近畿大学(本部:東大阪市)の広報誌『近大グラフィティ』について、朝日新聞が15日に公開した記事『大学パンフに「美女・美男図鑑」 学内から批判、識者はどう考える?』が、大学関係者やその広報を担う広告代理店などに衝撃を与えている。朝日新聞は東大名誉教授で社会学者の上野千鶴子氏や近大教職員組合幹部、教員らの「(広報誌が)ルッキズムを助長している」などという見解をクローズアップし、「大学公式の広報としておかしい」という論調で報じた。一方、この報道を見た広告代理店関係者や他大学広報担当者らからは「学生に人民服を着せて写真を撮ればいいのか」などと反発の声が聞かれた。

 また近大の在学生からも「この報道だとオシャレを頑張ったり、芸能人を目指したりする学生は“学校の顔”にはなれないということなのか」などと困惑の声が上がった。

オシャレな学生を紹介するのは「ルッキズム」?

 同記事では、「現役学生の容姿を前面に出すのは、広報の姿勢としておかしい」「容姿を華々しく前面に出すのはルッキズムを助長させ、不快に思う若者もいるはずだ。大学公式の広報としてはおかしい」などと近大組合や学内教員の主張を紹介。上野氏の見解を以下のように紹介した。重要な部分なので原文ママで引用する。

「近畿大学の広報は時代錯誤で、今どきこんなことがあるとは信じられません。性差別への意識の高まりと共にルッキズム(外見差別)が問題になり、大学のミスコンが廃止されるなどしています。民間団体がミスコンをやる場合にも、公的団体が支援や後援をすることが批判されます。そんなご時世に、大学自ら公然とルッキズムに加担するような振る舞いをすることは時代の流れに逆行します。表面化するまでに、近大で内部のチェック機能が働いていないのでしょうか。内部でクレームが出なかったとしたら、大学の組織体質としても問題です」

どんな広報誌だったのか

 広報誌は同大の公式サイトから誰でもダウンロードできる。ストリートファッション誌『東京グラフィティ』などを出版するグラフィティ社とのコラボ企画だった。全国に所在する6つのキャンパスで撮影した教授や学生たちのスナップを中心に掲載。全体的にファッション誌風にレイアウトした計46ページで構成されている。スナップのコーナーでは、全身で個性を表現するような先鋭的なファッションの学生もいれば、プチブラ商品を自分なりにアレンジして着こなしている学生もいた。今回、朝日新聞が特に指摘している「近大美女図鑑」「近大美男図鑑」はその中の4ページだった。

 掲載されている学生たちが「美男」もしくは「美女」か、もしくは「オシャレ」か「そうでないか」は、読者それぞれの見方によって異なるだろう。

 広報誌ではそのほか、在学生のライフスタイルを時間割と必須グッズを紹介する「みんなの時間割&バッグの中身大調査」や、在学生の自宅をファインダーにおさめた「近大人ROOM GALLERY」、OBOGや学生起業家を紹介する「少年少女よ、大志を抱け!」、男女の教員と学生を一枚の写真におさめた「近大師弟COUPLES」、シンガーソングライターや五輪アスリートなどの多彩な活動をする在学生たちの“人物像”に焦点を当てた企画などを展開した。

「ミスマッチを防ぐために学生が学校を選ぶ必要がある」

 朝日新聞の報道では「美男図鑑」「美女図鑑」という企画タイトルに反応したようだ。このコーナーについて、近大教職員組合が4月18日に公式ツイッター上に投稿した「学生を『見せ物』としか考えていない、あまりにもひどい発想で広報をしている」との見解を紹介している。東京都内の有名私立大学のPR企画を担う大手広告代理店関係者は困惑する。

「学生たちが強制的に広報誌の撮影に参加させられたのなら、そうした指摘もあるでしょう。しかし、“ファッション誌的な見せ方”そのものを否定するかのような見解には同意しかねます。

 ファッションは、その人の内面や人となりを表す大切な要素です。広報誌を見る限り、学生たちが自分たちなりに自分を表現しようとしているように感じました。そもそも大学とコラボした『東京グラフィティ』はジェンダーや多様性をテーマにしたコンテンツも作成している媒体です。“オシャレでない学生”を見下したり、いじったりしているわけでもありませんよね。性的な写真を撮影し、性差別を助長しているわけでもないように思います。

 例えばパンプスやスカート、スーツの着用を学生たちに強要した上で撮影するほうが、よほど差別的だと思います。それとも、冷戦時代の共産主義国家のように人民服を着用し、全員が同じ髪型で写真に写ったほうがいいんでしょうか」

 別の都内の広告代理店関係者は大学広報の実情を説明する。

「大学が広報する場合、アカデミックな内容はもちろん必要ですが、それだけでは高校生は関心を持ちません。東大であれば常に生徒を選べる立場ですから、そうしたPRとは無縁かもしれませんが、一般の大学は、右も左もわからない高校生を振り向かせるためにいろんな角度から情報を出さないといけません。そこが、それぞれの大学の個性が出せる部分です。ファッション的要素で攻めるのも大学の個性です。

 仮に、ルッキズム的な建前で大学の広報を縛るなら、むしろそれを受け取る高校生(受験生)にアカデミックな関心を高めておいてもらわないと、どの大学も同じような情報で、関心はわかないだろうと思います。近大さんはそのために、高校生を惹きつけることができるインパクトのある広報で話題を作っているのだと思います。また、朝日新聞記事の有識者の見解には、『(大学案内は)保護者向けに情報を出すべき』などと書いてありますが、どこの大学も保護者向けのパンフレットはすでに作っています。しかし、あくまで選ぶのは受験生じゃないと、入学後のミスマッチを起こす可能性が増します。そこを間違えてはいけないと思っています」

労使対立の話題として学生を巻き込んだ?

