富士フイルムホールディングス(HD)は8月13日、6月29日付けで社長兼最高経営責任者(CEO)に就任した後藤禎一氏が初の決算発表を行い、2022年3月期の連結決算(米国会計基準)の業績予想を上方修正した。

 売上高は前期比14%増の2兆5000億円。従来予想(11%増の2兆4400億円)から600億円上振れする。営業利益は21%増の2000億円で200億円引き上げた。純利益は12%減の1600億円と減益だが、従来予想を300億円上回る。成長のための最重要分野と位置付けるヘルスケアが好調だ。M&A(合併・買収)で拡大してきた医療機器が増えるほか、バイオ医薬品の開発受託製造(CDMO)も伸び、先行投資が実を結び始めている。

 同時に発表した21年4〜6月期の売上高は前年同期比28%増の5826億円、営業利益は2.7倍の563億円だった。ヘルスケアの売上高は58%増の1742億円、営業利益は4.7倍の207億円。同部門が連結売上高の30%、営業利益の37%を占め、貢献の度合いはこれまでの最高となった。

 ヘルスケアで主力の医療機器などメディカルシステム事業は3月末に日立製作所から画像診断機器の買収(1790億円)を完了した。バイオ医薬品の開発受託製造(CDMO)も想定以上に伸びた。米国拠点での新型コロナワクチンの原薬製造などが寄与し、売上高は73%増の339億円となった。

 バイオCDMO事業は主力拠点の米ノースカロライナ工場での生産能力の増強などで、すでに6000億円を投資した。6月には欧米のバイオ医薬品の拠点増強に900億円を追加出資すると発表した。新型コロナワクチンや最先端医療分野の遺伝子治療薬などの原薬の生産能力を向上させる。稼働は2023年後半の予定だ。

事務機からヘルスケアに主役が交代

 24年3月期までの新中期経営計画では、3年間で設備投資や研究開発などに1兆2000億円の成長投資を実施する。最終年度の24年3月期の連結売上高は2兆7000億円、営業利益は過去最高となる2600億円を目指す。

 1兆2000億円のうち1兆円をヘルスケアなどの新規・重点領域に振り向ける。新しい社長となった後藤氏は「ヘルスケアが事業の核となり、ここで収益を上げていく」と強調した。新中計でのヘルスケア事業の24年3月期の売上高は8600億円、営業利益1030億円を見込む。事務機器関連を抜き最大の収益源となる。中計期間に積み増す営業利益1000億円のうち、470億円をバイオ・医薬品で稼ぐ計画だ。

 新中計で事務機からヘルスケア(医療)に主役が交代する。かつては写真フイルムが大きな収益源だったが、デジタルカメラの登場で需要が急減。2000年代からは事務機が主力事業になった。新中計ではヘルスケアを成長の柱に据える。

 日経平均株価が冴えないなかでも富士フイルム株は上昇基調を維持、8月16日には前週末比673円(8%)高の8649円まで上昇し、上場来高値を更新した。終値は541円(7%)高の8517円だった。

 翌17日も高値を更新。8月18日には一時、8965円(326円高)まで上げ、終値は8920円(281円高)と9000円に接近。株価上昇に弾みがついた格好だ。さらに9月1日、9211円(前日比143円高)と上場来高値をつけた。終値は9176円(108円高)だった。株価は大台替わりを演じ9000円台に定着したように映る。

富士フイルムビジネスイノベーションにブランド名を変更

 19年11月、米ゼロックスとの合弁会社、富士ゼロックスの米ゼロックスの持ち分(25%)を2500億円で買い取った。これで富士フイルムの100%子会社となり、57年間に及ぶ合弁事業はピリオドを打った。

 米ゼロックスとの資本関係の解消に伴い、ゼロックスブランドは使えなくなった。4月1日に富士ゼロックスは社名を富士フイルムビジネスイノベーションに変更した。中計では事務機器などのビジネスイノベーション部門の24年3月期の売り上げ目標を8200億円、営業利益820億円とした。DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進の波に乗りたいと考えている。

 複合機の世界シェアは9%。リコーやキヤノンなどに次ぐ第5位である。英語圏ではコピーすることを「ゼロックスする」という。ゼロックスの知名度は高く、これまで支払ってきた年間100億円のブランド使用料以上の有形無形のメリットがあったはずだ。

「米ゼロックスへの製品供給がどうなるかだ。これが富士フイルムのアキレス腱となることだってある」との指摘もある。現在は、富士フイルムの工場で生産する複合機を米ゼロックスに供給しているが、24年に契約の更新期を迎える。もしゼロックスが調達先を切り替えれば、工場の稼働率は一気に落ち込む。

 欧米進出はOEM(相手先ブランドによる生産)供給から始めることになる。自社ブランドで欧米に進出するといっても、無名のブランドで成功を収めるのは至難の業(わざ)だ。脱ゼロックスは大きな試練である。カメラや事務機中心からバイオ医薬品の大型投資をテコに総合ヘルスケアカンパニーへと業態を大転換する。後藤禎一社長兼CEOの正念場だ。

 長年親しまれてきたブランドを失うことが致命傷になることはゼロではない。

(文=編集部)