品製造会社がブラザー工業(名古屋市)を東京地裁に訴えているケースもある。

 さて、独占禁止法というのは意外に適用範囲が広い。プロ野球では大リーグに行く意思を見せるなどドラフト指名を拒否した選手に対する契約制限を12球団が申し合わせた通称「田沢ルール」について、公正取引委員会が「独禁法違反」として審査していたなか、ルールは撤廃された。キヤノンは「再生インク阻止作戦」を改めるのか、身近な必要グッズをめぐる訴訟が注目される。

(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)