10月28日、ファクトリー・オートメーション(FA)関連の部品等を扱うミスミグループ(ミスミ)が、2022年3月期の連結業績予想を上方修正した。純利益は前期比約2.1倍の352億円に達する見通しだ。現在、世界的なエネルギー資源や資材価格の上昇、および供給制約によって世界の主要企業の業績は明暗が分かれ始めた。その状況下、ミスミはFA分野で新しい需要を創出する力に磨きをかけている。

 ミスミのビジネスモデルは、もとは商社(流通)事業に重きを置いた。その後、同社は製造業に進出し、現在では物流とモノづくりのデジタル・トランスフォーメーション(DX)を強化している。業態が変化しても一貫しているのは、より短時間で、顧客企業の必要とするモノを届ける体制の強化だ。そうした取り組みが、世界的に物価が上昇する中で実力を発揮し始めたといってよい。

 今後、世界経済全体でデジタル化は加速する。それによって、半導体、スマートフォンなどのITデバイスや自動車、バッテリーなどの生産現場で、新しい制御機器や、そのメンテナンスに必要な資材需要が増えるだろう。ミスミが世界の生産活動に欠かせないプラットフォーマーとして持続的な成長を実現することを期待したい。

ミスミの業務の基礎はカタログ販売

 1963年に、ミスミは電子機器などを取り扱う専門商社として設立された。その後、同社はプレス金型用部品の発売に着手し、取り扱う商品のカタログを創刊した。このカタログの創刊こそがミスミと競合他社との差別化を支えた要素だ。

 ミスミがカタログを創刊するまでの金型市場では、標準製品という概念が乏しかった。金型を手に入れるためには、かなり複雑かつ非効率的な発注プロセスが必要だった。まず、顧客企業は必要とする金型を紙の図面に描く。その上で企業は数多くあるメーカーの中から金型メーカーを選び、発注数量、納期、料金などを個別に決めた。

 それに対して、ミスミは標準化された複数の金型を掲載したカタログを創刊し、需要に合わせて精密機械の部品などカタログに掲載する商品数を増やした。それによって、顧客企業は自ら発注先を選定し、納期などを交渉するわずらわしさから解放され、資材調達の効率性を高めることができた。ミスミの成長の基礎は、拡大し続ける商品群に、カタログという縦串を通したことにある。ミスミはカタログの創刊によって標準化された金型部品などの市場を創出したといってもよい。

 カタログを用いた販売によって成長を遂げた代表的な企業が、かつて米国最強の小売企業と呼ばれたシアーズ・ローバックだ。シアーズは、商業地から離れた所に住む農業従事者を対象に衣類や農具などを掲載したカタログを発行した。シアーズのカタログを活用することによって、農家は自らが必要とする道具や衣類を入手しやすくなった。個々の消費者(経済主体が)ケース・バイ・ケースで注文、購入していたものを標準化し、物流網を整えることによって新しい需要を生み出すことは、シアーズとミスミの両社に共通する。その後、シアーズは、世界経済のデジタル化への対応が遅れ、経営破綻に陥った。しかし、ミスミはIT先端技術を用いて事業運営体制を強化し、成長を実現している。

需要創出のための自社生産の強化

 2000年代に入ると、ミスミは商社に製造機能を結合し、ビジネスモデルを変革した。

 2005年にミスミは産業用機械、装置の開発・製造を行う駿河精機を買収した。その目的は、多様化、増加する顧客企業のニーズに的確かつ迅速に対応するためだ。その背景には、世界経済のデジタル化の加速がある。1990年代に米国ではIT革命が起きた。企業は設計と開発と生産を分離してソフトウェアなどの設計と開発に注力し、アップルやエヌビディアなど一般的にファブレスと呼ばれる企業が急速な成長を遂げた。

 その一方で、中国や台湾などでは、台湾積体電路製造(TSMC)や鴻海(ホンハイ)精密工業など、半導体や電子機器の受託生産を行う企業が急成長した。国際分業が加速する中で日本では電子部品や制御機器、工作機械などを生産するメーカーが競争力を維持した。

 その結果、国内外でミスミが取り扱う金型やFAに必要な制御機器、メンテナンスなどに必要な消耗品への需要が加速度的に増加している。同社が金型などを仕入れてきた協力企業が常に新しい需要に応えることができるとは限らない。迅速に需要に対応して収益を得るために、ミスミは駿河精機を買収し、国内外での生産体制を強化してプロダクト・ポートフォリオを拡充している。駿河精機に加えて、2012年にミスミは米国の金型部品メーカーを買収した。また、ミスミは中国などでも自社の生産能力を高めている。そうすることで同社は、グローバル規模で顧客ニーズに迅速に対応する体制を強化している。

 脱炭素を背景とするEV需要の高まり、IoT機器の導入などを通した経済と社会全体でのDXの加速など、世界経済の環境変化のスピードは増している。そうした変化によって、今後、生産の現場には新しい機器機が導入されるだろう。アライアンスと自社生産の強化によって、ミスミはそうした変化にしっかりと対応し、新しい需要を創出する力に磨きをかけている。その姿勢が同社の持続的な成長を支えている。

FAのプラットフォーマーとしての成長期待

 さらに、ミスミはカタログ販売で蓄積した顧客のデータとデジタル技術を結合し、特注の部品を、より短い時間で納入するオンラインプラットフォームを開発した。ミスミのプラットフォームでは、顧客が入力した3Dデータをもとにシステムが納期や価格、立体模型を提示する。微調整などを施した上で顧客が発注を行えば、ミスミの自社生産施設や協力企業の工作機械が自動で特注品を製造する体制が確立されている。

 以上からいえることは、ミスミには一貫した事業運営の理念がある。それは、製造現場で必要とされるモノを、より速いスピードで届けることだ。そのために同社はカタログを創刊し、製造業の分野に進出し、物流と製造業のDXにも取り組んでいる。ミスミは特定のビジネスモデルに固執していないといってもよい。

 ポイントは、同社経営陣が、より短時間での新しい需要創出にこだわるという価値観を受け継ぎ、それが組織全体に敷衍していることだ。それがあるからこそ組織全体で取り組むべき課題が共有されて買収戦略やITのプロの確保という人材戦略が実行され、成長が実現してきた。

 現在、世界経済全体で石炭や天然ガス、原油などの資源価格が上昇し、基礎資材の価格も上昇している。さらに、東南アジアでの感染再拡大などによって供給制約も深刻だ。そうした状況の中でミスミの業績拡大期待が高まっている。それを支える重要な要素は、新しい需要の創出による価格交渉力の向上だろう。さらに、ミスミはより短期間で商品を顧客に届ける体制を強化することによって、顧客との接点を増やし、強化し、より多くのデータを得ることによってさらなる成長を目指している。

 今後、ミスミを取り巻く競争環境は一段と激化するだろう。ミスミはこれまで以上に、アライアンスを通した取扱商品の増加、プラットフォームの強化、さらには自社の研究開発や製造技術の向上に取り組まなければならない。そのために経営陣がどのように組織の集中力を引き出すかに注目が集まるだろう。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

●真壁昭夫/法政大学大学院教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。

著書・論文

『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)

『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)

『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)

『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)

『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。