世界的なパワー半導体の需要拡大もあり、富士電機に対する期待が高まっている。パワー半導体とは、電気の供給や制御をコントロールするために用いられる電子部品だ。世界全体での脱炭素の加速を背景に、同社の自動車向けパワー半導体需要が拡大している。それに加えて、ファクトリーオートメーション(FA)関連の分野でも同社の収益は増加基調だ。

 今後、世界的なEVシフトの加速によって自動車に搭載される半導体が増え、パワー半導体分野で富士電機のビジネスチャンスは増えるだろう。同社経営陣はそうした展開を念頭に置いて車載半導体の供給拠点として重要性が高まるマレーシア工場の生産能力を強化する。それは同社の成長に欠かせない取り組みの一つだ。

 ただ、富士電機全体の事業運営を見ていると、本来の強みが最大限に発揮しきれていないように見える。根本的な要因は、重電メーカーとしての経営風土だろう。今後、同社がパワー半導体事業など世界的に競争力を発揮できる分野に選択と集中を進めることができれば、同社の成長期待は一段と高まる可能性がある。そのためには経営陣が過去の事業運営の体験や発想に固執することなくダイナミックに先端分野に経営資源を再配分することが必要だ。

富士電機のドル箱業務のパワー半導体事業

 富士電機は、電力の変換と制御(パワーエレクトロニクス)に関する技術を磨くことによって、主には重電や産業機器分野で成長し、半導体分野に経営資源を再配分してきた。その結果、現在の富士電機にとってパワー半導体は成長期待の高い稼ぎ頭の事業だ。

 それは各事業部門の収益の推移を確認するとよくわかる。富士電機の事業ポートフォリオは、パワエレ(インフラや変電装置などを手掛けるエネルギー部門と、FAシステムや鉄道車両関連製品を担当するインダストリー部門の2つが構成する)、半導体(パワー半導体など)、発電プラント(再生可能エネルギーなどを用いた発電システムの運営など)、食品流通(自動販売機など)の4分野から構成される。

 2019年3月期の第1四半期から2022年3月上期まで四半期ごとの事業部門別の売上高営業利益率の平均値を計算すると、半導体事業の利益率が最も高い。また、2019年3月期末と、2021年3月期末の営業利益額を比較すると、パワエレインダストリーと半導体以外の事業は営業利益が減少している。

 以上より、富士電機にとってパワー半導体事業は収益獲得の効率性が最も高い事業であることがわかる。特に、電力損失の低減と小型化に必要な車載用のRC-IGBTチップ供給において、富士電機は世界的な競争力を発揮している。それに次いでパワエレインダストリーが業績の拡大を支えている。言い換えれば、富士電機の業績拡大期待は高まってはいるが、重電分野が収益獲得に十分に寄与しているとはいいづらい。この点をどう改善するかが課題だ。

 これまでの事業運営を確認すると、富士電機の経営陣は重電分野などでの競争力低下に危機感を強め、構造改革に取り組んだ。その一つがマレーシア事業の業態転換だ。2021年7月にマレーシアにおいて富士電機はハードディスクドライブ(HDD)に搭載する磁気記録媒体(ディスク媒体)の生産を終了した。同社はマレーシアの施設を直径8インチ(200mm)ウエハを用いたパワー半導体の生産に転用する。

世界的なパワー半導体需要の拡大期待

 富士電機がマレーシアでのパワー半導体事業の強化に取り組む一つの理由、世界経済のEVシフトの急加速によって、パワー半導体など自動車生産に欠かせない半導体の需要が増えているからだ。

 現在の世界経済では、韓国と台湾に加えて、車載半導体の供給地としてのマレーシアの重要性が急速に高まっている。その要因として、2018年以降に激化した米中通商摩擦の影響がある。それによって、中国からマレーシアに半導体など電子部品の生産拠点が移管された。  

 さらに、2021年夏場の感染再拡大の影響も大きい。デルタ株の感染再拡大によってマレーシア政府がロックダウンを実施した結果、動線が寸断され、独インフィニオンや欧州系のSTマイクロシステムズ、米インテルなど半導体メーカーの工場操業が停滞し、世界経済への車載半導体の供給が急減した。その結果、世界の自動車生産が減少し、自動車一本足打法の日本経済にはマイナスの影響が及んだ。

 その状況下、マレーシアで多くの半導体メーカーが大型の設備投資を行い、汎用型の生産ラインを用いて生産される車載半導体などの供給力を強化しようとしている。その象徴が米インテルだ。インテルは最先端のロジック半導体分野では世界トップの台湾積体電路製造(TSMC)との競争を避け、車載半導体の生産能力強化に集中し始めた。同社はマレーシアで8000億円程度の設備投資を行い、半導体封止施設を建設する。富士電機がマレーシアでパワー半導体の生産能力を引き上げることは、EVシフトなどを背景とした車載半導体需要の増加に対応した意思決定だ。

 アセアン地域では、EV生産(車載バッテリーの生産およびEV車体の組み立て)のハブとなることを目指してタイやインドネシア政府が海外企業による直接投資を増やそうとしている。それによって、マレーシアからアセアン各国への車載半導体供給量も増える可能性が高まっている。また、富士電機は、国内でもパワー半導体の生産能力を引き上げている。それは、EVシフトという世界経済のゲームチェンジに対応するために重要な取り組みだ。

富士電機に求められる選択と集中

 富士電機が長期の存続を目指すために必要な取り組みの一つは、パワー半導体事業への選択と集中だ。言い換えれば、同社は重電メーカーとしてのビジネスモデルから、世界を代表するパワー半導体メーカーを目指すべきだ。

 脱炭素を背景に、EVや再生可能エネルギー利用のためのパワー半導体需要は拡大基調で推移するだろう。特に、高電圧に耐えられる炭化ケイ素(SiC)ウエハの生産に関して、わが国半導体部材メーカーの競争力は高い。富士電機はサプライヤーとの協力体制を強化することによって、より優位に車載向けのパワー半導体の研究開発を進め、新しい需要を創出することができるだろう。

 その一方で、世界のパワー半導体業界では競争が激化している。その一つがウエハ大口径化を進めて、より効率的にシェアを獲得しようとする半導体メーカーの増加だ。直径12インチ(300mm)のウエハに対応した生産能力を引き上げてシェアを拡大させるために、パワー半導体最大手の独インフィニオンはオーストリア工場の建設に約2000億円を投じた。第2位の米オン・セミコンダクターは半導体工場を買収した。独自動車部品大手のボッシュも300mmウエハを用いた生産体制を強化する。

 ビジネスチャンスの拡大と競争激化に対応するために、富士電機はこれまでの事業運営の発想を根本から改めるべき時を迎えた。パワー半導体分野で同社は、国内の自動車メーカーの要望に真摯に耳を傾け、要求される技術要件を実現して成長してきた。しかし、現在、世界全体で急加速するEVシフトに対するわが国自動車業界の遅れは鮮明だ。

 富士電機はサプライヤーとの関係強化や提携・買収戦略の強化によってパワー半導体分野での新しい需要を創出し、自ら世界市場を開拓しなければならない。そのために、事業ポートフォリオの内容を見直し資産売却や、生産の外注などを検討、実行する重要性は高まっている。富士電機が不退転の決意でパワー半導体事業の強化に集中することを期待したい。それは世界的な存在感を維持するわが国パワー半導体業界の成長を加速させることにもつながる。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

●真壁昭夫/法政大学大学院教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。

著書・論文

『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)

『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)

『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)

『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)

『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。