個人投資家を中心に被害額が227億円に上るレセプト債問題【註1】で、消えた資金の行方につながるかもしれない、小さな会社の存在が浮上している。

●不可解な有限会社

「調べてもらいたい会社がある」――。レセプト債問題の関係者から筆者のもとにこんな依頼が、情報とともに寄せられた。不動産売買や有価証券投資を目的としたエム・エイチ・エム・ホールディングス(MHM)という有限会社で、レセプト債販売で中心的存在だったアーツ証券の川崎正前社長宅と同じ住所だった。MHMが実態のある会社なのか調べてみようと、会社登記に記されている住所をもとにMHMを訪ねてみた。

 千葉市内の住宅街の一角に4階建ての賃貸マンションがたたずむ。その2階にある一室は、玄関のネームプレートにも郵便受けにも居住者の名は記されておらず、呼び鈴を鳴らしても応答はない。ベランダ側に回ってみたが、カーテンで閉ざされていて室内の様子は窺えない。物干し竿さえないから、誰かが自宅兼オフィスとして使っているということでもなさそうだ。家賃は月6万9000円で、幽霊会社の拠点とするには手ごろだろう。

 会社登記によると、MHMは川崎前社長の自宅と同じ住所を本店所在地としていたが、1月11日に同じ千葉市内で移転した。さらに2月2日に川崎前社長はMHMの取締役を辞任。MHMの取締役として残ったのは、川崎前社長と同じ住所の川崎智子氏だけになっている。

 これを時系列に整理すると、MHMの住所移転はアーツ証券が破産を申し立てた直後であるうえ、川崎前社長がMHMの取締役を辞任したのは破産手続き開始の翌日。つまり前述の情報提供者がMHMを怪しんだのは、移転や辞任の日付から考えて川崎前社長がアーツ証券とMHMのつながりやその痕跡を消そうとしたのではないかと疑われるほど慌ただしいためだ。

●レセプト債問題を覆う闇

 実はMHMは川崎前社長だけでなく、破綻したオプティファクターとも微妙な「接点」があった。MHMはオプティの登記上の本店所在地(東京・渋谷区)から目と鼻の先にオフィスを構えていた時期があり、これは偶然なのだろうか。もしなんらかの理由で現金を銀行口座間でやり取りするのではなく、手渡ししなければならないような場合には、互いのオフィスは近いほうが都合がいいからだ。

 確認のためにアーツ証券のコンプライアンス部長と川崎前社長に「MHMは川崎前社長の隠しポケットの会社ではないのか」という問い合わせのメールを送ってみた。すると金融庁出身のコンプライアンス部長から「管財人の弁護士に聞いてほしい」と木で鼻をくくったような回答がきた。

 しかし、MHMはあくまでも川崎前社長の個人会社だったはず。アーツ証券とは無関係で、アーツ証券の破産申立書にも名前は記載されておらず破綻していない。「管財人に聞いても答える立場にはないのでは? それともアーツ証券となんらかの関係があったのでしょうか」と問い直してみたところ、「無関係です」との答えが返ってきた。「ならば管財人に質問しても、(管財人は)答えようがないし、筋が違います」と返信したところ、以後、返事はこなくなった。

 現段階ではMHMがレセプト債問題に関わっていることを証拠立てるものはない。しかし、国際調査報道ジャーナリスト連合のHP上で閲覧できる「オフショアリークス」では、アーツ証券が設立したとみられるオフショア法人の存在が新たに浮上するなど、レセプト債問題を覆う闇は深く、どす黒い。

【註1】レセプト債問題
 医療機関の診療報酬請求権(レセプト)を買い取り、これを裏付けとしたレセプト債という証券化商品を発行していたファンドが破綻したことを受け、個人投資家を中心に被害が表面化。証券取引等監視委員会は2月、債務超過であることを隠蔽したままレセプト債を販売していたアーツ証券を強制調査した。運用会社オプティファクターとファンド数社が約291億円の負債を抱え昨年11月に破綻し、約2470人の投資家に発行された約227億円分の債券が償還されなくなっていた。
(文=山口義正/ジャーナリスト)