コロナ禍で外出を控えた人々が頼ったものは「宅配便」だ。ネットや電話一本でなんでも届けてくれるシステムができあがっていたからこそ、緊急事態宣言が発令されても大きなパニックが起こらなかったともいえる。一方で、その期間も休むことなく社会を根底から支えてくれていたのが物流業界であり、名もなきトラックドライバーたちだ。

「宅配便など、小型車でお客様に直接荷物を届ける配送業者は、物流業界の分類では『2次輸送』と言われ、運送のほんの一部でしかありません。大部分の『1次輸送』は、大型トラックで材料や部品を工場に運んだり、食料をスーパーに配送したりするものを指し、一般の方が普段接することのない物流を担っています。高速道路などで大型トラックを見ることはあるでしょうが、こうした1次輸送に関わる人々のことは、あまり知られてないのではと思います」

 こう語るのは『トラックドライバーにも言わせて』(新潮社)の著者で元トラックドライバーの橋本愛喜氏だ。

 全国の物流を支えるトラックによる陸送は、日本中の道路を縦横無尽に走り回ることから「国の血液」と称され、社会の中で重要な役割を担っている。それを支えるドライバーたちの過酷な業務の裏側や、なぜ大型トラックが道路をノロノロ走ったりするのかなど、一般の人が持つ疑問にわかりやすく答えたのが同書だ。

トラックドライバーが直面する理不尽な事情

 たとえば、路上駐車の問題。大型トラックが車通りの少ない道などに停車し、ドライバーが運転席で寝ている。一見サボっているようにしか見えないが、これは「荷待ち」といって、荷主に時間ピッタリに届けるために早く到着したドライバーが時間を調整している状態なのだという。

「これは『ジャスト・イン・タイム』方式といって、指定時間より先に着いた荷物は降ろさないというルールが荷主の間で定着していることによる弊害なんです。工場や物流センター側としては効率よく仕事を進められますが、トラック業者側は、道路事情などにより、どうしても時間ピッタリに届けられないこともあります。そのため、余裕を持って早めに着くのですが、指定時間までは荷物を降ろせず、構内での待機も許されない。結果、仕方なく周辺の道路に停車して待つことになるんです」(橋本氏)

 こうしたトラックは一般の人からも疎まれ、地域の問題になることもあるという。

「最近のトラックドライバーたちはSNSコミュニティでつながっていて、『荷待ちがもう2時間以上』とグチをつぶやいたり、『今、あそこは詰まってて半日かかる』などと情報をやり取りしています。しかし、それが外部に知られることはほとんどありません。私が本を書くことで、トラックがなぜ路上にいなければならないかが一般の人に伝われば、ひとつの問題が解決に向かう可能性があるのではないかと思いました」(同)

 コロナ禍により、物流業界もにわかに脚光を浴びることとなった。業務が途切れることがなかったため、さぞや好景気になっていたのかと思いきや、橋本氏は「それは逆」だと指摘する。

「消費者に直接届ける2次輸送ではなく、業界の大部分を占める1次輸送は大打撃を受けています。予定されていた工事の休止や延期が相次いだので業務がストップしてしまった会社や、消費が制限されたことで効率の良い大量輸送ができなくなり、運べば運ぶほど赤字になってしまう会社もありました」(同)

 さらに、全国を駆け巡るトラックだからこその“差別”も報告されている。

「東京ナンバーのトラックが地方に行ったら、ドライバーが『コロナを運ぶな』と罵られたり、車体に除菌スプレーをまかれたりしたこともあったといいます。また、ある長距離ドライバーの方は、妻が勤務先の上司から『あなたの旦那さん、トラックドライバーでしょ? あちこち走り回って、どこかでコロナに感染している可能性があるから、あなたも来ないでください』と言われて、有給休暇を使わされたそうです」(同)

 橋本氏はすぐその会社に抗議し、強制的な休暇を取り消させたが、しばらく怒りが収まらなかったという。

「よくぞ言ってくれた」と大反響

 橋本氏は20代前半から約10年間、トラックドライバーとして働いた経験がある。その頃から、運転マナーひとつにしてもトラックに乗らなければわからないことが多く、そうした実情を一般のドライバーと共有できれば、事故もストレスも減るのではないか、と考えていたという。

 一方で、自分がトラックドライバーの本を書くことになるとは思っていなかったが、刊行後は「よくぞ言ってくれた」というトラックドライバーの声と共に、一般の方々からも「トラックドライバーに対する見方が変わりました」と多くの反響があったという。

「この本でトラックによる物流やドライバーについて知ってもらい、差別や偏見がなくなればいいなと考えています。今、私たちの周りにあるものの中で、トラックで運ばれていないものはほとんどありません。そこに理解と感謝があれば、社会全体が良い方向に向くのではないかと思います」(同)

「送料無料」などと書かれていると、実態のない何かがタダで自分のもとに届けてくれているように思いがちだが、その陰には、リアルな人々のひたむきな努力が積み重ねられている。ぜひ、彼らの「声」に耳を傾けてみてほしい。

(文=武馬怜子)