居酒屋大手のワタミは5月24日、政府系金融機関の日本政策投資銀行(DBJ)から120億円の資本支援を受けると発表した。DBJが持つ支援ファンドを引受先とする優先株の第三者割当増資を実施する。6月27日に開く株主総会で定款を変更する特別決議を行う。普通株への転換権はない。

 ワタミは外出自粛や営業時間の短縮要請で赤字だ。緊急事態宣言の延長に伴い、時短営業しても収益が見込めない居酒屋は休業を続けている。5月14日に発表した2021年3月期決算は売上高が前期比33%減の608億円。連結最終損益は115億円の赤字となった。20年3月期は29億円の赤字で、2年連続の最終赤字となった。渡邉美樹会長はオンライン説明会で「現状が続けば22年3月期も50〜60億円の赤字になる」と危機感を滲ませた。

 23年3月期までに居酒屋以外の売上高を居酒屋より上にする。全店舗に占める居酒屋の割合はコロナ前まで、ほぼ100%で推移してきた。22年3月期には「三代目鳥メロ」や「ミライザカ」といった主力の320店のうち80店を焼肉店「焼肉の和民」に衣替えする。

 単なる焼肉店ならブームに乗っただけで埋没しかねないので、店内にロボットが走り回る店にする。ロボットが厨房から客席へ料理を運ぶほか、空いた皿があれば「食器を(所定の場所に)載せてください」とロボットが声をかけて顧客にお手伝いをお願いする。ファミリー層の取り込みを狙ったロボット焼肉店である。居酒屋の半分のスタッフで接客できるのが魅力だ。

 フライドチキン店「bb.qオリーブチキンカフェ」を80店、唐揚げ店「から揚げの天才」を200店、それぞれ新規出店する。23年3月期は、さらにフライドチキン店100店をオープンさせ、非居酒屋の売上高比率を全体の5割以上に引き上げる計画だ。23年3月期末には店舗総数は800店となる。21年3月期末の400店から倍増する。フライドチキン店は6店から200店、唐揚げ店は92店から300店に増える。

 ワタミの自己資本比率は19年3月期末時点で42.3%だったが、21年3月末時点で7%まで低下。財務の健全性を示す30%を大きく下回っており、財務基盤の強化が急務だった。

JTBは資本金を1億円に減資

 旅行大手、JTB(非上場)は日本政策投資銀行に優先株の引き受けを軸とした資本支援を要請した。新型コロナウイルスの感染拡大で旅行の需要が低迷し、21年3月期の連結経常損益は過去最大の1000億円規模の赤字(20年3月期は25億円の黒字)となる見通しだ。経営の立て直しに向け、国内店舗の25%にあたる115店舗を閉鎖するほか、早期退職や採用抑制でグループ人員6500人の削減を盛り込んだ事業構造改革を打ち出した。

 資本金は3月31日付で23億4000万円から1億円へと、大規模な減資に踏み切った。20年4〜9月期決算は781億円の連結最終赤字に転落。10月以降も旅行需要は回復せず、資本金を1億円に減らし“中小企業”になることを断行した。「財務基盤を健全化するため」としている。

 減資は税負担を軽減することにもつながる。資本金が1億円以下の企業は税制上中小企業とみなされ、税金の優遇措置が受けられるからである。赤字になり欠損金が生じた場合、来期以降に欠損金を繰り越して税負担を圧縮することができる。資本金1億円以下の中小企業は大企業より圧縮する割合を大きくすることが認められている。中小企業になると特にメリットがあるのが地方税だ。事業規模などに応じて赤字でも納める「外形標準課税」がかからなくなる。

 JTBは非上場だが年商1兆円、グループ従業員2万人を超える大企業である。中小企業になることによって優遇措置を享受することになったわけだが、事業規模に応じ税金を負担するという税の公平性の観点から議論を呼びそうだ。

