サントリーホールディングスの新浪剛史社長の「45歳定年制導入」発言が10日、インターネット上で物議を醸した。騒動の発端は時事通信が9日夜に配信した記事『45歳定年制導入を コロナ後の変革で―サントリー新浪氏』だった。同記事によると、新浪氏は9〜10日に開催されていた「経済同友会夏季セミナー2021」にオンライン出席し、「ウィズコロナの時代に必要な経済社会変革について『45歳定年制を敷いて会社に頼らない姿勢が必要だ』と述べた」という。10日午前には、「サントリー新浪氏」「コロナ後の変革」がTwitterでトレンド入りした。この報道に対し、SNS上では新浪氏への以下のような批判が殺到した。

「どんだけ氷河期に厳しいんじゃ…ってかこれ言ってる社長さんが即引退して体現しないとね」(原文ママ、以下同)

「45歳定年制を導入せよと主張している人が、もう60代らしいのだが、まずはご自身から実践をと言いたいものがあるな」

「45歳から年金まで資金提供して会社に依存しない生活をせよ,という太っ腹な案かと思ったら,全く逆。人をただ使い捨てにしたいというだけのくだらない話だった」

 また労働問題の専門家からも以下のような疑義が呈されていた。日本労働弁護団常任幹事・自由法曹団常任幹事の渡辺輝人弁護士は同記事に関して、以下のようにツイートしている。

「サントリーには割と良い企業イメージを持ってきたのだが、この社長になってからガラガラと崩れている」

「大体、極度の人手不足で、『女性が輝く社会』だの、年金支給開始70歳だの、外国人技能実習生だの、働き手の確保に躍起になっているというのに、自分のところだけ若くてバリバリ働けて賃金の安い人々をこき使って切り捨てようというのか。身勝手が過ぎる」

大体、極度の人手不足で、「女性が輝く社会」だの、年金支給開始70歳だの、外国人技能実習生だの、働き手の確保に躍起になっているというのに、自分のところだけ若くてバリバリ働けて賃金の安い人々をこき使って切り捨てようというのか。身勝手が過ぎる。

— 渡辺輝人 (@nabeteru1Q78) September 10, 2021

経済同友会関係者「抜き出し報道では?」

 新浪氏は1959年神奈川県生まれ。1981年に三菱商事に入社し、91年ハーバード大学経営大学院でMBAを取得。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2002年5月、ローソン取締役社長に就任。第2次安倍晋三政権下で産業競争力会議の民間議員としてアベノミクスを推進し、14年10月からサントリーホールディングス取締役社長を務めている。同年9月から経済財政諮問会議(現在の議長は菅義偉首相)の民間議員でもある。

 政府は少子高齢化対策として、年金などの社会保障の支え手拡大のために、企業に定年の引き上げなどを求めており、それに逆行する主張ともとれる。また大学卒業以来、不遇な雇用状況に置かれ続けてきた40代の就職氷河期世代にとっては承服し難い話だろう。

 一方、実際にセミナーを聴講していた経済同友会関係者は次のように話す。

「以前から新浪さんが主張していた“セカンドキャリアのあり方論”の延長で、“すぐに45歳定年制を導入する”というようには私は取らなかった。(報道は)前後の文脈やセミナーでのやり取りを書かず、抜き出しているのではないか」

 そもそも新浪氏は定年制や働き方改革などに関し、どのような考え方を持っているのか。また、新浪氏の「以前からの主張」とはどのようものか。その一端は経済同友会が、16年11月〜17年7月にかけて日経電子版に掲載した「みんなで描く みんなの未来プロジェクト」の広告特集で示されていた。フリーアナウンサー(当時)の小谷真生子氏との対談記事『<対談>小谷真生子氏・新浪剛史幹事「可能性は無限 若い人たち やってみなはれ」』(経済同友会公式サイトより)から、以下、引用する。

「新浪 終身雇用や年功序列といった従来の仕組みは徐々に崩れ、雇用の流動化が着実に進んでいます。流動化が進むということは、いい人材を採るために賃金を上げる必要が出てくる。同時に、賃金に見合った働きをしてもらう、つまり生産性を引き上げることを考えなければなりません。ただ、経営者の立場からすると、賃金と生産性は、ニワトリが先か、卵が先か、悩ましい問題です。

小谷 どちらを優先すべきでしょう。

新浪 今は賃金を上げることを優先すべきだと思います。それによってデフレからの脱却を確実なものにする。大企業の経営者は『ノブレス・オブリージュ』として率先して賃上げに動くべきではないでしょうか。ただし、ベースアップである必要はなく、賞与を含む年収全体で考えればよいと思います。

(中略)

小谷 日本は高齢化が急ピッチで進んでいます。シニア層が生き生きと働ける環境づくりも待ったなしです。

新浪 定年後も数十年の人生が待っているわけで、社員のセカンドキャリアをどう支援していくか、企業は早いうちから選択肢を用意すべきでしょう。50歳からでは遅すぎます。早くから第2の人生を考え始めれば、個人もスキルを磨いたり、交友を広げたりして、日々の生活や仕事への意欲が増す効果も期待できます」

 はたして、新浪氏はどのような意図で「45歳定年制」に触れたのだろうか。またサントリーは今後、どのような経営方針を取るのだろうか。経済同友会総務部の担当者は「夏季セミナーの内容は広報誌と合わせ、後日、ホームページに動画などで公開します」としている。

 いずれにせよ日本を代表する企業のリーダーであり新浪氏の発言は重い。今後の新浪氏とサントリーの動向に注視したい。

(文=編集部)