NTTドコモが2020年末にNTTの完全子会社となり、20年あまりの上場企業としての歴史に幕を閉じた。ドコモ株の最終売買日となった12月24日の終値は前日比横ばいの3880円だった。上場来高値(株式分割考慮後、00年の9140円)から6割安い水準だ。12月25日付で上場廃止となった。

ドコモが新料金プランを発表

 NTTドコモは20年12月3日、新しい料金プランを発表した。「3番手と言われないように、トップに返り咲きたい」。発表の2日前の1日付で社長に就任したばかりの井伊基之氏は初舞台となる記者発表の席上で力を込めた。

 12月3日に発表した新プラン「ahamo(アハモ)」は、実質的には割安ブランドの位置付けだった。データ使用量20ギガバイト(GB)で税抜き月2980円。ライバル2社が発表したプランよりも通話料を入れると1000〜1500円安い。若者を主な顧客と想定。乗り換えにかかる事務手数料も無料とし、ネットで手続きを完結できるようにする。

 さらに12月18日、携帯電話大手で初めて既存ブランドの大容量プランで値下げを発表した。現行の大容量プランは5Gで7650円(100ギガバイト)、4Gで7150円(30GB)だが、新料金では5Gでデータ容量を無制限とし、料金を1000円下げた。4Gも30ギガバイトから60GBに倍増させ600円安くし6550円とした。動画などデータ容量の多いコンテンツの利用者が恩恵を受けるプランだ。

ドコモを完全子会社にし、一体経営に乗り出す

 2018年、当時、官房長官だった菅義偉氏が「携帯電話料金は4割引き下げる余地がある」と発言をして以来、携帯電話料金の動向は毎年、注目を浴びてきた。菅氏が20年9月に首相に就任して以降、値下げ圧力は一段と強まった。

 NTTの澤田純社長は、この機を捉えて一気に大勝負に出た。9月29日、4兆3000億円の巨費を投じ、NTTはNTTドコモを株式公開買い付け(TOB)し、完全子会社にすると発表した。菅政権は携帯料金の値下げを政策の目玉に挙げている。しかし、ドコモの当時の経営陣の対応が鈍く、問題視されていた。持ち株会社のNTTも値下げ要請に応じず、いつまでも自分たちの殻に閉じ籠もろうとしているドコモに対する不満が鬱積していた。

 澤田氏は伝家の宝刀を抜いた。ドコモを完全子会社にして、携帯料金の値下げに踏み切ることにした。そのために、社長に抜擢したのが澤田社長の懐刀である井伊氏である。安政の大獄で知られる幕末の大老、井伊直弼の末裔である。井伊氏は慶應義塾大学アメリカンフットボール部の選手。澤田氏も京都大学アメフト部で活躍した。アメフトコンビがドコモの改革を担う。

 ドコモは長期低落傾向にある。ドコモのシェア(契約者ベース)は2000年代半ばまで5割超を誇っていた。しかし、KDDI(au)やソフトバンクの絶え間ない攻勢でじりじりと顧客を奪われ、首位ながらもシェアは37%まで低下。収益では1位のKDDI、2位のソフトバンクの後塵を拝し、最下位に転落した。

「彼らは業界3位だから」。澤田社長がドコモの業績不振を苦々しく語る場面が増えてきた。21年3月期の業績見通しでも、法人向けを伸ばすKDDI、ヤフーが好調なソフトバンクに対してドコモの出遅れが目立ち、売上高、営業利益で3位が定着してしまった。業を煮やした澤田社長が決断したのが、ドコモの完全子会社化だった。

 NTTグループの総力を挙げて強化に乗り出す。NTTから送り込まれた井伊氏には「業界の盟主としての地位を取り戻す」との至上命題が課せられている。

価格破壊で顧客を奪い取る

「手加減はしない。流出した顧客を価格破壊で取り戻す」。ドコモ幹部が耳にした井伊基之社長の決意の言葉だ。KDDIやソフトバンクだけでなく、格安ケータイにも契約者が流出しているドコモは大胆な値下げによって失地を回復する必要があった。

「一律で月1000円引き下げれば、年間6000億円の減収」

 これがドコモの幹部に共有されているコスト感覚だといわれている。ドコモを完全子会社にした事実が、ここで生きてくる。携帯料金の値下げとワンセットの決断だったことが、この先、はっきりしてくるとみられる。ドコモを完全子会社にすることで、NTT本体に取り込める売上や営業利益は3割強増加する。単純計算でNTTの営業利益は3000億円弱増える。

 もう一つが配当。ドコモの20年3月期の配当総額は3900億円。上場廃止に伴い、NTT以外の株主向けの配当金の支払いがなくなる。この分が1400億円になる。これらを携帯料金の値下げの原資にすれば、値下げを即実行できるとの計算が働いて当然だろう。

 ドコモ株のTOBに当たり、銀行団から最大4.3兆円の借り入れを行っているため、4400億円(本体に取り込める営業利益プラス流出することがなくなる配当金の合計)のすべてを料金値下げに回すことは難しいかもしれないが、「攻めの値下げ」を実現するための“軍資金”としては充分だろう。

 価格破壊で流出した顧客を取り戻す。井伊社長の先祖の井伊大老は安政の大獄で敵対勢力を叩きのめしたが、桜田門で暗殺された。さて、その末裔はスマートに敵を壊滅させることができるのであろうか。

電電ファミリーを再結集

 澤田純・NTT社長が目指す、再編計画に注目が集まっている。NTTグループの将来像を大胆に予想してみよう。「大NTT」を核に旧電電ファミリーを再結集し、次世代通信インフラ技術の研究開発やグローバル展開に向け、通信事業者と通信機器メーカーの垣根を越えた、“令和のオールジャパン体制”で世界に打って出ることを考えている。

 NTTとNECは20年6月、高速通信規格「5G」などの分野で協業することで合意した。NTTは光技術を駆使し、30年をめどに既存の約100倍のデータ伝送容量を持つ通信網の実用化を目指している。この実現に必要になるのが、ものづくりに長けたパートナーである。そこで旧電電ファミリーの長男であるNECに白羽の矢が立った。NECの新野隆社長(4月1日付で取締役副会長)と澤田社長の個人的つながりがものをいった。2人は京都大学アメリカンフットボール部の出身で、澤田氏は新野氏の1年後輩にあたる。

 両社の主力行である三井住友フィナンシャルグループの太田純社長も京大アメフト部出身。京大アメフトがとりもつ縁でNTTはNECの第三者割当増資645億円を引き受け、NEC株式の5%弱を保有する第3位の大株主になった。

 主要な電話交換機メーカーとして、旧電電ファミリーを構成していた富士通の時田隆仁社長は、NTT・NEC連合への合流について「検討している」と語っている。富士通は旧電電ファミリーの次男という立場だった。

 NTTを核に旧電電ファミリーのNECと富士通が、これに合流。世界の通信機市場を牛耳る北欧のエリクソンやノキア、中国の華為技術(ファーウェイ)に挑戦する。これが澤田社長が描く「大NTT」の近未来図だろう。

(文=編集部)