ユニデンホールディングス(HD)は11月19日に東京都中央区八丁堀のユニデン八丁堀ビル7階会議室で臨時株主総会を開催する。会社提案の議案は5件。第1号議案は定款一部変更の件。「監査役会設置会社」から「監査等委員会設置会社」に移行する。第2号議案の取締役1名選任の件が最大の注目点だ。

 武藤竜弘・代表取締役社長兼CFO(最高財務責任者)を再任する議案である。退任予定の取締役は西川健之・代表取締役会長、高橋浩平・取締役(ユニデンジャパン社長)、高橋純也・取締役の3人。南惟孝・社外監査役も退任する。監査役は監査等委員会設置会社になれば不要になる。

 この人事案が発表されると、証券界に衝撃が走った。ユニデンHDに対して9月22日、株主の投資ファンド、リムジャパンイベントマスターファンドから、西川会長と南監査役の解任を求める株主提案が出されたと発表していたからだ。会社側はファンドの株主提案を受け入れ、西川会長と南監査役の退任に踏み切った。白旗を掲げ、ファンドに全面降伏した格好となった。

リムジャパンは西川会長の責任を追及

 リムジャパンは介護のニチイ学館、東証の大家で知られる平和不動産への株主提案を出したことで知られる“物言う株主”の香港ファンド、リム・アドバイザーズが運用するファンドだ。リムジャパンの株主提案は3点。取締役西川健之氏の解任、監査役南惟孝氏の解任、剰余金処分(株主に1株当たり382円の配当の要求)だ。

 ターゲットは会長の西川氏だった。「一連の会計不祥事において取締役として責任を果たさないまま、上場廃止の危機に晒された前期において1億3500万円という高額の役員報酬を得ており、当社の経営トップとして不適任である」と糾弾している。西川氏が不正会計を見逃した責任、不正結果の調査報告書を日本語版に翻訳する際の「責任を不明瞭にする改変」に関する対応の問題、定時株主総会での株主提案書が創業者株主(藤本秀朗氏)に遺漏した問題などが、解任を提案する理由としている。

 リムの株主提案は目的を達したかたちとなったため、10月13日付で取り下げられた。会社側は10月13日、22年3月期の配当予想を前期並みの年210円とした。期初予想は50円だったが5月に100円に引き上げ、今回、再び増額した。「臨時株主総会を意識したもの」(関係者)という。10月14日、ユニデンHDの株価は3350円の年初来高値をつけた。

西川会長は創業者・藤本氏の義弟

 ユニデンHDは2020年に米国子会社で不正会計が発覚。19年3月期と20年3月期の決算を訂正した。不正会計処理の責任を取り、創業者の藤本秀朗氏が20年10月、取締役会長を退任した。

 空席の社長に専務だった西川氏が昇格した。藤本氏の義弟(妻の弟)。芝浦工業大学を卒業し、94年、ユニデン(現・ユニデンホールディングス)に入社。藤本氏が「血族に(会社は)継がせない」と考えていたため、西川氏は2008年、リコーに転じた。15年に持ち株体制に移行。持ち株会社ユニデンHDに社名を変更、事業会社ユニデンジャパンを設立した。この時、西川氏をユニゾンHDの取締役として呼び戻した。19年6月、専務に就いた。

 藤本氏は、西川氏の裏で実権を握ることを狙ったとされる。しかし、自分の思い通りに経営ができないことに嫌気がさした西川氏は、起死回生策に打って出る。藤本体制からの決別をうたう「新ユニデン宣言」を21年5月、公表した。

 これに藤本氏が激怒。西川社長に対して逆襲に出た。藤本氏は総会前、西川社長と武藤竜弘CFO(最高財務責任者)の選任案に反対票を投じるよう求める書簡を株主に送った。20年に発覚した不正会計処理の対応をめぐり、企業統治が進んでいないことを理由にあげた。

定時株主総会は株主の来場を拒否

 ユニデンHDは6月29日、定時株主総会を開催した。総会への参加は役員のみ。新型コロナウイルスから「生命と健康を守るため」として、総会への株主の来場を拒否した。ネット中継もなく、後日、結果が通知されるだけ。こんな前代未聞の株主総会が上場企業で強行されたのである。

【第2号議案:取締役6名選任の件(会社提案)】

氏名(役職)                  賛成率

・西川健之(社長、総会後代表取締役会長)     50.52%(可決)

・武藤竜弘(CFO、総会後代表取締役社長兼CFO)  82.43%(可決)

・高橋浩平(取締役、ユニデンジャパン社長)    55.10%(可決)

・高橋純也(取締役)               63.48%(可決)

・大里真理子(社外取締役)            85.87%(可決)

・関昌弘(社外取締役)              81.10%(可決)

※関東財務局に提出された臨時報告書による

 リムジャパンは監査役2人の解任を株主提案したが否決された。株主総会では会社提案の人事案が可決されたものの、西川社長の賛成率はかろうじて過半数を上回った。事実上の不信任である。そのため、武藤CFOが代表取締役社長を兼務する人事を決めた。西川氏は代表取締役会長に就いた。

 7月29日、藤本氏が代表を務めるフジファンドが株主総会での取締役選任の決議の取り消しを求めて訴訟を起こした。11月19日に開催される臨時株主総会で、6月の定時株主総会で選任された西川氏と高橋浩平氏、高橋純也氏が退任することを正式に決める。この結果、ユニデンHDの役員から創業家である藤本家の関係者がいなくなる。

不動産業に軸足を移す

 1966年の会社設立から2020年の退任まで、藤本前会長は55年間にわたって経営トップに君臨してきた。藤本氏がどう出るかが、今後のポイントになる。

 藤本氏は66年、米トランシーバー製造会社を買収、ユニ電子産業として立ち上げた。トランシーバーブームが去って経営危機に陥るとコードレス電話に乗り替えて再建したが、スマホの普及でユニデンの牙城であったコードレス電話市場が消滅してしまった。1999年、ユニデンは103億円の最終赤字に転落した。

 ここからリストラを実施。05年に中国工場で1万7000人の従業員によるストライキが発生。07年、中国の現地生産から撤退した。首切りは役員にも及んだ。10年から16年の間に、社長を含めて25人が任期中に退任した。14年の新年会に子会社の社員が出席しなかったことに腹を立てた藤本氏が、子会社の代表を即日解任したうえ、損害賠償訴訟を起こしたが敗訴するという事態も起きた。

 リストラにより、10年3月期末に1万134名いた連結従業員数は、21年3月期末で833人となり、9割以上の社員がユニデンを去ったことになる。98年3月期に1144億円あった連結売上高は、21年3月期に192億円へと激減した。不動産事業に軸足を移した。都心オフィスビルや賃貸マンションの売買で利益を出す経営だ。

 藤本氏の資産管理会社であるフジファンドは、ユニデンHD株の8.05%を保有する筆頭株主だ(21年3月期末)。ユニデンHDに対するTOB(株式公開買い付け)を実施して株式を非公開にしたり、買収先の資産を担保に借金し、その資金を元手に会社を買収するLBOの手法を採るのではないかという観測もある。

 ユニデンHDの不動産関連資産(簿価)は150億円前後で、同社株式の時価総額に匹敵する。投資ファンドと組んでLBOを実施すれば、買収は可能だ。見返りが大きければ、“物言う株主”は藤本氏と手を結ぶ可能性もある。

 藤本氏が「6月の定時株主総会決議は無効だ」とする訴えを取り下げるのか、そしてTOBを仕掛けるのかに、市場関係者は注目している。

(文=編集部)