新型コロナウイルス感染症の流行やそれに伴う緊急事態宣言の発令によって、イートインが主力の店も、デリバリーやテイクアウトなどのサービスへの対応を迫られた外食業界。それはお手頃な価格で寿司を楽しめる回転寿司チェーンも例外ではない。

 そんな回転寿司チェーンで売上高トップ2である「スシロー」と「くら寿司」。スシローを運営するスシローグローバルホールディングスが2020年11月6日に発表した2020年9月期決算によると、売上高が前年同期比2.9%増の2049億5700万円となり、過去最高の売上を記録した。当期利益は前年同期比で35.5%減少したが、64億2000万円の黒字となっている。

 一方で、くら寿司が2020年12月2日に発表した2020年10月期決算によれば、売上高は前年同期比0.2%減の1358億3500万円と微減にとどめたものの、最終損益は2億6200万円の赤字。37億6600万円の黒字だった前期から一転、赤字となってしまった。

 過去最高の売上高となった業界1位のスシローと、赤字に転落した業界2位のくら寿司。両社の明暗を分けた要因はどこにあるのだろうか。外食業界全般に詳しいフードアナリストの重盛高雄氏に話を聞いたところ、客の心情に踏み込んだスシローの戦略と、くら寿司が抱えるジレンマが見えてきた。

安さへのこだわりで、がんじがらめになってしまったくら寿司

 スシローやくら寿司のほかにも、「はま寿司」や「かっぱ寿司」など、さまざまなチェーンがひしめき合う回転寿司業界。重盛氏によると、どのチェーンもここ10年前後は他チェーンとの差別化を図り、独自色を打ち出すことに努めてきたのだという。

「スシローは原価率が約50%にも上る食材へのこだわりと、セルフレジの全店設置、レジに並ぶことなく指定した時間に商品が受け取れる『自動土産ロッカー』といった取り組みが特徴的ですね。

 セルフレジに代表されるDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みは、2020年に予定していた東京オリンピック開催に向けて店舗の対応能力を上げるため、2017年以降に各チェーンで取り組まれていました。そのなかでもスシローは、手間がかかる決済の部分で力を入れたというわけです。

 くら寿司は添加物を使用せず素材そのものの味を提供することと、1皿100円にこだわっているチェーンです。回転寿司チェーンのなかでは地味なイメージがあり、他チェーンとの違いを打ち出すために考えられたのが、ファミリー層をメインターゲットにする戦略でした。

 子どもが喜ぶ仕掛けとして食べ終わったお皿を入れることでゲームに挑戦できる『ビッくらポン!』が押し出され、寿司以外のサイドメニューの充実が図られました。また、以前からの無添加へのこだわりも、少しでも安全なものを食べさせたい親心に刺さったため、人気の獲得に成功したのです」(重盛氏)

 スシロー、くら寿司のこだわりは商品の価格設定にも表れているが、この違いが明暗を分けた理由のひとつなのだという。

「スシローは100円の『定番皿』だけでなく、150円の『お値うち皿』、300円の『感動皿』の3色のお皿があり、価格帯を広く取っています。

 一方で、1皿100円にこだわるくら寿司は、200円の商品もラインナップされているもののお皿を色分けするのではなく、『2皿リング』にはめられたお皿が2枚重なっているという仕組みになっています。

 逆に言うと、くら寿司は1皿100円の値段設定に縛られてしまい、無理矢理100円、200円に収めようとしているので、原価が高くなったときはその分シャリを小さくする、ネタを薄くするという対応をせざるを得ないのです。その点、100円の原価割れしそうな商品はボリュームを落とさずに150円に変える、といったやり方ができるのはスシローの強みといえるでしょう」(重盛氏)

スシロー最大の強みは商品やサービスをわかりやすく伝える力

 価格設定の柔軟さ、セルフレジや自動土産ロッカーなどのシステムが、他人と接触する機会を減らそうとする時代の流れと合致したなど、スシローの好調はさまざまな要因のうえに成り立っている。

 そのなかでも最も大きな要素が、スシローが持つ“伝える力”“見せ方の上手さ”なのだと重盛氏は続ける。

「今ではデリバリーやテイクアウトを行う回転寿司チェーンは少なくないですが、そのなかでもスシローが一歩先を行っていたのは、サービスの見せ方にあります。仕事に集中したいときにデリバリーを使う、夕飯の支度の手間を省くために仕事帰りにテイクアウトするというように、公式サイトなどで利用シーンを大きな文字やイラストを使って紹介するページをつくったんです。

 スマホの発展に合わせて動画で情報を出すなど、スシローは以前から商品やサービスをどう伝えればお客さんにお得に感じてもらえるのかという、表現の仕方に力を入れていました。価格設定が違う商品についても、スシローのほうがお皿の色や商品の大きさを変えるなど、見た目の変化をわかりやすくし、食べたときの満足度を高めています。そういった見せ方の上手さが、スシローにあって、くら寿司にないものだと感じます」(重盛氏)

 スシローが定期的に開催している「てんこ盛り祭」も、大切りにしたネタやたっぷりと盛りつけられたネタによって、視覚的に通常の商品との違いを伝える工夫なのだという。

 スシローに大きく差をつけられてしまったくら寿司だが、今後巻き返しを図ることはできるのだろうか。

「くら寿司は『安心・美味しい・安い』をコンセプトとして掲げるほど安さに強いこだわりがあるため、今後も1皿100円の縛りは変えないと思うのですが、このままだとスシローとの差はどんどん開いていくでしょう。

 ですが、1皿100円を守るために小さめの商品を出したとしても、食材に対するこだわりをお客さんが納得できる形で伝えることができれば、高い満足度を与えることもできるはず。『美味しい』と『安い』をいかに両立させるか、それをターゲットである今の子育て世代にどう伝えるかというところに、これからくら寿司が伸びていくための鍵があるのではないでしょうか」(重盛氏)

 過酷な回転寿司チェーン同士の生存競争のなかで、それぞれ独自の魅力や強みを作り出していったスシローとくら寿司だが、今その違いが売上の面で大きな差を生み出している。激動の外食業界のなかでスシローとくら寿司がこれからどのような戦略を打ち出し、それをいかにして“伝える”のか注目したいところだ。

(文=佐久間翔大/A4studio)