 コロナ禍で資本金を1億円以下に減らす企業が相次いでいる。スカイマークは資本金90億円を1億円に。ソニーとパナソニックの有機EL事業が統合し、政府系ファンドが出資するJOLEDは877億円を1億円に大幅減資をした。飲食業界では回転ずしチェーンのカッパ・クリエイトが98億円を1億円に。北九州市の老舗百貨店、井筒屋は7月に105億円を1億円に減らす予定だ。

DBJの飲食・宿泊特化の資本支援

 政府は、営業時間短縮要請などで負担を強いている飲食などに対し、支援の拡充が必要と判断し、緊急で金融支援策をまとめた。通常の融資ではなく、一部が資本とみなされる劣後ローンと優先株による出資を軸に支援する。

 DBJは3月末、飲食業と宿泊業を支援するために500億円規模のファンドを立ち上げた。融資を開始から3年間の金利は年1%とする。劣後ローンは返済の優先度が低く、リスクが大きいため、金利を年4〜7%と高めに設定するのが金融界の常識だが、破格の大盤振る舞いとなった。

 資本支援策はワタミが先陣を切ったが、政府が旅行業も支援対象に加えたことで、JTBがDBJに資本支援を要請した。「上場大手の飲食チェーンからの申請は列を成している状態」(金融筋)で「ブライダルや商業施設からも問い合わせが相次いでいる」(同)。

 DBJの動きを懸念する声が金融業界から挙がっている。首相官邸の意向を受けて、3月末からコロナ禍で深刻な打撃を受けている資本金10億円以下の飲食・宿泊事業者向けの金融支援を開始した。3年までは年金利1%で、4年以降も最大3%に抑える。注目すべきはこの支援策と合わせて、「民間金融機関との協調融資の原則」が取り払われたことだ。民間の金融機関が敬遠するリスクの高い案件について単独で融資する新しい組織を渡辺一社長の直轄というかたちで立ち上げた。

 これだけならコロナ禍、政府系金融機関が政府の要請に応えているという名分は成り立った。しかし、ワタミに120億円の資本支援策を決定したことについて、「DBJがワタミの実質的なメインバンクになることを意味する」(メガバンクの首脳)との指摘も出ている。飲食などに対する融資・審査のノウハウの乏しいDBJが融資する。「本来、日本政策金融公庫が扱うべき案件。DBJの渡辺社長が勢力拡大の好機と判断して融資を断行した」(政府系金融機関の元役員)。コロナ関連の新たな不良債権の山が築かれることを懸念する声も出ている。

 そして、「JTBは数百億円規模の出資を要請する」(金融筋)と伝えられている。DBJには議決権のない優先株を引き受けてもらうという。「JTBは主力銀行のみずほ銀行を筆頭に民間の大手銀行に水面下で支援を打診していたが、思うように進んでいなかった」(前出のメガバンクの首脳)という情報も広まっている。

 DBJは「補助金ではなく、あくまで融資。審査基準に合わなければ、融資を断る場合もある」と規律が緩む恐れはないとしている。しかし、融資の焦げ付きに備えて日本政策金融公庫に損失の8割を補填してもらう契約を有料で結んだ。つまり、DBJの貸し倒れが急増すれば、実質的に国民の負担になりかねないということだ。

DBJとはいかなる金融機関なのか

 DBJは大企業向けの資金供給やファンドへの投資に注力している。中堅・中小企業に直接出資するノウハウは乏しいとみられている。旧日本開発銀行(1951年設立)、旧北海道東北開発公庫(57年設立)が統合し、旧日本政策投資銀行が1999年発足した。2008年10月、特殊法人の日本政策投資銀行を解散し、DBJが設立された。資本金は1兆4億2400万円で全額政府出資である。社長は渡辺一氏。従業員数は1195人(20年3月末)。

 設立の目的は高度な金融上の手法を用い、長期の事業資金を円滑に供与すること。国の財政投融資計画に基づく資金を安定的に供与する、となっている。歴代総裁、社長には、小林中(初代日本開発銀行総裁)、社長には室伏稔・伊藤忠商事社長・会長、橋本徹富士銀行頭取など錚々たるメンバーが就任している。2018年に社長に就任した渡辺一氏は生え抜きである。

(文=編集部)