2021年元旦。ヨドバシカメラが、品薄が続くソニー・インタラクティブエンタテイメント(SIE)の据え置き型ゲーム機「プレイステーション(PS)5」の店頭販売を実施した。今回の店頭販売は事前告知なしの“ゲリラ販売”となった。コロナ禍で店頭での密を避けたり、高額転売目的の購入を減らすため、家電量販店各社は店頭販売を控え、ネットによる抽選での販売を続けてきた。

 ヨドバシカメラ新宿西口本店(東京・新宿区)には例年、初売りの日には長蛇の列ができるが、今年は静かな初売りとなった。福袋やセール狙いで朝早くから店頭に駆けつけたゲームファンにとってPS5のサプライズ販売は、予期せぬお年玉となった。PS5は約1時間で完売したという。

 新型コロナ禍による在宅勤務や巣ごもり、おうち時間に伴う新しい需要が発生したことで家電量販店業界は潤った。しかし、新型コロナの第3波が到来するなか、今年も郊外と都心の需要の逆転現象が続くことになる。

 つまり、駅前の一等地に巨艦店を展開するヨドバシカメラは来店客が増えないという深刻な問題を抱えるが、それを補って余りあるほどの快進撃をネット通販が続けている。

創業以来初めて社長が交代

 20年7月1日、藤沢和則副社長が社長に昇格した。創業者の藤沢昭和社長は代表権のある会長に就いた。社長交代は1960年の創業以来初めてのことである。

 和則氏は昭和氏の長男で、ネット通販事業を主導してきた。新型コロナ感染拡大で消費者の行動様式が様変わりするなか、世代交代でネットと実店舗との融合を進める。昭和氏は持ち株会社のヨドバシホールディングス(HD)では引き続き社長を務める。

 昭和氏は1960年、東京・渋谷で藤沢写真商会を創業。67年、東京・新宿に淀橋写真商会を設立し、74年、ヨドバシカメラに社名を変更した。89年、日本で最初といわれるバーコードを使ったポイントカードを発行した。

 都市部の一等地に大型店を出し、単価の高いカメラを値引き販売するビジネスモデルを確立した。他の家電量販店のように企業買収・合併は行わず、株式も上場していない。売上高よりも利益を重視する経営方針を取り、家電量販店としては珍しく不動産事業に進出している。大阪・梅田と東京・秋葉原に都市型大型店を構えており、一店舗当たりの年商は1000億円という巨艦店主義で知られている。

 転機は1997年に訪れた。JR大阪駅前の旧大鉄局跡地をめぐる入札で三越やパルコと競合したが、2社より250億円以上高い1000億円強でヨドバシが落札した。ここに建てた「マルチメディア梅田」は日本最大級の売上高を誇る店に育ち、ヨドバシカメラは関東ローカルの家電量販店から全国区に飛躍した。

ニトリの似鳥会長の「商売の師」が昭和氏

 2019年11月16日、JR大阪駅前の「マルチメディア梅田」を拡張し、新たな商業施設「リンクス梅田」をオープンした。セレモニーには昭和氏と和則氏の親子がそろって出席。「親子揃い踏みは、初めてではないか」(関係者)と話題になった。和則氏は「わざわざここに来る価値のある店を、この地で実現したい」と、リアル店舗を起点に「地元客とのつながりを大切にしていく」と語った。

 リンクス梅田の年商は500億円を見込む。マルチメディア梅田と合わせて計1700億円という高い目標を掲げた。マルチメディア梅田とリンクス梅田を合わせた売り場面積は約9万平方メートル。阪神甲子園球場の2.4個分の広さを誇る。

 ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長は昭和氏を「商売の師として尊敬している」と語っている。「リンクス梅田」の開業セレモニーでも似鳥氏が挨拶をした。

断トツのヨドバシ・ドット・コム

 ヨドバシカメラは全国の流通・外食企業が採り入れているポイントカードの先駆者だが、今や流通業界の合言葉となったリアル店舗とネットショップをつなぐオムニチャネルのフロントランナーと呼ばれている。百貨店や量販店のオムニチャネル化はかならずしも成功していないが、ヨドバシカメラは確かな実績をあげている。

 オムニチャネルの推進者は和則氏。ヨドバシカメラに入社後、ITや物流部門の責任者として業務改革を担ってきた。ヨドバシカメラは98年、ネット通販に参入した。楽天市場のサービス開始は97年のこと。アマゾンジャパンがサービスを始めたのは2000年であり、国内EC(電子商取引)の黎明期だった。

 ネット通販サイト「ヨドバシ・ドット・コム」には4つの特徴がある。特筆すべき点は家電通販の枠を超えた圧倒的な品揃えだ。現在700万種類の商品を扱う。日用品やファッション用品、生鮮食品から酒類まで買える。

 2つ目はポイントの還元率の高さだ。高額な買い物の“お得感”を演出している。従来からポイントで囲い込んでいた顧客がスムーズにECに流れた、と評されている。商品価格だけではない。修理や返品・返金などのサービス料金も店舗とECで完全に同じにした。店舗での商品の撮影に制約を加えず、バーコードリーダーアプリでECへ誘導した。「店舗で見てECで買う」「ECで調べて店舗で買う」という、2つの購買スタイルの選択が可能になった。

 最後が物流網・配達部隊の整備だ。都市型店舗が中心だったため、店舗とは別に大規模物流センターをつくり、「ヨドバシエクストリーム」という翌日配送サービスをスタートさせた。全国の9割以上の地域において商品のおよそ1割が翌日に受け取れるようにした。翌日受け取れる商品の配送は業者に委託するのではなく、ヨドバシ自身が行っている。配送の内製化である。

 EC業界専門誌「月刊ネット販売」の調べによると、ヨドバシカメラの20年3月期のECの売上高は前期比14.3%増の1385億円。同期の全社売り上げ6529億円の21.2%にあたる。EC比率が2割を超えた。家電量販店業界はネットに引っかき回されてきた、との苦い思いがある。店舗優先を貫いてきたヨドバシカメラが他社に先駆けてネットとの融合に経営のカジを切り、成功を収めた。

 同業他社には目もくれない。ヨドバシの「ライバルはアマゾン」なのである。

(文=編集部)