2000年代に入ってから携帯電話の普及と共に新しい小説の形としてケータイ小説というジャンルが生まれた。その名の通り、携帯電話(特にフィーチャーフォン)でメールを打つような感覚で作られた小説のことだ。携帯電話をエンターテイメントの1つのデバイスとして扱うのが若い世代ということもあり、ケータイ小説は瞬く間に浸透し、Yoshiの『Deep Love』や美嘉の『恋空』などのメガヒット作を生み出した。

 2000年代後半に入り、ケータイ小説という新しい文化とスマートフォンの普及と共により多くの人が自身の作品を新たなWEB小説として姿を変え、インターネットで発表するようになっていき、さらなるメガヒットを生み出していく。例えば『王様ゲーム』だ。書籍の累計発行部数が620万部以上にのぼり、実写映画化もされたまさにモンスタータイトルだ。シリーズ化されていて、まだ終わりをみせていないために記録はまだまだ伸ばしていくだろう。その他にも書籍の累計発行部数200万部以上で実写化もした『奴隷区』などがある。

 いま例に挙げた『王様ゲーム』や『奴隷区』を生み出したのはモバゲー小説が母体となった「E★エブリスタ(以下、エブリスタ)」という小説投稿サイトだ。出版業界が右肩下がりと言われている中で、数々のキラータイトルを抱えていることから、その売り上げでさぞかし業績は潤っていると思われるだろうが、実は紙の書籍が出版されているのはエブリスタからではない(※編注:『王様ゲーム』、『奴隷区』ともに双葉社が出版)。

 では株式会社エブリスタのビジネスモデルはどうなっているのだろうか。エブリスタから見た出版業界の現状や、WEB小説をどう捉えているのか、同社の取締役の芹川太郎氏に話を訊いてきた。

――まず単刀直入に、御社のビジネスモデルがどうなっているのか教えてください。

芹川(以下、芹):弊社の収益モデルは大きく分けて3つあります。1つはエブリスタのメインビジネスでもある、月額の有料会員登録や、有料作品の売上による収入。
次に、エブリスタのWEBサイトやアプリからの広告収入です。小説を書いたり読んだりして楽しむユーザーがメインになるために、他のメディアに比べて滞在時間が長いのが特徴です。

――具体的に1ユーザー辺り平均どのくらい滞在されるのでしょうか。またどれくらいのユーザー数が利用されているのでしょうか。

芹:具体的な滞在時間やユーザー数は非公表としていますが、月間で数百万ユーザーがアクティブでいらっしゃいますね。

――ユーザーの分布はどのようになっているのでしょうか。

芹:読者層としては女性のほうが多い印象ですが、作家となると男女比は同じくらいになります。年齢層は20〜30代が半分以上、10代や40代がその次に多く、50代以上で活躍される方もいらっしゃいます。

――かなりユーザーの年齢幅は広いのですね。

芹:エブリスタでは大人向けのコンテンツもありますから。

――大人向けということはややアダルトな内容ということでしょうか。

芹:アダルトと言い切るほどではありませんが、一般的なライトノベルと比較したら大人も楽しめる恋愛小説になります。

 エブリスタでは発表した作品をユーザーが自由に無料か有料に設定できるのですが、大人の女性向けの恋愛小説は有料コンテンツとしてもかなり人気があります。

――大人の女性向けの恋愛小説以外で購入されやすいものは何がありますか。

芹:コミック作品や、関連する原作小説はやはり人気です。

――3つめのビジネスモデルは何になるのでしょうか。

芹:エブリスタ内で発表された作品を、書籍や映画など多方面でメディア化していただくライセンスビジネスです。弊社の関わり方としても、あくまで出版社と作家をつなげるエージェントのような役割に徹することもあれば、製作委員会に参加して作品に出資することもあります。

――エブリスタが版元になって書籍化していくような予定はないのでしょうか。

芹:電子書籍においてはエブリスタが版元になって販売している例がありますが、まだ試験的な規模でしかありません。始めたばかりということもあって、ビジネス的な数字も見えていませんが、今後コンテンツを選定しながら作品数は増やしていく予定です。

――紙での展開は考えなかったのでしょうか。

芹:紙で出せる作家となると、やはりハードルが上がって数が限定されてしまいます。出版する側のリスクも高くなりますし、作家の人気も求められますから。しかし電子だけに限定すれば、リリースできる作家の数は増やすことができると考えています。

――紙で出せる作家はハードルが上がるとのことですが、ライトノベルやWEB小説は作家の筆力や構成力に疑問を持たれることが多く、2chやまとめサイトなどでネタになるようなこともあります。その点はどうお考えでしょうか。

芹:全ての作家に当てはまるとまでは言いませんが、一般的な文芸作家と比べて、WEBで活躍されている作家の文章力に個人差があることは否定しません。

 しかし、それが弱点だとは思っていなく、あくまで表現の多様性なのだと考えています。たとえば、文章が口語のようであることでかえってストーリー展開が早く、すらすら読めてしまうなんてことも起こりえます。そもそも文章力というのはコンテンツの魅力全てではなくて、あくまでも一部です。一番重要なのはストーリーが面白いのか面白くないのかという点です。コミック原作などであれば、文章力が多少稚拙でもストーリーが魅力的であれば十分通用するのです。

――エブリスタでは様々な賞が開催されていますが、文章力が拙くても大丈夫と言うことでしょうか。

芹:エブリスタが開催している賞は、漫画原作を募集するものから紙の書籍での出版をめざすものまで本当に様々ですので、一概にそうとは言い切れません。しかし、ものすごくストーリーが緻密で面白くても、文体が一般的な文芸作品の体をなしていない場合、従来の出版社の文学賞ではその作家を拾い上げることが難しかったでしょう。それは実にもったいないことなのです。エブリスタではそういった作家に可能性を見出してくださる出版社さんとのお付き合いがあり、作品を読んでくれるユーザーがいます。これまでの常識では世に出られなかった作家を世に送り出すことができているのがエブリスタだと考えています。

――今後のエブリスタの展望を教えてください。

芹:最優先事項は作家が読者にきちんと出会える場をきちんと提供していくことですね。

――それはサイト内のUIなどを改善していくということでしょうか。

芹:もちろんサイト内の改善も含まれます。細かなサイトのチューニングは常々行っています。あとはユーザーの拡大でしょうか。まだまだエブリスタを知らない読者も作家もいらっしゃるでしょうから。

――ビジネス的な面ではいかがでしょうか。

芹:マンガ原作の提供は積極的に行っていきたいです。いまも講談社さんと「eヤングマガジン」というレーベルを共同で運営しており、一般的な小説誌では拾い切れない作品を世に出していく場として、ある程度の役割を果たせてきています。

 絵も上手くて面白い話が描けるマンガ家さんを一から探すのはかなり大変ですし、もしもそういう作家がいても、どうしても大手や老舗の漫画誌に集まってしまうんですよね(苦笑)。だから出版社さんと相談しながら、魅力的な絵を描けるけどストーリーの面でなかなか世に出られない漫画家と、エブリスタで人気のある小説をマッチングすることで、新しいヒットコンテンツが生み出せる可能性を感じています。こういうマッチングって昔は難しかったのですが、エブリスタという場ではそれが可能です。

 だからこれまでにない作品を読みたい方や、作品を発表する場を探している方はぜひエブリスタを積極的に利用してもらいたいですね。
(文/構成=Leoneko)