出版大手のKADOKAWAは、中国ネット大手の騰訊控股(テンセント)と資本業務提携した。KADOKAWAが第三者割当増資を実施してテンセントのグループ会社が300億円を出資。出資比率は6.86%で第3位の株主だ。調達した300億円をコンテンツ事業に充当する。

 KADOKAWAは世界市場に自社のIP(知的財産)を展開する戦略を打ち出している。2016年からはテンセントグループと中国で合弁会社を運営し、出版事業を中心とした協力関係を築いてきた。10月29日、インターネットニュース番組『ABEMA Prime』に出演した夏野剛社長はテンセントと提携した意図を次のように説明した。

「日本のIPは中国でも人気がある。特にアニメ作品のゲーム化にテンセントはものすごく関心を持っている。協業しながら中国国内でのIP展開をテンセントにやってもらう方針だ。(中略)中国市場は我々にとっても難しいマーケット。パートナーが必要だった」

 また、テンセントの出資を300億円に抑えた理由については「あまりに大きいと既存の株主が希薄化してしまう。今の株主の利害に影響しないところで決まった」とした。

 中国では日本のアニメがヒットしすぎないように規制されている。テンセントと組めば純日本製でなくなる。中国市場は自分たちの力だけで広げられる市場ではないという認識があることを夏野社長は認めている。

テンセントは日米両政府が警戒する“経済安保銘柄”

 株式市場がKADOKAWAの第三者割当増資に注目したのは、テンセントが“経済安保銘柄”だからだ。テンセントは百度、アリババとともに中国IT御三家といわれる巨大企業。テンセントの時価総額39兆円で中国最大。世界で第7位である。人口14億人の中国でSNSやゲーム事業を、ほぼ独占している。

 そのため、テンセントに対する米国の評価は厳しい。トランプ前大統領は21年1月、テンセントのアプリの米国内の取引を禁じる大統領令に署名した。民間技術を軍事転用する恐れがある中国への情報漏洩の防止が目的で「安全保障上の措置」とした。

 日本企業では楽天グループが21年3月、日本郵政、テンセントの子会社など計5社に第三者割当増資を実施し、計2423億円を調達した。テンセントの子会社は657億円を払い込み、出資比率は3.65%となった。4月16日に行われた菅義偉首相(当時)とバイデン米大統領との初の日米首脳会談で経済安全保障の協力拡大が主要議題となるとみられていたため、日本政府は米国側に、楽天Gに対するテンセントの出資で情報流出など安全保障上の問題が生じないようにすると伝えた。テンセントの楽天への資本参加が懸念材料にならないように、首脳会談の前に配慮したのだ。

 テンセントのKADOKAWAへの出資額は300億円、出資比率は6.86%。今回の出資についてKADOKAWAは「テンセント側が外為法上の免除要件を満たしたと確認済み」としている。中国では子どものゲーム利用に厳しい規制が敷かれている。21年、中国の国営メディアが人気オンラインゲーム「王者英躍」を「精神的アヘン」だとして名指しで非難した。これに対してテンセントは即座に声明を発表し、未成年者のプレイ時間の制限や12歳以下の課金禁止といった措置を講じるなどした。

 テンセントは中国当局の規制の網がかからない海外市場での展開を加速させている。中国国内ではネット以外の分野を開拓しようとしている。一方、日本では、20年5月にゲーム開発会社マーベラスに出資。21年、楽天グループ、KADOKAWAと相次いで出資した。

夏野社長の舌禍事件

 14年、KADOKAWAとドワンゴが経営統合し、KADOKAWA・DWANGO(現KADOKAWA)が発足した。角川書店創業家の角川歴彦氏は、紙媒体依存からの脱却を目指し、ドワンゴ創業者の川上量生氏に経営を託した。だが、ドワンゴの動画投稿サイト「ニコニコ動画」は他社の動画配信系サービスとの競争で苦戦し、川上氏は結果的に引責辞任する格好となった。

 19年、夏野氏がドワンゴ社長に就いた。夏野氏は東京ガスを経てNTTドコモに入社。ドコモの黄金時代を築いたiモードを松永真理氏らと立ち上げたことで知られている。ドワンゴに転じた夏野氏は動画ビジネスの競争が激化するなかで同社社長に就任。ニコ動のコスト見直しや不採算事業の整理などを進め、黒字転換した。

 その功績が認められ、21年6月22日、持ち株会社KADOKAWAの社長に就任したが、就任早々、舌禍事件を起こす。7月に出演した放送された「Abema TV」の番組内で、「子供の運動会や発表会が無観客なのに五輪だけ観客を入れたら不公平感が出てしまう」との意見について、「ピアノの発表会などと一緒にするアホな国民感情に、今年は選挙があるから(自民党も)乗らざるを得ない」と発言し、物議を醸した。この発言が反発を招き、7月23日に自身のツイッターで「番組の雰囲気に甘えたて極めて不適切な発言でした」と謝罪し、8月から10月までの3カ月間、役員報酬の月額の20%を返上した。

テンセントと提携しても株価は上がらず

 夏野社長の初年度となるKADOKAWAの22年3月期連結決算は、売上高は前期比4%増の2180億円、営業利益は14%増の155億円、純利益は22%増の117億円と増収・増益の見込み。海外事業や権利許諾の拡大、電子書籍事業の成長を背景に、出版部門の売り上げ・営業利益が大きく伸長することが寄与するという。

 夏野社長は「テンセントとの提携効果が出てくるのは3年後」と発言している。22年3月期の決算発表をメドに、新中期経営計画を策定。テンセントとの提携効果を中計に盛り込む。テンセントの持ち株比率は6%だが、今後、出資額を増やせば、KADOKAWA内で、大きな発言力を持つことになるかもしれない。KADOKAWAのアニメ製作委員会にテンセントが入る可能性もある。

 世界一のゲーム企業であるテンセントとの提携は、KADOKAWAにとってグッドニュースのはずだった。株価の刺激材料になっていいはずなのに、そうはなっていない。足元の株価は5910円(12月23日終値)。年初来高値の6960円(11月15日)より15%安い。

 米中貿易摩擦の先行きが不透明だからだ。テンセントの位置付けがどうなるかわからない。楽天グループの三木谷浩史社長は「テンセントはいろいろな企業に出資しており、楽天Gにとっても出資会社の一社にすぎない」としているが、この主張通りにいくかどうかである。

 バイデン政権は新疆ウイグル自治区での人権侵害に加担しているとしてドローン製造世界最大手DJIを含む中国の42企業・団体に対し、米国からの投資禁止の制裁を科す。DJIのほかスーパーコンピューターの大手、曙光信息産業、人工知能(AI)関連の曠視科技(メグビー)など8社を投資禁止の対象に新たに加えた。22年2月に発効する。

(文=編集部)