三大大手牛丼チェーンの一角と称されることも多い「松屋」。同チェーンを運営している松屋フーズホールディングスは、2022年(3月期)第1四半期決算で売上高は225億円、営業利益は8億円の赤字と発表。売上高や客単価は前年同期を上回っているが客数は減少していた。

 そんな松屋が「牛めし」の価格を改定した。

 9月28日午後2時から並盛り一杯を320円から380円へ約2割値上げし、全国で販売を開始。値上げに併せて牛めしのタレやセットで付くみそ汁を改良したとのことだ。また、それまで関東などのおよそ660店舗では「プレミアム牛めし」を販売していたが、こちらは販売を終了し「牛めし」に一本化している。

 値上げの主な要因はアメリカやカナダから輸入している牛肉の高騰とのことだが、それはアメリカ産牛肉を使用している「すき家」、アメリカ産・カナダ産牛肉を使用している「吉野家」も同じはず。松屋には輸入牛肉高騰以外にも値上げの理由があるのではないだろうか。

 そこで今回は、松屋が牛めしを値上げに踏み切った要因や課題について、フードアナリストの重盛高雄氏に聞いた。

長年に及ぶ松屋の施策「プレミアム牛めし」の是非

「プレミアム牛めし」は2014年に、並サイズ税込380円で登場した商品。デフレの象徴とも呼ばれた低価格が売りの牛丼を、あえて高価格化させたことで話題となった。発売当初から限定感を強く出すことで品質以上の満足度を提供するといった戦略がうかがえていたが、終売するということは松屋内でこの「プレミアム牛めし」の施策は失敗だったと捉えられているのだろうか。

「この商品を今まで継続したことは正解といえますが、成果が上がったかというと否で、社内でも失敗だったという認識なのでしょう。価格が高くなった割に、それに見合ったクオリティは感じられず、特にお得感もなかった。消費者を意識できていなかったという印象が強く、私は社長の熱い想いだけで走っていた商品だという評価をしています」(重盛氏)

 プレミアム感を求めて足しげく店舗へ通う顧客もいたなかで、同商品は店員側のオペレーションも少し複雑だったと聞く。

「確かに、『プレミアム牛めし』は店舗によってオペレーションが違い、店員に煩雑さを与えていたと思います。加えて、松屋は調理場に鉄板が置いてあるのが特徴ですが、店員にとっては、これがそもそも負荷といえます。ですから『プレミアム牛めし』の煩雑さは、ただでさえ他チェーンよりも大変だった店員のオペレーションに、輪をかけて負担となっていたのではないでしょうか。ただここ数年、商品の見直しが多くなされるなかで、今回のように看板メニューを一本化し整理していこうという動きは、良い転機になるのではと思います」

松屋独自の「リニューアル」と消費者心理の乖離

 新「牛めし」もこれまでの「牛めし」同様にセットでみそ汁がついてくるが、その味わいも大きく改良が施されたと宣伝されている。こうしたアプローチは外食業界ではよくある方法なのだろうか。

「あまり見ない例なので、これもある種の話題づくりの一環でしょう。改良された新しいみそ汁を私も試しましたが、ダシの味がよく出ていましたね。みそ汁はほかのチェーンでは有料の場合も多く、セットでついてくる松屋は消費者目線では、味よりコスパ面でうれしいという印象が強かったんですが、味の点でも評価が上がったと思います」(同氏)

 実は今回のような“変更”は松屋では珍しいことではない。2019年には「オリジナルカレー」が突然終売となり、当時は期間限定メニューであった「創業ビーフカレー」をレギュラー化させ物議を醸した。こうした企業姿勢は重盛氏の目にはどう映るのだろうか。

「率直に言って、結局、新商品の投入やリニューアルを連発しているだけで、消費者にきちんとファンになってもらう作りこみができていない印象があります。すき家や吉野家といったほかのチェーンだと、商品をただそのまま売るのではなくて、“こういう方に食べてほしい”というターゲットが明確にあります。現に吉野家は糖質制限中の消費者へ向けた『ライザップ牛丼』を打ち出し好評を博しました。すき家もトッピングを季節によって変えることで主に家族連れに強くアプローチし、『ミニ牛丼』を三大チェーンで初めて出した際も、子どもや女性客をおもてなしするという姿勢を早い段階で見せていました。

 対して松屋は、とりあえずこういう商品を出してみました・やめました、というような安直な展開をしているケースが多いように感じます。商品が消費者の心に残り“あれ食べたい”と思ったときには、もう別のものに変わってしまっていては、結果的に客の足も遠のくのではないでしょうか」(同氏)

 さらに重盛氏は、松屋が抱える人件費面での収益構造の弱点も指摘する。

「松屋はFLコスト(食材費と人件費の合計)が落としきれていないんです。焼き物と丼物の品数を増やしている関係でどの時間帯でもワンオペができないゆえに、人件費がかさんでしまっています。収益構造的にあまりよくない状態にあることは間違いなく、今後、各自治体からの要請が緩和されることに伴い、吉野家の『吉呑み』やすき家の『呑みすき』などアルコール類がある程度提供しやすくなってきたときに

、競合他社との差が顕著になるかもしれません」(同氏)

 店舗での注文はタッチパネルで行う松屋。ほかにもカウンター越しの接客など、コロナ対策といった部分でいえば率先して取り組んでいたが、商品の販促といった面では情勢の動きとマッチしていなかったということか。

競合他社に差をつけられた松屋が逆転するための鍵

 では今後、松屋ではどういった展開が予想され、外食チェーンとしてどういった立ち位置となってゆくのだろう。

「松屋が生き残るには“ウィズコロナ”におけるデリバリーやテイクアウトに力を入れる必要があるでしょう。単純にデリバリーをこなすだけでは消費者の心にリーチできないので、自宅でお店の味が再現できるといった食体験のエンターテイメント化を打ち出せるといいのではないでしょうか。その一手として、今、外食チェーン企業の取り組みとしてよく目にする冷凍食品が鍵となるかもしれません。松屋は商品数も多いので、松屋にしかできない冷凍系のデリバリーという部分を強化してみるのもいいのではないでしょうか。

 また、いっそのこと“牛丼専門店”ではなく、今以上に“総合定食屋”的スタンスで間口を広くしていくという手もあるでしょう。たとえば、せっかく厨房に鉄板があるんですから、その強みを生かして焼き物系のメニューを強く推していく、などですね。もちろんそれは店員のオペレーションの複雑化を招き、人件費の高騰にもつながるかもしれませんが、そのリスクを背負ってでもすき家、吉野家と差別化を図るぐらいの断固たる決意が必要なのではないでしょうか。待つ時間に調理する鉄板の音や匂いを感じてもらえれば、手軽なイートインなのに本格的な“総合定食屋”といった立ち位置を確立できるかもしれませんよね」

 看板メニューである『牛めし』を改良し高価格化した松屋。これを機に業績をV字回復していけるのだろうか、今後に注目だ。

(文=A4studio)