長らく日本電産の最大の経営リスクといわれてきた、創業者・永守重信会長兼CEO(最高経営責任者)の後継者問題に解決の兆しが見えてきたのだろうか。

 日本電産は6月22日、京都市内で定時株主総会を開いた。総会後の取締役会で、CEOを創業者の永守重信会長から関潤社長に引き継ぐことを決めた。永守氏は総会で「これ以上の人物はいない」と高く評価し、創業以来50年近く担ってきた最高経営責任を負うポストを関氏に渡す意義を強調した。

「関氏が期待通りやってくれなかったら、(目標とする)売上高10兆円をやれる人はいない」。株主総会後、関氏と並んで記者会見した永守氏はこう語る一方で、経営のバトンタッチの難しさを問われると「悩みではなく苦しみだ」と胸の内を明かした。

 永守氏は実際、後継者選びに苦労してきた。2013年に日本電産に入り、15年に袂を分かち、その後、ルネサスエレクトロニクスの社長に転じた呉文精氏、18年6月に社長に就任したものの関氏の社長就任に伴い副社長に降格となった吉本浩之氏などは、いずれも永守氏が求めた経営成績を残せなかった。吉本氏の社長就任を機に導入した集団指導体制について永守氏は「創業以来の最大の間違い」と評した。

 日産自動車から日本電産に移り、20年4月、社長COO(最高執行責任者)に就任した関氏について、「今度こそは立派な人物が見つかり、気持ちが安らかになった」と述べたが、前例を見ればわかる通り、永守氏の期待に応えられるかどうかは未知数だ。

「後継問題を株主から言われ続け、解決しようとしてきた」。21年4月22日に開かれたオンライン決算説明会の冒頭で、永守氏は関氏をCEOに昇格させる人事を発表した際に、こう述懐した。「経営手法も(自分と)似ており、決断力や人格などもCEOの後継者としてふさわしい」と関社長を持ち上げてみせた。そのうえで、「拡大する車載向けビジネスを関氏がいっそう成長させられると判断。これがCEOに推す理由だ」と説明した。

 日本電産は1973年の創業以来、創業者の永守氏の陣頭指揮で急成長を遂げてきた。有価証券報告書に記載される事業等のリスクとして有名なものがある。「NIDEC(日本電産)代表取締役会長である永守重信(氏)への依存に係るリスク」を明記されている。「永守氏の突然の離脱があった場合、NIDECの事業、経営成績、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります」。2021年3月期決算の有価証券報告書にはこう書かれている。

 関社長が「永守氏への依存度」のリスクを消すことができるかが喫緊の課題だ。消すまでいかなくても、減らせば御の字かもしれない。関社長は「カラオケですごい上手な人の後に出ていく心境」とカラオケにたとえながら、「私もうまいと思っている。一回聞いてみてほしい」と自信を示した。

 31年3月期に売上高10兆円の達成を目指す。脱炭素化への需要が見込めるEV(電気自動車)向け駆動用モーターの生産能力増強のために新工場を建設するなど投資を加速させる。26年3月に年商4兆円を達成することが一里塚となるはずだ。

鴻海と合弁でEVモーターを供給

「EV向けモーターが成長の柱だ」。関社長は7月21日開いた決算説明会で台湾の鴻海(ホンハイ)科技集団と合弁会社の設立に向け検討に入ったと発表した。鴻海が参入を計画するEV向け駆動モーターを新会社で共同で開発し生産する。

 米アップル向けのEV供給が取り沙汰される鴻海との関係を一段と強化する狙いが秘められている。日本電産は30年にEV用駆動モーターの生産台数を1000万台とする目標を掲げている。低価格を武器にEVに新規参入を準備している異業種を取り込む構えだ。7月21日に発表した中期経営計画では、26年3月期の売り上げ4兆円のうち車載事業だけで1兆円超を見込む。駆動モーターが1兆円のうち、3000億円程度を占めるとした。

 だが、記者会見では関社長の大風呂敷を広げる姿ばかりが目についた。この点でも永守オーナーそっくりである。「中国では45万円のEVが飛ぶように売れている」「ガソリンスタンドは加速度的に減る。特に、田舎ではそうだ。田舎の一戸建て住宅は充電器を設置する環境に適している」「自動車メーカーは24年後半あたりから自前の生産を大きく減らし、外注に頼るようになる。日本電産は部品はもちろん設備も内製化しているので圧倒的なコスト競争力がある上に急激な増産にも対応できる」など、強気の発言の信憑性に疑念が生じなければいいのだが。

最大の懸念は中国リスク

 21年4〜6月期連結決算(国際会計基準)は売上高が前年同期比33%増の4474億円、営業利益は60%増の445億円、純利益は67%増の334億円だった。売上高は四半期ベースで過去最高となった。車載向け事業は世界の自動車メーカーの工場稼働率が前年同期から回復したことを受け、売上高は72%増の977億円となった。新興のEVメーカーを中心に駆動モーターも採用が増えているという。

 22年3月期通期の業績予想は据え置いた。売上高は前期比5%増の1兆7000億円、営業利益は13%増の1800億円、純利益は15%増の1400億円を見込む。好決算を発表したにもかかわらず株価は下げた。8月17日の終値は175円安の1万2165円。年初来高値は1万5175円(2月16日)だから20%安の水準である。金額にして3010円下げた勘定だ。

 年初来高値は日経平均株価と同じ2月16日だった。4月以降の株価が調整した局面で、信用取引で買い下がった個人投資家が多かったが、上値が重かったため手仕舞売りが増えたためだ。それでも信用取引の買い残高を売り残高で割った信用倍率は、8月13日時点で14倍となお高水準にある。

 個人投資家に永守ファンが多いことは知られている。成長力に強い疑念を抱いているわけではなさそうだが、「何かおかしい」と違和感を持つ人が増えているのは事実である。中国当局による規制強化が気掛かりなのだ。中国の売上高が全体の3割近くを占める日本電産の業績への影響を懸念する売りがかさんだと分析するアナリストもいる。

 26年3月期の売り上げ4兆円、その先の10兆円企業へ脱皮するには、いくつもの大きな節目がある。これを乗り越えるために関CEOがまず、やらなければならないのは、実績をつくることだ。永守会長は「次回から決算発表にも出ません」と明言した。「日本電産は中国市場で生き残るメーカーになれることを証明してみせなければダメだ」(大手自動車メーカーの技術担当役員)。

“永守ロス”を乗り越えられるのか。

(文=編集部)