 そもそも朝日新聞の報道は、同広報誌のどの部分を最も問題視しているのだろうか。「大学の公式広報誌が『近大グラフィティ』のような企画を実施すること」が問題なのか。「美男・美女図鑑」や「近大師弟COUPLES」という言葉を使った企画がジェンダー的に問題なのか。それとも「オシャレな学生を取り上げること」が問題なのだろうか。

 前述の上野氏は大学のミスコン廃止の動きを引き合いに出したうえで、「そんなご時世に、大学自ら公然とルッキズムに加担するような振る舞いをすることは時代の流れに逆行します。表面化するまでに、近大で内部のチェック機能が働いていないのでしょうか。内部でクレームが出なかったとしたら、大学の組織体質としても問題です」と批判している。

 埼玉県内の私立大学広報担当者はこうした主張に以下のように疑問を呈する。

「確かに学校運営に際してジェンダーの観点はとても大切です。ミスコンなど、セクハラを助長する可能性があるようなイベントは控えるのが筋です。性差別や人の見た目を批判したり、外見が『おとっている』ことを理由に、学校がパワハラやセクハラを助長したりすることはあってはなりません。一方で近大さんの広報誌には、多彩な学生が取り上げられています。男女の教員と学生が一緒に写真に写り、『カップル』という言葉を使ったらそれがアウトというのは、少し教条主義的ではないでしょうか」

 一方で千葉県内の私立大学の広報担当者は今回の報道の背景を次のように見る。

「今月6日、大阪府労働委員会は、近大が近大教職員組合との団体交渉を正当な理由なく拒否したとして、『不当労働行為』を認定し、再発防止文書を組合に提出するよう命令しました。

 今回の朝日新聞の報道は、組合によるTwitter上の投稿を端緒にしているので、労使トラブルの延長線上の問題として扱おうとした節があります。労使問題は労使問題として、大人たちが解決すべき問題で、学生を巻き込むことがあってはいけません。

 広報誌に載った学生たちは、日本を代表する大手メディアに真っ向から自分の存在を否定されたようなものです。社会には、(厳密に言えば)ルッキズムにあたるものはたくさんあります。この広報誌をやり玉に挙げる前に、すぐに是正すべきものがあるはずです。少なくとも学生たちにこんな風に嫌な思いをさせるのは、どうなんだろうと思いました」

近大学生「華やかな学生は学校の顔になってはいけないのか」

 知人が広報誌に掲載された近大総合社会学部に在学中の女性は次のように語る。

「この報道だとオシャレを頑張ったり、芸能人を目指したりする、”華やかな学生”は“学校の顔”になるべきではないと言っているように聞こえます。単純な疑問なんですが、それって逆差別じゃないんですか。朝日新聞の報道では、広報誌に掲載されたスナップの学生の顔にボカシが入っていました。プライバシー保護のためなのかもしれませんが、まるで犯罪を犯した人のようでした。

 広報誌に掲載された学生が、ネット上で批判にさらされることがなければいいなと心から思います。

 記事には、『本音の変化』ではなく『建前の変化』が重要だと書いてありました。では、テレビ朝日や朝日放送のアナウンサーさんで、男女を問わず、すごく太っている人はいるんですか。スウェットを着て出演している人っているんですか。今のテレビ局にトランスジェンダーのアナウンサーっているのでしょうか。

 新聞の購読を促す広告には『きれいな女性が新聞を読んでいる写真』が多いですよね。それはなぜですか?

 大人たちの『建前』の議論で振り回されるのは、学生です。学生たちにいろいろな主張や思想を強要したり、強制したりする前に、それぞれの分野で頑張っている等身大の学生を受け入れてほしいです」

近大「優劣をつけることなくフラットに紹介」

 当編集部は近畿大学総務部広報室に、広報誌の企画趣旨をあらためて聞いた。同広報室の担当者は以下のように説明した。

「本学の大学案内は、雑誌社とコラボレーションして制作しています。自分なりのファッションを楽しむ学生や、学生起業家、特徴ある活動をしている学生のほか、就職先で頑張っている卒業生など様々な形で自分らしく輝いている学生らを、優劣をつけることなくフラットに紹介するために、いろいろな切り口の企画を多数掲載しています。

 本学は15学部49学科を有する総合大学で、教育や研究の情報を一冊にまとめようとすると膨大なページ数になってしまいます。そこで、大学案内には情報のツールではなく、受験生とのコミュニケーションツールという役割を持たせており、教育や研究の情報はWEBサイトに詳しく掲載するという住み分けを行っています。

 学生数が多く、多様な学生と出会えることが本学の魅力の一つであるため、人物にフォーカスした大学案内を制作しており、受験生に大学生活への憧れや夢を描いてもらえるよう、多様な輝き方をしている学生たちを、分け隔てなく紹介することを編集方針としています」

(文=Business Journal編集部)